ナチス政権獲得から崩壊まで、豊富な写真と解説で構成したもので、人びとの表情がリアルに捉えられている。もちろんナチスの弾圧に遭ったユダヤ人、スラブ人(ロシア人)、ジプシーのものも多く収められている。ナチスのアーリア人優生主義は劣等民族とレッテルを貼った前者に対するジェノサイドへと発展する。権力機構を支えるべくスポーツ振興を唱え、若者をヒトラ-ユルゲントとして囲い込んだ。ドイツの優秀性を世界にアピールしようとしたのがベルリン・オリンピックである。しかし全種目を金メダルでかざることはもちろん不可能で、200メートルではアメリカの黒人選手のジェシー・オーエンスに優勝されてしまった。ヒトラーはこの黒人メダリストと面会することを拒んだ。黒人選手らの活躍はあったが、ドイツが最多の金メダルを獲得したため、ナチスはオリンピックの結果に満足した。水泳競技決勝を観戦するヒトラーが写っているが、暑苦しい帽子に軍服、そして映画「独裁者」で見事にチャップリンにまねされたあのちょび髭、どれもこれも、今にして思えば滑稽だが、これが当時スターリンと並ぶ独裁者として神のごとくふるまったのだ。権力が卑小な人間に宿る時、悲劇は起こる。卑小な人間と絶大なる権力。残念ながらこの二者には親和性があるのだ。民主主義は本来これを防ぐシステムであるはずだが、結果としては一人の人間に権力を握らせてしまうというディレンマがある。衆愚政治は全体主義と同じ結果をもたらす。何とかならないか。本書に収められた写真は人間の犯した愚行の証拠として永劫に保存されるべきものと考える。
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