タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

新生児一過性多呼吸

2015-10-02 21:08:14 | 産科
篠山市池上の龍人(りゅうと)くん、8月20日生まれ。
「志を高く持ち、向上心の有る子になりますように。
お産は想像以上に痛かったですが、スタッフの方を信頼し、安心して産むことができました。
お母さんのことを第一に考えてある産婦人科だと思いました。
またウォーターベッドでゆったりと産みたいです。」

そうですね、この「信頼」というのが大切なのですよね。

ところで昨日10月1日は昼から2つも勉強会が有って、へとへとなんです。
1つ目は三田市、篠山市、丹波市の先生が全員集まる中で、
医療安全に関する懇話会というものです。
しかも都合よく、10月1日からの、
医療事故調査制度の報告義務が発動したのと重なるのです。

車を運転すれば必ず事故を起こすと言われます。ペーパーでなければ。
医療を受ければ、当然事故は日常的に起こります。
小さなものか大きなものかというだけの違いです。
もちろん故意で事故を起こす、なんていうことは無いでしょう。

その中で有った話なのですが、
医療事故は産婦人科でダントツに多く発生するのですよ。
そして裁判になる件数もダントツなのです。
では産婦人科医だけが注意不足なのでしょうか。
もちろんそうではなくて、産婦人科では治療に対しての結果に
満足がいかないことが多いというわけです。

産婦人科医になりたがる医師が減ったのは、何も忙しいからではなく、
患者さんに信頼されなくなったから、というのが正解でしょうね。
流産したり、死産になったり、あるいは母体死亡だって起こり得ます。
先天性に異常を持って生まれてきた子は、障害を持つことだって有ります。
もちろんお産がたいへんだったりしても、後遺症が残ることが有ります。
では、それは完全に予防できることなのでしょうか。

まあ、そんなことを考えてしまいましたね。
キーワードは、「信頼」なのです。
信頼が無ければ、診察中であっても怒鳴り込んでこられるようですね。
医師側としては、裁判による金銭の解決でなく、この精神的なストレスが大きいのだそうです。

その話は置いておいて、さらに夕方からは済生会兵庫県病院で、
広範囲の産婦人科医や小児科医が集う勉強会も有りました。
タマル産でもよく済生会には紹介するので、
紹介先の先生方とディスカッションをするのはいい機会でしたよ。

内容が濃かったので、次回に分けてお話しすることにしましょう。
さわりだけ。

胎児は水の中で生活していますが、生まれるとオギャーと泣きますよね。
水の中に居る時は肺はどうなっていると思われますか?
縮んでいるのではなく、肺水で満たされているのですよ。
そうでないと胸郭が発達しませんからね。
それが陣痛が起こると一気に肺水が吸収されて、ドライになって、肺呼吸をする準備に入るのです。

ところが帝王切開だと、いきなり外界に生まれ出てくるものだから、
肺から水が引かないわけです。
だから数日は水に溺れたような状態になって、
呼吸数も増えて喘ぐ(あえぐ)わけですよ。
これを新生児一過性多呼吸と言います。
だから帝王切開で生まれた赤ちゃんは、しばらく保育器に入ってもらって観察するわけです。

たまにひどくなると、小児科に転院、入院となることが有ります。
せっかくさかごや前回帝王切開で生まれても、
いきなり母児が離れ離れとなってしまうことが有るのです。

予定の帝王切開だと、こういうことが起こるのですが、
緊急の帝王切開やふつうのお産ではあまり起こりません。
それは陣痛が開始した後だから、肺水が引くからですね。

それで未熟児センターの先生方の説明をお話ししましょうか。
日本はまだアメリカのように、病院が完全に集約化されていないので、
新生児一過性多呼吸で転院するような事態が起こるのだと。
暗にクリニックでの分娩を批判されているようにも聞こえますね。

ですが私はそうは思いませんでしたよ。
ふつうにお産するお母さんが増えれば、新生児一過性多呼吸は減るのです。
もしくは帝王切開するにしても、予定でするのではなくて、
なるべく陣痛が起こってから、どうしても産めないお母さんに帝王切開をすればいいのであって、
骨盤が狭いからといった理由で帝王切開しなければいいのですよ。

どうです、同じ現象に対しても、立場によって、解釈は異なってきますね。
私はなるべく帝王切開しないことが解決法だと思っているのですが、
先の医療事故調査制度の発令からすると、
何でも帝王切開しておかないと、産婦人科医は必ず訴訟を抱えて自滅するということなんですよ。
人と人とが信頼し合えない、いやな時代になってきましたね。

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