歌番号 152 拾遺抄記載
詞書 七夕の庚申にあたりて侍りける年
詠人 もとすけ
原文 以止々之久 以毛祢左留良无止 於毛飛可奈 个不乃己与比尓 安部留多奈八多
和歌 いととしく いもねさるらむと おもふかな けふのこよひに あへるたなはた
読下 いととしくいも寝ざるらんと思ふかなけふのこよひにあへるたなはた
解釈 一層に寝ることが出来ないと感じます、今日、庚申と言う暦に当たった七夕の夜は。
注意 庚申の夜に寝ると身中の三戸と言う虫が抜け出して、その人の悪事を天帝に告げると言う俗習があります。
歌番号 153 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 安飛美天毛 安者天毛奈計久 多奈八多者 以川可己々呂乃 々止計可留部幾
和歌 あひみても あはてもなけく たなはたは いつかこころの のとけかるへき
読下 あひ見てもあはてもなけくたなはたはいつか心ののとけかるへき
解釈 牽牛と織姫は年に一度の出逢いの機会に、相見ることが出来ても出来なくても、逢えば逢えなかった期間を嘆き、逢えなければ逢えないことを嘆く、その棚機津女(織姫)は、いつの時、心が休まるでしょうか。
歌番号 154 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 和可以乃留 己止者比止川曽 安万乃可者 曽良尓之利天毛 堂可部佐良奈无
和歌 わかいのる ことはひとつそ あまのかは そらにしりても たかへさらなむ
読下 我がいのる事はひとつそ天の河そらにしりてもたかへさらなん
解釈 私が祈ることは一つです、天の川よ、遠い空の上で私の願いを聞いても間違えないでください。
注意 中国の周処が著した「風土記」に、俗習として天の川の瑞光を見た人は願うと富・寿・子を授かるとあり、ただし、願い事は一つだけとの制約を示します。歌はこれを引用したものです。
歌番号 155 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 幾美己寸者 堂礼尓美世末之 和可也止乃 加幾祢尓左个留 安左可保乃者奈
和歌 きみこすは たれにみせまし わかやとの かきねにさける あさかほのはな
読下 君こすは誰に見せましわかやとの垣根にさけるあさかほの花
解釈 貴方がやって来ないのなら、さて、誰に見せましょうか、私の屋敷の垣根に咲いている「あさかお」の花を。
注意 この「あさかお」については、桔梗、槿(むくげ)、牽牛子(けにごし:朝顔の古名)などの説があり、不明です。ただ、手紙を書いて送り、恋人の夜の訪問を待つ主旨からすれば花の日持ちを考え桔梗です。
歌番号 156
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 於美奈部之 於保可留乃部尓 者奈寸々幾 以川礼遠左之天 万祢久奈留良无
和歌 をみなへし おほかるのへに はなすすき いつれをさして まねくなるらむ
読下 女郎花おほかるのへに花すすきいつれをさしてまねくなるらん
解釈 女郎花が数多く咲いている野辺に咲く花薄は、一体、どの女郎花の花を指して招いているのでしょうか、(ゆらゆらと差し招いています。)