(前回からの続き)
以前から書いているように、アベノミクスは「カブノミクス」(私的造語:取り柄は「株のみ」)であり、そのためには円安外貨高・株高が必要です。このモードが保たれる限りは株価も外貨も、円建てではその価値は膨らむことになるためです。この恩恵を受けるのが、株や外貨建て資産といったリスク資産を大量に保有する、前述の政府系金融機関とか公的年金基金(年金積立金管理運用独立行政法人:GPIF)などとなります。
ですが、いっぽうでこれらの価値をマネーの世界標準である米ドルを物差しとして測ると・・・逆に小さくなったりしていることが分かるわけです。それはそうでしょう、アベノミクス前まで80円の価値で1ドルだったものがいまは110円にならないと1ドルの価値に届かないのだから。それでも―――円安外貨高になっても―――トータルでは円建てでもドル建てでも増えていればよいのですが、たいていの場合、円建て価格は増えたけれどドル建て価格にするとマイナスになっています・・・・
このあたりを、前回ご紹介したGPIFの運用資産額で見てみましょう。その2018年12月末時点の運用資産額の円建て価格は約150.7兆円です。いっぽう、アベノミクス直前(つまりいまの円安ドル高モードになる直前)にあたる2012年9月は約107.7兆円です。これだけを比較するとGPIFはこの6年あまりでほぼ4割近く、43兆円も年金原資を増やすことに成功・・・したように見えます。しかし、これをドルベースでみると・・・前者には1ドル110.91円(2018/12最終営業日終値)、後者には同77.61円(2012/9最終営業日終値)を適用すると、それぞれ1兆3584億ドル、1兆3880億ドルとなって後者、つまりいまから6年半も昔のほうが年金原資が多かった、という計算になります・・・
こちらの記事等に以前、書いたように、この手の資産がいくら円建てで増えても、このようにドル換算額で減ってしまっては、日本国民はけっして豊かになったとはいえないと考えています。なぜならドル価値が減った分だけわたしたちは、石油・・・に代表される燃料や原材料の購買力を失ったことになるからです。これら、外国から輸入しなければならない戦略物資は、原則としてドルでしか買えないことになっているから、自分たちの資産のドル価値が減ってしまったら、いくら円建てで増えても喜べない、ということです。
いまのアベノミクスの推進役?である上記投資主体の多くは、決算や運用成績等は(円建てでは)一見、好調なようにみえて、実際にはこうしてドル価値を失っています。ようするにわたしたちはアベノミクスでトクをしたようで、じつはソンをしている・・・。このあたり本ブログでは、上記状況を金融政策「異次元緩和」で演出中の日銀・黒田総裁のお名前にちなみ、これを黒田魔術、略して「黒魔術」と呼んでいるところです。