歌番号 109 拾遺抄記載
詞書 屏風に
詠人 大中臣能宣
原文 幾乃不万天 与曽尓遠毛飛之 安也女久左 遣布和可也止乃 川万止美留可奈
和歌 きのふまて よそにおもひし あやめくさ けふわかやとの つまとみるかな
読下 昨日まてよそに思ひしあやめ草けふわかやとのつまと見るかな
解釈 昨日まで関係が無いと思っていた菖蒲の草を、今日は私の屋敷の端(つま)、その言葉の響きのような大切な妻のように眺めます。
注意 和歌のホトトギスはカッコウのことで、カッコーカッコーと啼く声を片恋片恋と聴きます。それで妻の話題となります。
歌番号 110
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 遣不美礼者 多麻乃宇天奈毛 奈可利个利 安也女乃久左乃 以本利乃美之天
和歌 けふみれは たまのうてなも なかりけり あやめのくさの いほりのみして
読下 けふ見れは玉のうてなもなかりけりあやめの草のいほりのみして
解釈 今日、眺めると珠を飾り置く台もありません、菖蒲の草が咲く庵ばかりで。
注意 漢詩を和歌に直したものと思われるが、元の漢詩が不明で意味不詳です。
歌番号 111 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 延喜の御製
原文 安之飛幾乃 也万本止々幾須 遣不止天也 安也女乃久左乃 祢尓多天々奈久
和歌 あしひきの やまほとときす けふとてや あやめのくさの ねにたててなく
読下 葦引の山郭公けふとてやあやめの草のねにたててなく
解釈 葦や檜の生い茂る山のホトトギスよ、今日は菖蒲の草の根、その言葉の響きではないが、音を上げて鳴いています。
歌番号 112 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 堂可曽天尓 遠毛飛与曽部天 本止々幾須 者奈堂知者奈乃 恵多尓奈久良无
和歌 たかそてに おもひよそへて ほとときす はなたちはなの えたになくらむ
読下 たかそてに思ひよそへて郭公花橘のえたになくらん
解釈 片恋、片恋と、誰の袖に思いを寄せて、ホトトギスは花橘の枝に止まって鳴いているのだろうか。
注意 和歌の約束では、ホトトギスはカッコウのことで、カッコーカッコーと啼く声を片恋片恋と聴きます。
歌番号 113 拾遺抄記載
詞書 天暦御時の屏風に、よとのわたりする人かける所に
詠人 壬生忠見
原文 以徒可多尓 奈幾天由久良无 本止々幾須 与止乃和多利乃 万多与不可幾尓
和歌 いつかたに なきてゆくらむ ほとときす よとのわたりの またよふかきに
読下 いつ方になきてゆくらむ郭公よどのわたりのまた夜ふかきに
解釈 一体、どちらの方向に向いて鳴いて飛んで行くのだろうか、ホトトギスよ、淀の渡りはまだ夜が深いのに。