数日前の夕方、若干の謀議の後、謀議仲間といっしょに冷房がよく効いたガラスの部屋で暮れなずむ湖を眺めながら暑気払いのビールを味わいました
しかし帰り道、午後9時ごろ電車を降りますとふたたび猛烈な熱気に身を包まれてしまいました、衰えをしらぬ猛暑、汗が一気に噴き出し、これはたまらんなあと思いながら前進歩行に努めておりましたら、そうだ今日はわがファザーの命日であった、花ぐらい買って帰るべきであったなぁと気づきましたが、時すでに遅し・・・
若干の悔悟の念が生じなかったわけではありませぬが、すぐに悔悟の念は熱気に埋没、まあ明日でもいいかと思いながら歩いておりましたら一年365日24時間あいております北向き地蔵さまのお堂にさしかかりました
北向き地蔵というのはお地蔵さまが正確に真北を向いているお地蔵さまのことです、お地蔵さま研究家によれば、全国にゴマンとお地蔵さまがおられますが、正確に真北を向いているお地蔵さまは数百人しかいないそうです
ここでいつもながらお手数ですが写真をクリックしてご覧いただければ幸いです
お盆のせいか、お堂の出入口の両側に大きな提灯が飾られ灯がともされています、お堂のなかも明るく照らされています、ところが人影がまったく見えません、普段であれば、真夜中はともかく、このくらいの時刻であれば、まだお地蔵さまに向かって手を合わせて一心不乱にすがりつくように拝んでいるひとが、一人か二人は見かけるものですが、今日は誰もおりませぬ、やはりこの暑さにせいでありませうか
GGは、今を去ること十数年前、人探しのために初めてこのお地蔵さまのお世話になりました、そのときは初めてでありましたので、どうようにお参りしていいのか分からず、お参りに来ていましたお婆さんに尋ねてみました
「あのぉ・・・おばあさん、このお地蔵さん、人探しのお願いなんかでもきいてくれますかねぇ・・・」
「このお地蔵さん、ほんまにええお地蔵さんや、そやから何でもきいてくれはる、遠慮せんと何でも拝まはったらええのや」
まことにありがたきおばあさんのご宣託でありました、それ以来GGIはときどき気まぐれに北向きお地蔵さまにお世話になっております、しかしながらGGIの願い事というのは、このお地蔵さまをわざわざ訪れる大半の方々が背負っておられる生老病死にかかわる深刻な事柄ではありませぬ、前期高齢者後期に入ろうとしている人間の、発生源が身から出た錆であるところの、手前勝手なものに過ぎませぬ
久しぶりですのでお地蔵さまを表敬しておこうかと思ったのですが、なにしろお堂のなかも外も明るく照らし出されておりますので、何か誰もいない舞台にあがって衆人の視線にさらされるような気がして、若干躊躇いたしました。お昼間ならむしろお堂のなかは薄暗い感じしかいたしませんのでお堂のなかに入るのに躊躇するようなことはないのでありますが・・・・
かようなしだいで、今日はパスしようとお堂の前を通り過ぎようとしましたら、お堂の中から声がありました
「これこれ、そこを行くのはGGIではないか」
「あっ、お地蔵さま、お久しぶりでございます」
「お久しぶりだなんて、何を他人行儀のことを言っておる、今日はこの暑さのせいか、お参りに来る人がほとんどおらぬ、GGIよ、素通りなんて冷たいことはしないでちょっと寄っていきなさい、おまえの悩みを聞いてあげるから」
「ありがとうございます、でもお地蔵さま、悩みごとと急に申されましても・・・・」
「悩みごとが思いつかないと言うのか、まことにGGIはノーテンキなやつじゃのう、悩みごとはなくても後ろめたいことの一つや二つはあろう」
「後ろめたいことでございますか・・・そうですねぇ・・・まあ、実は後ろめたいというほどのことではありませぬが、今日はわがファザーの命日であることをすっかり忘れて某謀議の仲間といっしょにガラスの部屋で冷たいビールを楽しんでおりましたので、若干忸怩たるものがございます」
「そうか、それなら、ここで私に向かって手をあわせ、故人をしっかりとしのんでいきなさい」
GGIは素直にお地蔵さまのご指示に従い、しばし手をあわせわがファザーをしっかりしのんだのでありました
めでたし、めでたし
グッドナイト・グッドラック!