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原発事故の「収束宣言」は拙速(1)【朝日新聞】

2011年12月24日 | 国際・政治

2011年12月16日、野田首相は東京電力・福島第一原発事故の対応で、工程表ステップ2の「冷温停止状態」が前倒しで実現したと判断し、「収束宣言」を発表しました。このことに対し、多くのマスコミや国民から「拙速すぎる」「実態を無視したものだ」「被災者の気持ちを逆なでするもの」との批判が寄せられています。そこで2回に渡り、「朝日新聞」と「東京新聞」から「主張」を紹介します。(サイト管理者)

<原発事故―「収束」宣言は早すぎる> 

野田首相がきのう、記者会見で福島第一原発事故の「収束」を内外に宣言した。
周辺の人々が避難生活を強いられていることや、本格的な除染などの課題が山積していることに触れ、事故炉に絞った「収束」だと強調した。
だが、そうだとしても、この時点で「収束」という言葉を用いたことは早すぎる。
いまは、急ごしらえの装置で水を循環させて炉の温度をなんとか抑えているだけだ。事故炉の中心部は直接、見られない。中のようすは、計測器の数値で推測するしかない。
これでは、発生時からの危機的状況を脱したとは言えても、「事故の収束」だと胸を張る根拠は乏しい。
そもそも、今回は炉が「冷温停止状態」になったと発表するとみられていた。首相が、この年内達成に努めることを国際社会に公言していたからだ。
だが、それは事故収束に向けた工程表のステップ2の完了にすぎない。あくまで途中経過であり、過大にみてはいけない。
「冷温停止状態」という見立てそのものにも、さまざまな議論がある。
政府の定義では、圧力容器底部の温度が100度以下になり、大気への放射能漏れも大幅に抑えられたことをいう。
だが、東京電力が先月公表した1号機の解析結果で、圧力容器の底が抜け、ほとんどの燃料が容器外へ落ち、格納容器を傷つけたらしいとわかっている。
いまなお混沌(こんとん)とした炉内で、再臨界の恐れはないのか。巨大な地震に耐えられるのか。こうした懸念をぬぐい去ったとき、初めて「収束」といえる。
敷地内の作業員らが日夜、危険な仕事を続けたことで、事故処理が進んだのは紛れもない事実だ。その結果、安定した冷却が続いているのなら、そのことを過不足なく説明すればよい。そのうえで「少しずつ前へ進もう」というメッセージを発信すれば十分なはずだ。
「収束」という踏み込んだ表現で安全性をアピールし、風評被害の防止につなげたいという判断があったのかもしれない。しかし、問題は実態であり、言葉で取り繕うことは、かえって内外の信を失いかねない。
いま政府がすべきは、原発の状況をにらみながら、きめ細かく周辺地域の除染をしつつ、人々の生活再建策を積極的に進めることだ。
国民を惑わせることなく、厳しい現実をそのまま伝え、国民とともに事態の打開を図る。それが首相の仕事だ。

【出典】12月17日付け「朝日新聞」社説

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