北朝鮮vsアメリカ 原田武夫 ちくま新書
「ならずもの国家」北朝鮮に関する書物は膨大な数にのぼる。金正日の圧制に苦しむ国民の悲惨な生活が、脱北者によって語られるのが一つのパターンである。その内容が悲惨であればあるほどよく売れるらしい。こわいもの見たさの心理につけこんだものであろう。しかしこの本は非常に実証的で、六カ国協議の主役である北朝鮮とアメリカの関係を「偽米ドル」事件を手がかりにして鮮やかに分析している。
筆者は、北朝鮮が偽米ドル=スーパーノートをつくっているというアメリカの主張は根拠がないと言う。その根拠を、銀行王国スイスの警察当局の「北朝鮮が偽米ドルをつくっている可能性は乏しい」という見解とドイツの最有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ」紙に掲載された「偽米ドルはアメリカのCIAによる自作自演だ」という署名記事に求めている。スイスとドイツはアメリカの朝鮮半島をめぐるマーケット争奪戦(北朝鮮は鉱物の宝庫)を牽制する欧州の代表国である。
アメリカ外交は戦略として他国への内政干渉を実行しているが、その資金調達として偽ドルが使われた。「アメリカによるアメリカのためのアメリカの偽米ドル」の登場である。このドルが相対的に安くなると、次の世界の基軸通貨の筆頭として登場するのがユーロである。従ってアメリカはドルの信用を守るために偽ドルの摘発に乗り出しているわけで、北朝鮮偽ドル事件はこの文脈で考えなければならない。まさに目から鱗で、最近の米朝接近の真相が手に取るようにわかる。北朝鮮を犯人扱いした見返りに経済制裁を解いて、ならず者国家の指定をはずすことはお互いの確認事項というわけだ。拉致問題が解決するまで経済制裁を続けるというナントカの一つ覚えでは六カ国協議のリーダーシップをとれるはずもない。素人目にも日本は行き詰っているという感じを持っていたが、その理由が理解できた。なんと言ってもお金がものを言うのだ。