透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

白水ロコ展 a day dream を観た

2008-06-15 | A あれこれ


高橋節郎記念美術館




 安曇野市穂高にある美術館に隣接する高橋節郎の生家の蔵は再生されてギャラリーとして開放されています。ここで開催(6月15日まで)されていた 白水ロコ展 a day dream を観てきました。

入口(外観写真の右側の扉)を入るといきなり上の不思議な鳥(作品名は分かりませんが双頭人面孔雀です)と対面することになります。かなり大きな木彫作品で高さが1.5mくらいあると思います。リアルな人の顔が彫られています。

双頭で人の顔が付いている孔雀など初めて見るので脳は混乱するのでしょう、脳内にストックしてあるどのデータにもありませんから「不気味なもの」と認識することになると思います。作者にしてみれば鑑賞者にこのような不気味な気持ちを抱かせることが狙いなのかも知れません。

もしかしたらこの作品を「きゃ、かわいい!」と思う人もいるかもしれませんが、私は正直ちょっと苦手です。他の作品にも人の顔がついていました。壁掛けの作品を寝室に飾って夜中に眼が覚めたら、こちらを見つめていて・・・。

白水ロコさんは安曇野在住だそうで、いつかまた作品を観る機会があるでしょう。 


 


オマージュ

2008-06-15 | A あれこれ


『磯崎新の「都庁」』より以下同じ

 『磯崎新の「都庁」』平松剛/文藝春秋にはこんな話が出てきます。

横浜港国際客船ターミナル(横浜大桟橋)国際コンペの審査員の磯崎さんは同じく審査員としてオランダからやってきたレム・コールハースと東京駅で落ち合い車で一緒に横浜に向かったそうです(1995年のことでした)。余談ですが横浜大桟橋は私も見学に出かけたことがありました。

コールハースは途中で工事中のある建築を目にして磯崎さんに言ったそうです。「おい、磯崎、あそこに君の都庁が建ってるじゃないか。コンペには負けたんじゃなかったのかい?」磯崎さんは「え?・・・・ああ・・・・・いや、違うんだ。あれは丹下さんの仕事なんだよ(笑)」(会話の部分は本書より引用しました)

上の断面図は磯崎さんの新都庁舎案ですが、立体フレームに球体が載っています。球体の材質はチタンだと本文に出てきます。これとよく似たビルで丹下さんの設計といえば・・・。そうお台場にあるフジテレビ本社ビルですね。建築に詳しくない方でもピンときたでしょう。テレビにも時々登場しますから。

コールハースは丹下さんの設計であることをちゃんと知っていて磯崎さんをからかったのかも知れないと平松さんは書いています。

ところで磯崎さんが丹下研に入った当初、旧都庁第一庁舎がちょうど建設工事中だったそうです。磯崎さんは旧都庁第一庁舎は日本の1950年代の建築の代表作だと思っているそうですが、磯崎さんの新庁舎低層案のプロポーションはこの旧都庁第一舎によく似ています。


丹下さんの旧庁舎


磯崎さんの新庁舎立面図

磯崎さんの新都庁舎案は丹下さんの旧都庁舎へのオマージュだった・・・。そしてそのことに気が付いた丹下さんがフジテレビ本社ビルで磯崎さんに応えた・・・。

こんなふうに想像して眉唾な説をもっともらしく語るって楽しいです。 


 


東京都新庁舎建設の影で

2008-06-15 | A あれこれ



 この本には完成した新庁舎の詳細な紹介の他にコンペ関係者の座談会(磯崎さんや審査員のひとり菊竹さんも参加しています)、丹下さんへのインタビュー記事、評論などが掲載されていてなかなか充実しています。「日経アーキテクチュア」も常にもう少し内容が充実しているといいんですけどね。

工藤国雄氏は「世界は今何時か」と題する評論で「丹下健三」は氏にとってミケランジェロであり、コルビュジエであり、日本でただ一人の“The”アーキテクトでさえあった、と断った上でイデオロギー的に低層案の磯崎に負けているとし、**テレコミュニケーションの発達している今日、中規模都市の人口に匹敵する都の職員が、このように過度に「一点」に集中する必要はない。**と指摘し、新庁舎をまるで時代錯誤の江戸城ではないかと手厳しく批判しています。

都知事を頂点とする官僚的なツリー状の組織を可視化するというのはコンペの暗黙の了解事項だったのかも知れません。

工藤氏は旧都庁舎の取り壊し問題についても触れて、**いかなる事情にせよ、いかなる分別にせよ、いかなる政治にせよ、これは許されるべきではない。**と書き、**あれはもはや丹下個人の作品ではない。かけがえのない日本の歴史的風景なのだ。(中略)我々戦後を駆け抜けた「民主主義の世代」が、記憶を失い、風景を失い、文化を失うのだ。(後略)**とまで書いています。