昨日、12月28日に日韓両政府が慰安婦問題で合意したことが報じられました、主な内容は日本側から10億円の拠出、安倍首相のお詫びと責任の意の表明、さらに「最終的かつ不可逆的解決であることの確認」とされています。この合意内容が果たして妥当なものであるか公正なものであるかについてはみなさんいろいろな感想をお持ちのことでありませう。
実はこの合意に至る直前の一連の過程に関する報道で「今年内に妥結」云々と報道されていることにGGIは奇妙な感じがしていました。「妥結」というのは例えば賃上げ交渉や貿易などに哄笑でも「妥結」というような使われ方をしており、単に利害を異にする当事者の間の交渉に関して使われるの一般的だからと思われるからです。
えっ!慰安婦問題に交渉ってそんな軽い問題なの、どちらが正しいかを争うようなものではない対立点についていろいろ駆引きしてまあこの辺なら、たがいに不満はあるけどいいことにしようか、というのが「妥協」「妥結」云々の意味だと思うのですが、そんな類の問題ではないのに日韓が「妥協」するわけ?と感じたのです・
歴史的なこれ以上にないくらいの深刻な人権問題を解決するための交渉だから、互いに自分の都合を優先させることにこだわらず、人権という視点から何が真に公正で本質的解決であるのかを真剣に話し合うのじゃないの?その結果一致点を見出すことが慰安婦問題の交渉ではないのかとGGIは思い込んでいたのですが、報道の内容を観察していますと、どうやらそうではなかったようなのです、どうやら互いの政治的都合・事情に最も重きをおいた、単なる妥協による妥結とたいして変わらない、賃上げ交渉並みの妥結であったようです
要するに、互いに自国の国内事情、抱えている難しい課題、首脳自らの政治基盤維持・強化などを最優先に考慮して、このあたりで手を打とうということで「妥結」したに過ぎないようなのです。
GGIが考えますところ、11月の韓首脳会談の内容はおおむねこのようなものです。
「大統領、おたがいに政権維持のために大変な時期ですね。韓国はあいかわらず経済が思わしくありませんし、そのうえ来春には総選挙、2017年には大統領選ですね。私どもも臨時国会をすっぽかしてようやく安保法制反対の動きに沈静化の兆しが出てきたと思ったら辺野古の基地問題です、これは危機的状況であり対応に失敗すれば政権の座が危うくなります、そのうえ来年に参院選、これに圧勝できなけば改憲はユメのまたユメ。このように互いに大変な時期ですから、互いにもういい大人なのですから、グダグダ言い合っているのは、このへんでいいかげんに切り上げて、一気に年内の合意ということにしませんか、そうすれば大統領も私も、政権の座の強化に浮揚に大きく役立つではありませんか」
「おっしゃる通りです。全く同感、異存はありません。結局、私たち二人の利害はまったく一致しているということになりますね!」
「おっしゃる通りです、それこそがオトナの理解の仕方です、それこそが政治的に成熟したオトナの付き合いというものです!」
「同感です、とろこでどんな条件での合意をお考えなのですか?ざっくばらんにおっしゃってください」
「では単刀直入に申しあげましょう。まず日本としての第一条件は合意するのはいいけれど、その合意を最終的合意とすることです。つまり合意後はこの問題を決して蒸し返さないことが必須の条件です」
「あらそういう厳しいことを必須条件になさるなら、私のほうも絶対に譲ることのできない、最低限の条件を申し上げます。それは総理が日本の代表して、明確に謝罪の意を表明し、責任を認めることです。この点の合意がなければ、他の点でどのような合意に達しても、合意自体が韓国政府にとっては無意味に帰するからです、おわかりですか、最終的解決を望まれるなら、この点をしっかりご理解ください」
「お気持ち、お立場はよくわかります、ではどうでしょう、最終的合意とするかわりに私が思い切ってここで、日本が謝罪と責任の意を表明するというこではどうですか、ただし法的責任ということになると、新たに法的な問題が派生しかねませんからとても無理、単に《責任》ということならなんとかなりますが」
「わかりました、ほんとは法的としたいろころなのですが、やむを得ないでしょう、ではおおむね、おっしゃった線で行くことにしましょうか。そうすればお互いに自国民の大半に顔向けができるのではないでしょうか」
「まったく同感です、ではその線で・・・」
「ちょっとお待ちください、もう一つだけすが、重要な問題があります・・・」
「いま基本線には同意なさったのですから、もうあまりややこしいこと言わないでくださいよ」
「難しいことではありません。謝罪と責任の意の表明という言葉だけでは、不十分なのです、その言葉の具体的な何らかの裏づけがなければ、私が国民から非難を受けかねません。ですから何等かの形で・・・」
「はは~ん、たとえば賠償金ということですか?それはちょっと無理、それを認めると法的責任云々ということになってしまいますからね、そんなことになると支持者たちがうるさいですから・・・」
「支持者がうるさいのは私も同じ、ご同情申し上げます、でもご安心を。必ずしも賠償金にこだわっているわけではありません。あの村山首相時代の「アジア女性基金」のような形であってもよいのです。ただし有志の国民のおカネということではなく日本政府として公金を支出するというのであれば」
「わかりました。金額が過大でなければなんとかなるでしょう」
「総理、ありがとうございます。ではこれらの条件が早急に具体化し年内合意に至るように互いに部下に支持することにいたしましょう」
「大統領、ありがとうございます、ぜひそうしょうましょう」
「こちらこそ・・・でも総理、これって結局は政治的談合ではございませんこと?」
「ハッハッハ、大統領、そのような《政治的リアリズム》を解そうとしない幼稚なガキみたいなことおっしゃってはいけませんよ、大統領はリッパなオトナでいらっしゃるのだから」
「そうですよね!」
勝ったのはどっちか?もちろん日本でありませう、「妥結」云々などと言う場合は力関係で強い方が勝つのがほとんどだからです、10億円なんて賠償金でなけばお安い御用です、それに責任や謝罪の言葉なんてわずか数行の簡単なものであり、正確な意味や具体的な意味はきわめてあいまいというかきわめて空疎、しかも合意以後は韓国は一切口出し出来ないのですから今やどうにでもなります。これが日本側の勝利でなくて何でありませうか?
国会や報道の場で責任と謝罪の弁について問われても「君、くどいね、合意内容の通りだ」と言っていればいいのです。アベ君はどうしても「侵略」を口にしたくなかったものですから、いつも「村山談話の引き継ぐ」などと述べるだけで押し通しいましたが、今度はできる限り《お詫び》や《責任》という言葉を口にしたくないでしょうから同じことになる可能性は大でしょう。このことを予想させるかのように岸田外相は会談直後にはやくも「法的責任を認めたのではない、10億円は賠償金ではない」と言い放っています
それに、この合意内容はまったく奇妙というか人喰ったものです。合意と言いながら、これ以上、今後は文句を言ったりするなよという条件が入っているからです、通常、交渉事でこのような内容を付け加えたりすることはまずありません。合意はするけど相手を信頼していないから、このような言語道断のことをしたのですが、わざわざこのような条件を付けなければいけないのは、合意内容に実際には相手側が決して納得していないことを自ら白状しているのに等しいのす。なせなら、相手が納得していればこのような合意内容を付けくわえることはまったく不要だからです
GGIは朝日新聞を読んでいますが、朝日新聞の報道ぶりは「多少問題があるかもしれないがほぼ全面的に合意を歓迎、支持」といった感じです、編集委員の箱田哲也なる人物が一面で「だが、これはスタートに過ぎない。合意はあくまでも政治的決着(政治的談合を上品にいうとこのような表現になります!)しただけだ・・・・肝心なのはこの合意という器に「たましい」を入れること」と書いていましたので、なかなかエエこというやないか、「たましい」入れるというのは真の公正かつ本質的な解決に向けて合意内容をさらに具体的に深化させることであろうとGGIは一瞬思ったのです
が、このあとの文言の内容がきわめてあいまい、いいかげんでありました。「産声が挙げたばかりの合意はこれから多くの試練にさらされるだろう・・・それを乗り越え中身を充実させるのは政治家だけではない。どんな隣国関係をつくるのかを考えるのは市民である」。これではどうにもなりませぬ。こんな抽象的なことを曖昧に述べても何の意味もありませぬ。
今まず何よりも必要なことは、そのようなこと以前に、合意内容がほんとうに深刻な人権問題を解決するために公正なものであるのか、実効性を持つものであるかをキチンと考え論理的に検証することだとGGIは考えるのですが、朝日さんはそれがまったくできておりませぬ。
しかし、朝日の社会面で国際基督教大学の先生一人だけが「本質的解決に程遠い合意だ」としていました。この人物はどのような意味でこういったのかは短い記事なので定かでないのですが、GGIは「程遠い」ことに同意します。どうしてでありませうか、それは「程遠くない」本質的解決への道筋はすでに国際社会において明確に示されているからです。国連の人権関係の機関による日本政府への公式の勧告がそれです。
ところが、さまざまな勧告が慰安婦問題についてすでに行われているにもかかわらず、その内容についての言及が、このたびの合意報道に際しても、これまでの慰安婦報道の際してもほとんど行われていないのです。いったいどうしたことでありませうか。GGIは首を傾げてしまいます。これは他紙の報道内容を確認したわけではないのですが、おそらく朝日に限ったことではないものと思われます。
これらの勧告内容を知っていれば、このたびの合意が「本質的解決に程遠い」ことは一目瞭然であるとGGIは思います
以下に二つの勧告例を示しておきます。いずれも国連自由権規約委員会による日本政府にあてた勧告です
自由権規約(市民的政治的権利に関する国際規約)委員会 最終所見 2008年 (CCPR/C/JPN/CO/5)
22・・・当該締約国(日本政府)は「慰安婦」制度について法的責任を受け入れ、大半の被害者に受け入れられかつ尊厳を回復するような方法で無条件に謝罪し、存命の加害者を訴追し、すべての生存者(survivors)に権利の問題として十分な補償をするための迅速かつ効果的な立法・行政上の措置をとり、この問題について生徒および一般公衆を教育し、被害者の名誉を傷つけあるいはこの事件を否定するいかなる企てをも反駁し制裁すべきである。
2014年(CCPR/C/JPN/CO/6)(国連自由権規約委員会)「慰安婦」に対する性奴隷慣行
14.・・・締約国(日本政府)は、以下を確保するため、即時かつ効果的な立法的及び行政的な措置をとるべきである。
(i) 戦時中、「慰安婦」に対して日本軍が犯した性奴隷あるいはその他の人権侵害に対するすべての訴えは、効果的かつ独立、公正に捜査され、加害者は訴追され、そして有罪判決がでれば処罰すること。
(ii) 被害者とその家族の司法へのアクセスおよび完全な被害回復。
(iii) 入手可能なすべての証拠の開示。
(iv) 教科書への十分な記述を含む、この問題に関する生徒・学生と一般市民の教育。
(v) 公での謝罪を表明することおよび締約国の責任の公的認知。
(vi) 被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての試みへの非難。
http://wam-peace.org/ianfu-mondai/intl/un/
いかがでしょうか。これらの勧告内容のほとんどがこのたびの合意内容に含まれていません。
朝日の記者さんたちも、これらの勧告内容を当然知っているはずですから、なぜこれらの勧告に言及しつつこのたびの合意について報じ論じなかったのでありませうか?こうした疑問はおそらく他の大新聞にも共通しているでありませう、GGIは理解に苦しみます、アベ君批判でにらまれることを恐れたのせうか・・あるいはすっかり忘れていた、まったく視野になかたどでも言うのでせうか、とにかく、日本の大マスコミのこの劣化ぶりにGGIは愕然といたします
蛇足ですが、政府はもちろんのこれらの勧告内容をよく知っています。でも安倍内閣は勧告に従うつもりはまったくありません。その理由は、以前にも記しましが、人権問題をはじめとした国連に様々な機関からの諸々の勧告に関して、安倍内閣は「勧告内容を遂行する義務はない」とする閣議決定をすでに行っているからです。この閣議決定、ほんど知られていないようですが集団的自衛権容認の閣議決定に負けず劣らず驚愕すべき無謀とも言うべき決定です。国際社会に堂々と背を向ける決定です
日本の大学で学んだことがあり日本の近現代文学にも詳しい韓国の女性学者、朴裕河(パク・ユハ)氏はその著書「和解のために」で述べています。
{被害者が示すべき度量と、加害者が身につけるべき慎みが出会うとき、はじめて和解は可能になるはずである」
合意に達したとはいえ、和解への道はまだまだ半ばというべきではないでせうか
今日の写真は昨日の朝刊を撮ったものです、わざわざクリックされるにおよびません
グッドナイト・グッドラック!