透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

隣りの芝生は青いか・・・

2009-02-13 | A あれこれ
 

 建設資材などのコスト情報をまとめて掲載している「建設物価」という刊行物、その今月号の表紙に豊島大橋が載っている(写真)。この吊橋の完成によって、広島県呉市から愛媛県今治市の岡村島まで7島が陸路で結ばれたそうだ。

建築と土木は隣り合わせの領域だが、建築技術者は土木のことをよく知らない。

この吊橋に関する技術レポートが「建設物価」の巻頭に掲載されいていたので、「隣りの芝生」を覗いてみた。

吊橋で技術的に最も重要なのは主ケーブルにかかる張力をいかに確実に地盤に伝えるか、ということだ。

レポートによるとこの重要な役割を担う構造物をアンカレイジというそうだ。アンカレイジには3つの形式があるそうで、この吊橋には岩着式と重力式、2つの形式が採用されているとのこと。

長大な吊橋は日本にいくつもあるが、岩着式アンカレイジを採用した例は今までになく、この豊島大橋で初めて採用されたという。

岩着式アンカレイジについて説明している箇所をレポートから引用する。**良質な岩盤の前面及び背面にコンクリート支圧板を構築し、小口径の削孔部を設けそこに緊張材(PC綱より線)を挿入してプレストレスを導入することにより、支圧板と岩盤とを一体化させた構造体とする。その構造体の引抜き抵抗力により、吊橋主ケーブルから伝えられる張力に抵抗する形式である。**

建築でも例えば張弦梁の端部、テンションロッドを固定する部分はこれと原理的に同様の仕掛けになっているとみなしてよいと思うが、スケールが全く違う。

吊橋の支圧板の厚さは掲載されている図面の場合、1.6メートル。張弦梁の場合、支圧板に相当するスチールプレートの厚さは規模にもよるがせいぜい1~2センチ程度だろう。

代々木第一体育館は吊橋と同じケーブルによる構造が採用されていることでもよく知られている。アンカレイジに相当するコンクリート塊が写真の左端に写っている。

吊橋もこの体育館もどちらも美しいと思うが、吊橋の方は「素形の美」と評してもいいかも知れない。構造原理がそのままストレートに表現されている。

建築の恣意的なデザインによる美は土木の必然的な美に比べると弱い、この頃時々そう思う。丹下さんのこの代々木は例外的な事例だろう・・・。