GGIは深い眠りからさめ、われに返った、ここはいったいどこだろう?ボクは誰?
目の前に、第二の男の大きな顔が迫っていた
「99号、お目覚めですか、オレが誰か分かるか?」
「・・・誰かって?・・う~ん・・・閻魔さまですか、それとも・・」
「まだ寝ぼけていやがる、バカたれ!オレだよ、オレ、第二の男だ、おい目的地についたぞ、さっさと起きろ、いよいよミッション敢行だ、しっかりしろ」
「ミッション?・・・そんなことより琵琶湖の水、まだ漏れ出ていないか?・・・それにオレ、まだ朝めしも食ってないんだ・・・」
「朝めしには足がない、だから逃げていくわけじゃない、あとにしろ、さっさと起きて車の外に出て指示に従え・・・おい99号、ズボンが濡れてるぞ、怖くてオシッコでもチビッタのとちがうか、みっともないなあ」
GGIはあわててズボンを隠すためにベンチコートを身に着け、車の外に降り立った、ここは目的地の小学校、この湖北の町の最北端にある小学校の校庭だった、校舎の背後には山が迫っている、山ひとつ向こうは福井県敦賀市だ
校庭には第一の男、第二の男、それにモニカも強い風に吹かれながら立っていた、冷え切った肌を切り裂くような外気がベンチコートの裾から全身に入り込み、GGIの眠気を追い払った、ちらついていた小雪はおさまっていた、空はあいかわらず鉛色だった
まったく寒くてやりきれないなあ、オレの人一倍あたたかき思いやりに満ち満ちている心もこれでは凍り付いてしまいそうだと空を見上げた、すると、天空から声がした、GGIが懇意にしているあの神さまの声だった
「これヨッサリアンよ、ではなかった、コードネームが99号であるところのGGIよ、おまえの話は長いんや、いつもみんなに注意されているだろう、あのモニカにも。《GGI、あんたのダラダラした長ったらしい文章なんて誰も読まへんよ、わかってる?GGI、文章はせいぜいA4一枚に収まるようにしなさい、それがデキル男というものよ!》と言われているだろう、だからもう無駄口はぐるぐる巻きに封印して冷凍庫に放り込み、これからすぐに本題、ミッションの話に移りなさい」
この声を耳にして正真正銘純正シティボーイであるとGGIも認める、穏やかなる人物、第一の男が話しはじめた
「みなさん、今日は寒いところごくろうさま、GGIも遠路ありがとうございます、心から感謝申し上げます、では神さまのお声もありましたので、今から本日のミッションに関するブリーフィングを行います、手短に説明いたします。本日のミッションの中心的内容は、この小学校で午前9時半から行われることになっている、この市の教育委員会と市の原子力防災部局による出前授業に際しまして、我らが優秀なるエージェント、99号に小学生として参加してもらうことです、残りの私たち三人はオブザーバーとして授業を参観したします」
「99号はなぜ優秀なる自分が小学生の役目を果たさなければならないのか、オレの知能は小学生程度かと強い不満をお感じになっているものと推察いたしますが、これまでの経過説明をお聞きになれば、納得していただけるものと確信しております、もちろん、99号が納得されなくてもミッションを強行いたす所存です、99号がどうしても命令に従わない場合は、彼が今日メタセコイア街道で恐怖のあまりオシッコをちびったと世間に向けて大宣伝いたします、この点に関しましてはすでにニャーニャの了解を得ております」
「ではこれまでの経過について手短に説明いたします、みなさん、昨夏、私たちがこの市内の小学校や幼稚園のグランドなどで環境放射線の測定を実施したことがあることを御記憶のことと思います、その節は99号にもたいへんお世話になりました、あの測定に際しまして、一校だけ測定することを拒否した学校がありました、それがこの小学校です、文字通りの小さな学校です、校舎はごらんのとおり大きいのですが生徒さんはたったの二十数人しかおりません、過疎化のためです、他の小学校では何ら問題なく測定させてもらうことができたのですが」
「拒否した理由は定かではありません、この小学校は市内で一番敦賀原発の近くに位置しています、敦賀原発から30キロ圏内にあり、また大飯や美浜の原発からも20~30キロの圏内に位置しています、父兄などから何か心配する声があったとか、あらぬ憶測が飛び交ったり、おかしな風評が立っては困るという声があったのかもしれません、でもなぜ断ったのか真相は不明です」
GGIが第一の男の話に一心に耳を傾けていると、となりにいたモニカの左手がさっと伸びた、手にはティッシュが一枚握られていた
「99号、鼻水!」
「どうしたんですかモニカ?静かに話を聞いてください、すぐすみますから、えっと、どこまでお話ししましったけ、ああ、そうです、それで
これだけであれば、たいして問題ではなかったのですが、実はそのあと、昨年、秋に入ってから奇異なことが一つ二つあったのです、その一つは校庭に新たに土を入れたことです、いや入れ替えたのではありません、校庭が荒れていて凸凹だらけになっているので市内の土木業者がサービスで、つまり無償で行ったとのことです、業者はひごろ市内の方々にお世話になっているからと話しているそうですが・・・でもみなさん、これは何かヘンだとは思われませんか、ひょっとしたら小学校側が、私たちが測定を行う以前に、自前で放射線測定を行ったところ、思っていたよりも高い値が出たりしてあわてた、それで・・・などと疑えばきりがないのですが・・・とにかく校庭に新たに土を入れたほんとうの理由はこれまでにところ定かではありません」
「これだけあればあまり問題にすべきではなかったかもしれないのですが、ところが実は、この小学校、昨年10月に入ってから、とつぜん放射線についての出前授業を行っていたのです、このことは教育委員会も市の防災担当者もまったく把握していませんでした、そんな授業が行われたことなんかまったく知らなかったのです、第二の男と私が指摘するまでは・・・私たちはこの小学校区の地域の方からこの話、出前授業が行われていたことを知ったのです」
「形の上では小学校側が自主的にどこかに依頼して出前授業を行ったということになっているのですが、この件に関して第二の男と協力して精力的に諜報活動、すなわち情報収集を行ったところ、驚くべき事実が明らかになりました」
「いえスパイを行ったというのではありません、現代の諜報活動は安物のスパイ映画のように隠し持った超小型カメラで秘密文書を盗撮するといったアホらしいものではありません、最もスマートで知的なものであります。今日、諜報活動の最も強力なツールは公文書の情報公開請求という手段です、私たちはこの合法的な手段により情報を入手したのです、入手した公文書のひとつをこれから紹介します、その一部を読み上げます、出前授業を依頼する申込書です、最初に申込書を用意した者、すなわち出前授業を提供する者にによる文章が記されています」
《「どこまで知ってる?放射線」出前授業:開催趣旨:放射線に関して国民の関心が高まっています。放射線は目に見えない、怖いというイメージがあり、風評被害や食物の出荷制限など、国民生活にも少なからず影響を与えています。そこで放射線に対する知識についてより正確なものを小中高校生に習得させるため、「理科」及び「総合的な学習の時間」等の授業を利用した出前授業を開催します。放射線に対する知識の習得、思考力・判断力を育成するための教育を展開することにより、放射線に対する理解の促進を図ります》
「この文章の下に《エネルギー環境教育情報センター行、FAX:03-3593-0930
》と記されています。このまえがきの文章、何かいちおうもっともらしく思われるのですが、放射線を怖く感じるのはイメージの問題であるかの如く言っているかのようでもあり、何を意図したものでるのか、もうひとつ具体的にはっきりいたしません、それに主催団体の名前もあまり聞きなれないものです。しかしながら、申込書の一番下に記載されている「お申し込み先」を見ますと主催団体の正体がわかります、そこには《東京都港区西新橋 1-8-15:公益財団法人 日本生産性本部・エネルギー環境教育情報センター 担当「どこまで知ってる?放射線」係》と記されています」
「みなさん、もうお分かりでしょう、主催者は実は日本生産性本部なのです、財界系のシンクタンクと言ってよいでしょう、この団体、公益財団法人と称しながらも、あのビレッジの活動を強力に後押ししている大きな組織というか、いやむしろあのビレッジの中核組織のひとつであると言った方が適切であるかもしれません、ちなみに、この団体、2006年~2010年の5年間に国による原子力広報事業を約8億円受注しています」」
「このことから3・11以後、ビレッジの動きは素早いものであるということがよくおわかりになると思います、油断大敵なのです、私たちが、普通の市民が、何も知らないうちに、このような小中高校生を対象とした「出前授業」に名を借りて、ビレッジはその活動を全国的に展開しているのです」
「ついでに申しあげれば、別の情報によりますと・・・これも合法的に入手したものですが、この小学校で行われた出前授業の講師は、なんとあの敦賀原発に二十年以上勤務しているという人物であったことが明らかになりました。講師の他にこの主催団体の職員一人が同行していました」
「このことをお聞きになればみなさん、いったいどのような内容の出前授業が行われたの、容易に想像がつくことでしょう、このため第二の男と私は、ニャーニャにこのたびのミッションを最終目標とする計画を企画し実行に移すよう進言したのです、すなわち、この小学校において市の教育委員会や市の原子力防災部局の協力のもとに適性かつ公正な内容を有する《やり直し出前授業》を実施させることがこのミッションの核心なのです、ニャーニャもことの重大性をすぐに理解し、賛成してくれました」
「えっ?99号、何かおっしゃいましたか、話が長い・・・あんたにだけは言われたくないなあ・・・いや独り言です・・・そうですか、それならこの続きは《重大ミッション?その7》でお話しすることにいたしませう」
(よろしければ写真をクリックしてご覧くださいませ。ミッションの目的地である小学校の校舎の写真です)
グッドナイト・グッドラック!