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■『日本の近代6 戦争・占領・講和』五百旗頭 真(中央公論新社2001年)を読んだ。
既に何回も書いたことを繰り返すが、日本の古代史から近現代史まで、広くそして深く学ぶことはもう無理だから(と決めてかかる)、古代史と太平洋戦争に対象を絞って、関連本を読もうと思っている。
太平洋戦争関連本は、戦争の諸資史料を紐解いて、その推移を俯瞰的に記述するものと、個々人の戦争体験を記述するもの(本人により綴られたもの、本人に取材して書かれたもの)に大別されるように思うが、そのどちらも読んでいきたい。
後者で、本人によって綴られたものには、例えば藤原ていの『流れる星は生きている』(過去ログ)がある。この本には感銘を受けた。これは名著。多くの人に読んで欲しいと思う。また、取材に基づいて書かれたものには、例えば辺見じゅんの『収容所から来た遺書』がある。この本にも感銘を受けた。
さて、五百旗頭 真氏の『戦争・占領・講和』。
五百旗頭氏の著書『日米戦争と戦後日本』をIT君に薦められて読み、十を知っていて一を記述していると思わせる深い知識と豊かな表現に魅せられた(過去ログ)。それで、同氏の他の著書も読みたいと思っている。
書名から分かるが、『戦争・占領・講和』は『日米戦争と戦後日本』とテーマが同じで、「日米開戦」から戦後の「五五年体制の成立」までの政治史。前述の前者、太平洋戦争の資史料を根拠として示しながら、詳述している。
日本はなぜ対米戦争に踏み切ったのか、そこに至る政治的な動きはどうであったのか。日本は敗戦をどう受け入れ、その後の政治はどのように推移していったのか、が本書のテーマで、戦況の推移についてはほとんど触れられていない。このことは次に挙げる目次を見れば分かる。
プロローグ「紀元二六〇〇年」と真珠湾
「紀元二六〇〇年」
真珠湾へ
1 日米開戦
真珠湾への道 ―― 政治的決定
最終方針へ
ルーズベルトの「真珠湾」
2 敗戦の方法
無条件降伏へ ―― 知日派の存在
六つの選択肢
「戦争犯罪人」か
グルーの早期終戦論
日本占領方針
3 戦後体制へ
敗戦前夜
成功の陰に
東京とワシントン
戦後日本に向けて
4 歩みだす日本
吉田の組閣
中道政権へ
5 保守政治による再生
政治主体の確立
民主主義とナショナリズム
エピローグ 五五年体制の成立
吉田時代の終焉
保守合同の成果
本書の最後に五百旗頭氏はまとめとして次のように書いている。
**戦後の経済国家は、成功の中で培った利益還元構造とそこでの既得権者に公式資源を奪われて、全体合理性をまたも喪失している。戦前とは違った衣をまといながらも、歴史は繰り返している。**(414頁)
**他国民と世界の運命に共感をもって自己決定する大政治の脳力を今後の日本は求められよう。なぜなら、真珠湾から五五年体制までの歴史のように、全面的自己破産を通して再生するという型を、もう一度繰り返す自由を、われわれには与えられていないからである。**(414頁)
本書を読んで感じたのは歴史は人がつくるという至極当たり前のことだった。
本書は2001年に発行された。それ以降のこの国の政治的状況はどうであろう。拙ブログには政治的なことは書かないことにしているが、奪われたはずの繰り返しを進めてはいないだろうか・・・。