■ 『狛犬かがみ A Complete Guide to Komainu』 たくきよしみつ/Banana Books を読んだ。狛犬のカラー写真満載で地の文章が少ないから読むのにそれほど時間はかからない。この本の章立ては以下の通り。
第1章 狛犬ほどバラエティに富んだ造形物はない
第2章 狛犬の起源と「はじめ狛犬」の魅力
第3章 狛犬の歴史と種類
第4章 もうひとつの狛犬―狼像
第5章 戦争と狛犬
第6章 アートとしての狛犬
第7章 寅吉・和平の奇跡
このなかで興味深かったのは第7章の「寅吉・和平の奇跡」。この章は次のような構成になっている。
7-1 ひとりの高遠石工から始まる物語
7-2 反骨不屈の石工・小松寅吉布孝
7-3 「飛翔獅子」は寅吉の発明か?
7-4 遅咲きの天才・小林和平
7-5 神に近づいた狛犬たち
小松利平(理兵衛)は高遠藩から脱藩して、福島県の福貴作という小さな集落に住みついた石工。南福島の地で利平はいくつかの作品を彫っているはずだが、脱藩者故、自分の名前を刻むことはなかったという。
この利平の元に修行に出されたのが小松寅吉。寅吉は大変な負けず嫌いで、石工としての技術を偏執的なまでに磨き上げたという。ある歌碑を巡るエピソードがこの本に紹介されている。
松平定信が詠んだ歌の歌碑を囲む石柵が寅吉の作品だという。歌碑そのものは東京の名門「井亀泉」に発注して、寅吉にはその周りの柵だけを依頼した。
寅吉は柵に巨大な石の扉をつくり、そこにびっしり細かな彫刻を施した。中の歌碑は扉で隠されて正面からは全く見えない。扉の裏側には2匹の逆立ち狛犬が隠れている。寅吉の負けず嫌いな性格、石工としてのプライドがこの柵と扉をつくらせたのだ。本には石柵の全景と扉の裏側の狛犬の写真が載っている。いつかその地、白河市を訪ねてみたい。
狛犬研究家・のぶさんがこの石柵を取材している。→こちら
本には寅吉の作品がいくつか紹介されているが、最高傑作とされる鹿嶋神社の狛犬は確かに凄い。
寅吉の一番弟子が小林和平。和平は3人の子どもを亡くしている。石都都古和気(いわつつこわけ)神社の狛犬には3匹の子獅子が付き添っている。失った3人の我が子への鎮魂・・・。本のカバーの狛犬も寅吉の作品で、寅吉の妻の生まれ故郷の鐘鋳神社のもの。
信濃は高遠藩出身の小松利平、利平の後継者の小松寅吉、そして寅吉の一番弟子の小林和平。この3人の石工の人生ドラマ。狛犬を芸術の域にまで引き上げた彼ら。
いつか彼らが残した芸術作品を見に行きたい・・・。