透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「夕霧」

2022-08-01 | G 源氏物語

「夕霧 恋に馴れない男の、強引な策」

 まず復習。夕霧は光君の息子、落葉の宮は夕霧の親友・柏木の奥さん。夕霧には幼馴染で従兄妹の雲居雁という奥さん(正妻)がいる。

**世間には堅物として知られ、しっかり者のように振る舞っている大将(夕霧)ではあるが、この一条宮(落葉の宮)を、やはり理想的な人だと心に留め置き、世間の手前、亡き親友の遺言を忘れていないからこそだと見せかけて、じつに熱心にお見舞いの訪問を続けている。しかし内心ではこのままですむはずがなく、月日がたつにつれて、思いは募るばかりである。**(513頁) ** このような書き出しで始まる「夕霧」は少し長い帖で60ページある。

この帖では結婚に懲りているので(理由はそればかりではないと思うが)夕霧の熱心な求愛に応えようとしない落葉の宮と夕霧の内面が描かれる。

落葉の宮は病気が重くなった母親の一条御息所とともに比叡山の麓、小野の山荘に移る。一条御息所はそこで律師の加持を受けている。大将(夕霧、以下夕霧と記す)はいろいろ必要なものを贈り、援助を惜しまない。八月半ば、夕霧は見舞いに出かける。

山荘は仮の住まいで狭く、宮の様子が大将に伝わてくる。夕霧も女房たちとあれこれ話しをする。**(前略)これほど年を重ねず、まだ身分も気楽な時に、もっと色恋の経験を積んでおけば、こんなにぎくしゃくしなくてすんだろうに。(後略)**(516頁)などと。

**山里のあわれを添ふる夕霧に立ち出でむそらもなきここちして**(517頁) 霧が軒先まで立ちこめてきた時にこう詠んで、帰る気持ちになれずにいることを宮に伝える夕霧に、**山賤(やまがつ)の籬(まがき)をこめて立つ霧も心そらなる人はとどめず(心が浮ついているお方を引き留めはいたしません)**(518頁)ときっぱり返す宮。夕霧のことがよほど嫌いなんだろう。

その昔、光君が朧月夜に強引に迫ったとき、彼女はもちろん驚いたけれど、「光君なら、ま、いっか」と簡単に許してしまった。ずいぶん違うものだ。

その夜、夕霧は落葉の宮と契ることなく、翌朝早く露に濡れながら帰って行った。その様子を目にした律師から聞いた御息所(宮の母親)はふたりが関係(=結婚)したと思い込む。そこへ夕霧の手紙が届く。御息所は結婚二日目なのに出かけて来ない夕霧に、病をおして**女郎花しをるる野辺をいづことて一夜ばかりの宿を借りけむ**(532頁)と書き送る。ところが・・・、夕霧はその手紙を雲居雁に奪われてしまう。ああ、なんという展開、今なら奥さんにケータイを奪われて届いていたメールを読まれてしまった、といったところだろう。

夕霧が手紙を見つけて読むことができたのは翌日になってから。手紙から御息所の誤解、悲しみを知った夕霧は、すぐさま出かけようとするが日が悪いから改めて出かけようと、とりあえず手紙だけ送った。

手紙が届いたことを耳にした御息所は、**手紙が来たということは今夜のご訪問もないのか、と思う。「なんて情けない。世間の笑いぐさとして語り継がれることだろう。(後略)**(540頁)と嘆き、そのまま息絶えてしまう。宮もすべてが終わってしまったような様。

日が過ぎて夕霧が出向く。女房たちが、**「どのようにおっしゃっていますと大将にお伝えすればよいでしょうか」**(542頁)と問われても落葉の宮は**「あなたたちでいいように返事をなさい。私は何を言えばいいのかわかりませんから」**(542頁)と答えるのみ。その後も母君の後に続きたいのに、それも叶わないと嘆き悲しむばかり・・・。このような、事の成り行きにに光君は心を痛め、紫の上も宮のことから、先のことに思いをめぐらせる。この時ふたりは、特に光君は自身の人生をどう振り返っただろう。

四十九の法要は夕霧がすべてを取り仕切って営ませた。落葉の宮は出家を願ったが、朱雀院(父親)に反対されてしまう。で、結局夕霧の待つ一条邸に移される。宮は絶対に移りたくないと思っていたのに・・・。で、落葉の宮の抵抗も続かず夕霧と結ばれる。

こうなれば、雲居雁が嫉妬することになる。

**「(前略)どうぞもう私のことなど忘れてくださいな。無駄に長い年月を連れ沿ったのもくやしいだけです」**(563頁)雲居雁は子どもを連れて実家に帰ってしまう。夕霧が迎えに行っても帰ろうとしない。この騒動、現代にもいくらでもありそうだ。

どの時代にも通ずる恋愛の諸相が描かれているからこそ、連綿と読み継がれてきているのだろう(などと真面目に)。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋               






ブックレビュー 2022.07

2022-08-01 | A ブックレビュー



 7月に読んだ6冊の本(順不同)。

『日本百名山』深田久弥(新潮文庫1978年発行、1995年31刷)
深田久弥が山の品格、歴史、個性という基準、高さ1,500m以上という付加的条件によって選んだ日本百名山。それぞれの山の特徴や山旅の様子などをそれぞれ4ページで紹介している。
登ったことがある百名山は少ないが、特に印象に残っているのは屋久島の宮之浦岳(本書では宮ノ浦岳と表記されている。1935m)。東京駅と西鹿児島駅(現在の鹿児島中央駅)間を1日以上かかる列車で往復したことや山中の避難小屋ですし詰め状態で1泊したこと、宮之浦岳から永田岳への縦走路で怖い思いをしたことなどが想い出される。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫1977年発行、2003年46刷)
SF映画の傑作と評される「ブレードランナー」の原作。
アンドロイドと人間との違いは何か・・・。結局人間とは何かということをこの作品は描いている。

『雪国』川端康成(新潮文庫1947年発行、2020年157刷)
川端康成の文庫本は何冊かあったが、全て古書店にひきとってもらったので、改めて買い求めて読んだ。今回は物語の終盤で、主人公の島村が駒子と火災現場に駆け付けるときに見た天の川(小説では天の河と表記されている)の描写が印象に残った。川端康成によって描かれる天の川の美しさに感動すら覚えた。以前はセクシャルな表現にが妙に気になって、俗っぽいなという感想を持ったけれど。奥付を見ると157刷となている。名作は再読に耐えるし、そのつど印象が変わるものだ。

『どくとるマンボウ途中下車』北 杜夫(中公文庫1973年)
タイトルから旅行の話かと思うが、内容は単なる旅行に関する話に留まらない。幅広い知識をベースにおもしろい話が満載の1冊。

『ぼくのおじさん』北 杜夫(新潮文庫1981年)
表題作はじめ児童文学、童話を9作品が収録された1冊。「ぼくのおじさん」は映画化されている。26日(金)に観たが、映画では残念ながら北 杜夫独特のユーモアが描かれてはいなかった。

『寅さんの「日本」を歩く』岡村直樹(天夢人発行、山と渓谷社発売2019年発行、2011年4刷)
サブタイトルに「一番詳しい聖地探訪大事典」とあるが、寅さん映画についてはネット上でいくつもサイトが見つかる。それらの中にはかなり詳細にロケ地を紹介しているものもある。寅さんファンとしては書棚に置いておきたい本。