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東南アジア、台湾などへの海外旅行記などを中心に投稿しています。

この一冊(その5)

2010-11-22 23:03:36 | 雑記

今回紹介する一冊は、今の中国の実態に迫る「蟻族」(勉誠出版社刊)です。
書名は編者(リエン・スー)らの造語です。同名の原書は2009年秋に中国で出版されるやベストセラーになり、この造語が瞬く間に定着しました。
意味するところは「大学は出たけれど正規の職に就けず、低賃金の非正規労働で生計をたてながら都市郊外で群れるように暮らしている、若者たち」。当初、編集者たちは「大卒低所得群居集団」という言葉を使っていましたが、生活ぶりがあたかも蟻のようだという意味で「蟻族」と名付けました。
編集たちの調査によれば、その数は北京の郊外だけでおよそ10万人。上海や広州、西安、重慶など大都市でも、概ね数万から10万人という規模になっているそうです。原書がベストセラーになったことからも、多くの中国人が彼らの存在を社会問題として意識し始めているのがうかがえます。
中国経済が世界で最もダイナミックな発展を続けていることは周知の事実です。にもかかわらず、大卒の若者たちが数十人規模で就職難にあえぎ、蟻のような生活をしているのはなぜか。
原書が出版されてから1年以上が経過したこともあり、大きな背景は日本でも伝えられています。中国政府が大学の規模拡充を急ぎ過ぎたことが根本的な原因です。
大卒者の急増に、雇用機会の増加が追いついてこない。ただ、現実は一刀両断できるほど単純ではありません。複雑な陰影をはらんでいるからです。。
たとえば、親や親族、さらには故郷の人々が、地方出身の学生に寄せる期待の重圧があります。あるいは、学歴をはじめ様々な差別システムがあります。
こうした蟻族が生まれる構造的な問題を、本書は明かしてます。そして何よりも、生計や心理傾向、性生活にまで踏み込んで蟻族の実態をあぶり出してます。最近の反日デモの根底に横たわる社会矛盾と若者たちのストレスの一端を、読み取ることができるでしょう。

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※記事の一部は日本経済新聞社2010年11月21日朝刊読者欄を引用させていただきました。


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