竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌56から集歌60

2020年01月10日 | 新訓 万葉集
或本謌
標訓 或る本の謌
集歌五六 
原文 河上乃 列々椿 都良々々尓 雖見安可受 巨勢能春野者
訓読 河し上(へ)のつらつら椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は
私訳 吉野河の辺に点々と連なり咲く椿は、つくづくとしっかり見ていても飽きないことよ。巨勢の春の野の景色は。
左注 右一首春日蔵首老
注訓 右の一首は、春日蔵(かすがのくらの)首(おびと)老(おゆ)。

二年壬寅、太上天皇幸于参河國時謌
標訓 (大宝)二年(七〇二)壬寅、太上天皇の参河の國に幸(いでま)しし時の謌
集歌五七 
原文 引馬野尓 仁保布榛原 入乱 衣尓保波勢 多鼻能知師尓
訓読 引間野(ひくまの)ににほふ榛原(はりはら)入り乱れ衣(ころも)色付(にほは)せ旅のしるしに
私訳 従者が馬を引いて旅してきた、この馬を休ませている野にある美しく黄葉している榛の林は秋の彩が入り乱れている。衣を榛の実で染めるようにこの黄葉を写そう。旅の記念に。
左注 右一首長忌寸奥麻呂
注訓 右の一首は、長(ながの)忌寸(いみき)奥麻呂(おきまろ)
注意 「引馬野」は愛知県豊川市御津町御馬付近の原野です。

集歌五八 
原文 何所尓可 船泊為良武 安礼乃埼 榜多味行之 棚無小舟
訓読 何(いづ)そにか船(ふね)泊(は)てすらむ安礼(あれ)の崎榜(こ)ぎ廻(た)み行きし棚無し小舟(をふね)
私訳 どこの湊に船を泊めていたのだろうか。安礼の﨑を、帆を操り廻って行く側舷もない、あの小さな舟は。
左注 右一首高市連黒人
注訓 右の一首は、高市(たけちの)連(むらじ)黒人(くろひと)
注意 「安礼乃埼」は愛知県豊川市御津町御馬の音羽川河口付近です。

譽謝女王作謌
標訓 譽謝(よさの)女王(おほきみ)の作れる謌
集歌五九 
原文 流經 妻吹風之 寒夜尓 吾勢能君者 獨香宿良哉
訓読 流(なが)らふる褄(つま)吹く風し寒き夜に吾(あ)が背の君はひとりか寝(ぬ)らむや
私訳 衣の褄を靡かせ吹く秋風の寒い夜に、私の大切な御方は肌を温める女も無く一人で夜を過ごしているのでしょうか。

長皇子御謌
標訓 長皇子の御(かた)りし謌
集歌六〇 
原文 暮相而 朝面無美 隠尓加 氣長妹之 廬利為里計武
訓読 暮(よひ)逢ひに朝(あした)面(おも)無(な)み名張(なばり)にか日(け)長(なが)き妹し廬(いほり)せりけむ
私訳 夕暮れに恋人と逢いその夜を共に過ごた、その翌朝には昨夜の夜の営みに合わす顔が無くて顔を隠す、その言葉の響きではないが、この隠(なばり;名張の旧字)の地に、幾日も貴女は仮の宿をとられていたのでしょうか。
注意 持統太上天皇は皇后菟野皇女の時代の壬申の乱の時、吉野脱出の後、この名張で夜を迎え、その名張の駅家を壊して焼き、明かりとして夜間行軍を行っています。また、天武天皇軍の紀臣阿閉麻呂が駐屯軍を置いています。
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