(前回からの続き)
前回、「アベノミクス」の下では、「自分は円の預貯金オンリー。苦情が増えている『外貨建て保険』購入みたいなリスク投資はしていないから、損することはないよ」と言い切れないところがコワイと書きました。つまり、公的投資にともなう「元本割れ」損害を、そんな堅実な人々を含む国民全員が食らうおそれが高まっているということです・・・
これが懸念される投資主体の1つ目が公的金融機関です。これらは、「公的」すなわち政府の影響下にあり、その政府が現在、アベノミクスのリスク投資傾倒路線をとっているわけだから、その意向を受けてハイリスク・ハイリターン的な投資に突っ込んでいるはず。その代表格が日銀になるわけです。まあ当然といえば当然ですね(?)、だって日銀がその筆頭の旗振り役で、リスク市場を盛り上げないといけませんから・・・
このあたり、日銀が何をやっているのか、については以前の記事でも何度か書いているので、ここでは公的性格を持つ他の金融機関として、農林中央金庫(農中)―――全国の農協等から集まった資金を運用等する組織―――を取り上げてみようと思います。で、その農中、資産規模は100兆円を超えるビッグなスケール(2017年度決算資料によれば107兆円!)、そして総資産の6割近くに当たる60.5兆円(2018年3月末時点、以下同じ)ほどが・・・「市場運用資産」となっています。いっぽう、金融機関の本来の資産であるべき貸出金はその約1/5、全体の11%程度に過ぎません。これを見るとこの組織、農林水産業者のための金融機関・・・などではなく(って、この点をとらえ、以前、自民党の小泉進次郎議員が、農林水産業への融資をほとんどしていない農中なんていらない!みたいな主張をしていましたが・・・)、実質的には「ヘッジファンド」といえるでしょう。実際、欧米金融界では農中は日本最大のヘッジファンドとみられているようです・・・
で、その運用資産の中身ですが・・・同決算資料によると、上記60.5兆円のうち63%(38.1兆円)が債券。そして通貨別内訳では米ドルが53%、ユーロ15%などと、外貨が全体の72%を占め、円建ては3割に届きません・・・
このように外貨建て資産、とりわけ外債に偏重投資している感じの農中の財務基盤ですが・・・上述の「元本割れリスク」が極めて高いもの、とはいえないでしょうか。いまでこそ、これらは「アベノミクス円安」で高く評価されている面があります。ですが、以前から書いているように、為替レートを実質実効ベースでみれば、アベノミクス中のここ数年は極端(20%以上)と言っても過言ではないほどの円安外貨高です。ここでもし、これが本来のレート、たとえばアベノミクス前の1ドル80円あたりに戻ったら、そして円高回帰ということで市場がリスク・オフ・モードになれば・・・これら外国債券&外国株の円換算額は暴落して・・・
農中の純資産は18年3月末時点で6.7兆円、つまり上記外貨建て運用資産(40兆円あまり)に20%の為替損などが生じたら軽~く吹き飛んでしまう程度の脆弱さです。そのときは当然、政治経済的な大問題となるでしょうが、おそらく・・・真面目な預金者(多くは農林水産業者)に損をさせるわけにはいかないから、結局は農中を救う以外にない、となって、大量の公的資金が投入されることになるのでしょう・・・か? ちなみに農中は銀行免許を持っているのに、その所管官庁は金融庁ではなく、農水省です(って、このあたりに農中がバブル期から欧米金融危機期にかけて投融資等の失敗を繰り返してきたことの原因があるように思いますね、経営・財務等チェックが甘くなるから)。であれば農水官僚は、何が何でもこの金融界で唯一の縄張り?を守ろうとするでしょう、巨額の公的資金・・・という名の血税を使ってでも・・・
こんな具合に、わたしたちは否応なくアベノミクスのツケを払わされる・・・おそれがあります、どんなに「自分は『外貨建て保険』なんてアブナイものには手を出していないから大丈夫」などとアベノミクスから距離を置こうとしたところで・・・(?)