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読書日記

いろいろな本のレビュー

イスラエルの自滅 宮田 律 光文社新書

2025-03-08 11:02:10 | Weblog
 副題は「剣によって立つ者、必ず剣によって倒される」で、何とも刺激的な惹句だが、現在のイスラエルの状況を的確に表している。著者はイスラム研究者として夙に有名だが、全編イスラエルの批判で現ネタニヤフ政権を徹底的に批判しており、それが正鵠を得ているだけに大いに読みごたえがあった。最初に著者の結論を言うと、ネタニヤフ首相やイスラエルの極右勢力はパレスチナ問題の「一国家解決」つまりイスラエルによる全面的な支配を目指しているが、他方これは重大なリスクが伴うことに彼らは気づいていないということになる。現状はイスラエルとパレスティナの「二国家解決」が模索されている中での、イスラエル政権の強権的手法を疑問視したものだ。

 先日アメリカのトランプ大統領がガザのパレスチナ人を移住させるという驚くべき発言をしたが、日本の国会の質疑で、この件に関して日本はコメントしないのかと問われた岩屋外相は、これは二国家解決の問題であるから日本がコメントする立場にないと無責任な答弁をしていた。イスラエルの後ろに控えているアメリカを意識すると、反イスラエル的な発言はご法度という感じなのだろう。実際日本は、パレスティナ・イスラエルの二国家解決を支持するとしつつパレスティナ国家を承認していない。アメリカがイスラエル寄りの政策をとるのはイスラエル・ロビー(圧力団体)の影響が大きいからだと言える。彼らは親イスラエルの大統領候補・議員に多額の政治資金を提供しており、反イスラエルの候補者に対しては落選運動を仕掛けるのが普通で、厄介な存在である。著者曰く、アメリカのイスラエル・ロビーは、イスラエルの政権の性格に関わりなく、イスラエルの安全保障政策やイスラエルによる戦争を支えてきたと。

 トランプ大統領について言うと、彼の娘婿のクシュナーはユダヤ人でトランプ大統領との親和性が強い。さらにユダヤ系のカジノ王シェルドン・アデルソンは2016年の大統領選挙活動に9000万ドルを献金し、その見返りとしてアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移動させた。アデルソンは2021年に亡くなったが、夫人のミリアム・アデルソンは少なくとも1億ドルの寄付をトランプ陣営に行い、その見返りとしてイスラエルによるヨルダン川西岸併合を求めている。選挙資金や裁判費用が足りないトランプは、公約の安売りをすることで寄付を募るようになっており、こうした献金はアメリカの民主主義を腐敗させているという批判が強い。今のトランプはまさに大統領令の大安売りで、ディールに勝ったと意気揚々だが、政策が雑であるため後で訂正するということが多い。

 またアメリカによるイスラエルへの経済支援のほとんどはアメリカ製の兵器の購入に用いられている。毎年150億ドル(およそ2兆2000億円)の軍事援助を行っているが、この金はアメリカの軍事産業複合体や親イスラエルロビーに循環し、莫大な利益を上げている。まさに死の商人が暗躍する世界で、戦争で儲けようとする人間がいる限り平和協議は難しい。こんな中でネタニヤフ首相は、国内での停戦を求める圧倒的な声があるにもかかわらずハマスを壊滅すると語り、戦闘を継続する姿勢を崩さない。しかし著者によると、2024年の6月にイスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は、ネタニヤフ政権が目指すハマスの壊滅は達成不能だと発言した。彼は、ハマスとは集団ではなく「思想」で、人々の心に根付いており、その壊滅を訴えることは国民を欺くものだと批判したそうである。実にまっとうな見解と思う。身内からこういう発言が出るようではこの政権もそう長くはないと思うが、アメリカのトランプがどこまでネタニヤフに付き合うのかが今後の焦点となろう。何はともあれ戦闘を一日でも早くやめて、平和共存を模索すべきだ。

 本書はイスラエルを取り巻く中東の状況、日本の立場等々非常に明快に書かれているので大変参考になる。そして何よりも戦争という暴力によって人が死ぬことへの怒りが行間にあふれていて共感を禁じ得なかった。

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