歌番号 104 拾遺抄記載
詞書 天暦の御時の歌合に
詠人 壬生忠見
原文 佐世布遣天 祢左免左利世者 本止々幾須 比止徒天尓己曽 幾久部可利个礼
和歌 さよふけて ねさめさりせは ほとときす ひとつてにこそ きくへかりけれ
読下 さ夜ふけてねさめさりせは郭公人つてにこそきくへかりけれ
解釈 夜が更けて、寝覚めをすることをしなければ、ホトトギス、人伝ばかりで、その啼く様子を聞くばかりでした。(私は確かに聞きましたよ。)
歌番号 105
詞書 おなし御時の御屏風に
詠人 伊勢
原文 布多己衛止 幾久止者奈之尓 本止々幾須 与不可久女遠毛 左万之川留可奈
和歌 ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
読下 ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
解釈 二声を聴くことはないのに、ホトトギスの鳴き声に、夜深くに目を覚ましてしまいました。
歌番号 106 拾遺抄記載
詞書 北宮のもきの屏風に
詠人 源公忠朝臣
原文 由幾也良天 也万地久良之徒 本止々幾須 以満比止己衛乃 幾可万本之左尓
和歌 ゆきやらて やまちくらしつ ほとときす いまひとこゑの きかまほしさに
読下 行きやらて山ぢくらしつほとときす今ひとこゑのきかまほしさに
解釈 そのまま通り過ぎることが出来なくて、山路で日を暮らしてしまった、ホトトギスよ、今、もう一声、その啼き声を聴きたいものです。
歌番号 107 拾遺抄記載
詞書 敦忠朝臣の家の屏風に
詠人 つらゆき
原文 己乃左止尓 以可奈留比止加 以部為之天 也万本止々幾須 堂衛寸幾久良无
和歌 このさとに いかなるひとか いへゐして やまほとときす たえすきくらむ
読下 このさとにいかなる人かいへゐして山郭公たえすきくらむ
解釈 この里にどのような人が家を構えて住んでいて、山のホトトギスの鳴き声を絶えず聞いているのでしょうか。
歌番号 108
詞書 延喜の御時の歌合に
詠人 よみ人しらす
原文 佐美多礼者 知可久奈留良之 与止可者乃 安也女乃久左毛 美久左於日尓个利
和歌 さみたれは ちかくなるらし よとかはの あやめのくさも みくさおひにけり
読下 さみたれはちかくなるらしよと河のあやめの草もみくさおひにけり
解釈 五月雨の季節は近くなって来たようです、淀河の菖蒲の草も水草も生い茂っています。