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読書日記

いろいろな本のレビュー

イーロン・マスク 上下 ウオルター・アイザックソン 文藝春秋社

2025-04-05 14:26:36 | Weblog
 トランプ政権で政府効率化省(DOGE)を率いる率いるイーロン・マスクは多くの政府職員を解雇しているが、そのやり方があまりにドライなこと、しかもマスクが議会の承認を受けていないため不評を買っていることなどで、トランプもさすがにこのままでは政権に対する批判が大きくなりかねないと思ったのか、近々退任させる予定というニュースが流れている。今や世界一の富豪と言われるマスクだが、少年時代は苦労の連続だったようだ。彼は南アフリカの出身で後にカナダを経てアメリカにたどり着いたが、父母は彼が五歳の時に離婚、10歳の時に弟のキンバルと一緒に父のエロールと暮らすことになった。父のエロールはイーロンによると、快活で一緒にいて楽しい時もあるのだが、意地が悪くなり、言葉の暴力を振るったり、妄想や陰謀論にとらわれたりすることもあったという。弟のキンバルも次のように言っている、「ものすごく優しいかと思えば次の瞬間に怒鳴り散らされ、何時間も小言を聞かされるんです。文字通り2時間も3時間もですよ」と。そして父親と暮らして7年。17歳の時イーロンはいい加減逃げなければならないと思って、つてを頼ってカナダに移った。南アフリカでは父親の虐待や学校でのいじめを経験している。公立高校ではさんざん殴られて、私立の男子校に転向したりもしている。何か標的にされやすい資質があったのだろが、実は彼は自閉スペクトラム障害=アスペルガー症候群だということがわかっている。理数系の才能に恵まれているが、他人に共感することができない特徴があるという。父の独裁的支配と自閉スペクトラム障害、この二つが今のイーロンの人となりを形作っている。

 イーロンはスタンフード大学院時代に人生の目標ができていたという。イーロンの言葉では、「人類に大きな影響を与えることがしたいと考えました。思いついたのは三つ。インターネットと持続可能エネルギーと宇宙旅行です」となる。今彼はその目標に向かって着々と進みつつある。その仕事ぶりについて著者は言う、「マスクは最初から過酷な仕事人だった。社員が退勤した後、作業途中のコードを書き換えることもある。共感力があまりないタイプなので他人の間違いを人前で正すことが愛情への道にならないと本気でわかっていないし、わかったとしても気にしない。スポーツチームのキャプテンの経験もなければ友達をまとめるリーダーの経験もなく、本能的に友情を求めることもない。そのあたりはスティーブ・ジョブズと同じで、仕事仲間の気分を害したり恐れられたりすることを全く気にしない。誰もが無理だと思った成果をあげさせられればそれでいいのだ」と。イーロンは会議で次のように言ったという、「チームのメンバーに愛してもらうことなど仕事ではない。そんなの百害あって一利なしだ」と。人徳の無い人間の負け惜しみのようにも聞こえるが、徳はないが金はある。何か文句あるかというのが彼の言い分なのだろう。

 イーロンがツイッターを買収した時、残すべき社員についてこう言った、「残すのは3つの条件を満たす技術者だけ。優秀であること。信頼が置けること。やる気に満ちていることだ」と。その結果、社員の75パーセントがいなくなった。8000人弱だった社員数はひと月半で2000人強になったという。これがイーロンの仕事の流儀だ。この国には儒教の説く、仁、恕などは無縁のものらしい。他人の痛みに共感するというのは、人間の大事な心情だと思うがイーロンは不要だと言う。トランプ大統領も今や関税問題で世界を敵に回しているが、自国フアーストを貫く姿勢はイーロンとかぶるものがある。でもイーロンはやりすぎてトランプに捨てられることになった。自然の流れと言えよう。そのうちトランプもどうなるかわからない。今アメリカに必要なのは徳のあるものがリーダーになるべきだという儒教的発想だろう。『論語』が今なお読み続けられていることを軽視してはならない。この書物に込められた思想は東アジアのみならず世界的に通用するものなのだから。本書にはイーロンの女性関係についても詳しいレポートが載っており、彼の人間像を知るうえで大変参考になる。

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