仙台開催の感染症学会・化学療法学会合同学会(東日本)に出ている。台風による水害で機能停止した病院から、一部の患者さんが当院にも搬送されてきているが(10名の予定)、当方は不在で、他の先生方にお願いすることになった。
木曜日は三鴨廣繁先生の「インフルエンザ診療の現状と問題点」の講演があって、興味深く、というよりは面白く聴いていた。
インフルエンザ2018-2019シーズンは、流行状況が例年とは違っていた。例年はA型インフルエンザのどれか(H1N1かH3N2)が流行して、その後にB型インフルエンザが流行する。2018-2019シーズンは、A/H1N1型pdm09とH3N2の両方が同時に流行して、B型の流行はほとんどなかった。
今年2019-2010は9月からインフルエンザが流行し始めて、流行時期が異様に早い。ただしインフルエンザウイルスの変異はないそうだ。
2009年の新型インフルエンザA/H1N1型pmd09の時、感染症学会のインフルエンザ対策委員会は、すべてのインフルエンザ患者に抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)を投与することが提言された。渡辺彰先生がエキスパートオピニオンとして出したそうだ。その結果日本では外国に比べて重症例・死亡例が圧倒的に少なかった。(なるべく薬を使用しないことを良しとする感染症医からは、投与の必要がない通常のインフルエンザ患者にも投与することになった、という批判もあった。でも効果があったことは間違いない。)
2009年からオセルタミビル耐性が問題となった。新型インフルエンザA/H1N1型pmd09のオセルタミビル耐性は2%程度で落ち着いている。リレンザ、イナビルの吸入薬は何故か耐性にならない。
2011年の改定された提言では、重症度の観点からみたインフルエンザ患者の分類と、それに基づいた抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)の使用指針が提言された(下記)。これは三鴨先生が作成したそうだ。
2019年の提言が近日中に出されるが、三鴨先生の話では、2009年とは違ってエビデンス重視の提言になっているそうだ。抗インフルエンザ薬を投与すべき患者(高齢者・年少者、基礎疾患あり、免疫抑制者、妊婦など)を既定して、それ以外の患者への抗インフルエンザ薬の投与については医師の裁量で決定することにしている。(委員である三鴨先生は中途半端な提言になったことに不満があるらしい)
エビデンス重視なので、治療薬では論文の多いオセルタミビル(タミフル)を推奨するようになっている。オセルタミビルは発症48時間以内で(だけ)使用することになっているが、実際は48時を過ぎても有効という結果が出ている。
バロキサビル(ゾフルーザ)は2018-2019シーズンで低感受性株(あえて耐性とはいわないらしい)が検出されており、単独では使用しがたいという。A/H1N1型よりH3N2で低感受性になり、10%に及んだ。
イナビル吸入懸濁用160mgセットが販売されて、ネブライザーで使用できるので吸入薬が使いにくい高齢者や小児で使えるという。(この講演はイナビルを販売している第一三共製薬の提供)
三鴨先生の岐阜大学病院では、抗インフルエンザ薬の予防投与は治療量でしている。タミフル1日1回10日間ではなく、1日2回で使用する。イナビルはもともと1回吸入なので治療量で使用することになる。岐阜大学病院の院内インフルエンザアウトブレイクでは約1億円かかった。
診断についてはインフルエンザ迅速試験は73%程度の陽性率しかない。迅速試験陽性から陰性になってもインフルエンザウイルスが残っていて、治癒・隔離介助ときめられないこともある。PCRなどの遺伝子検査(NAAT)での診断が好ましいという。(まだ市中病院では難しい)
予防として手指衛生は二次感染を低下させる。マスクもエビデンスとしては難しいがするべきだ。医療従事者は病院より家庭内の感染が多いので注意が必要だ。(実感できる)
外見は反社会勢力にしか見えない素敵な三鴨先生の名調子を聴けてよかった(個人的には大好きです)。三鴨先生が何度か開業しようとしたところを(もともと産婦人科医)、講演の座長をしていた賀来満夫先生に止められてここまで来たという話が意外だった。
実臨床としては、インフルエンザ迅速検査をしないわけにはいかない。また診断したら、抗インフルエンザ薬を投与しないわけにはいかない。必ずしも抗インフルエンザ薬を投与しなくてもいいとされる普通の人でも、インフルエンザに罹患することはとてもつらい。
重症度の観点からみたインフルエンザ患者の分類
A群.入院管理が必要とされる患者
A-I群:重症で生命の危険がある患者。たとえば、昇圧薬投与や人工呼吸管理等の全身管理が必要な例、肺炎・気道感染による呼吸状態の悪化例、心不全併発例、精神神経症状や意識障害を含むその他の重大な臓器障害例、経口摂取困難や下痢などによる著しい脱水で全身管理が必要な例、などがこれに当たる。
【参考】
日本呼吸器学会では、市中肺炎の重症度および入院について以下の基準5)を示している。
※ただし意識障害があれば1項目でもICU入院とする。
A-2群:生命に危険は迫っていないが入院管理が必要と判断される患者。A-1群には該当しないが医師の判断により入院が必要と考えられる患者、合併症等により重症化するおそれのある患者、などがこれに当たる。なお、この群を、肺炎を併発している群と、肺炎を併発していない群との2つに分ける。
B群.外来治療が相当と判断される患者:上記A群のいずれにも該当しないインフルエンザ患者。
抗インフルエンザ薬の使用指針
以下は成人患者に対する使用指針であり、小児患者への投与に関しては各薬剤の使用指針に従って適宜減量する。なお、来シーズン以降に実用化される見込みのファビピラビル(T-705)については、今後然るべき時に追加記載する予定である。なお、わが国ではオセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビルと4種類のノイラミニダーゼ阻害薬が臨床現場で使用されているが、原則として、ノイラミニダーゼ阻害薬同士の併用は避けるべきである。オセルタミビルとザナミビルの併用では、オセルタミビル単独よりもウイルス学的、臨床的に、効果が低下することが報告されている48)。なお、以下には各群ごとに推奨の順に薬剤を示した。
A群.入院管理が必要とされる患者
A-I群:重症で生命の危険がある患者
オセルタミビル(タミフル®)
ペラミビル(ラピアクタ®)
重症例での治療経験はオセルタミビルがもっとも多い。経口投与が困難な場合や確実な投与が求められる場合、また、その他の事情により静注治療が適当であると医師が判断した場合にはペラミビルの使用を考慮する。その際、1日1回600mgを投与し、重症度に応じて反復投与を考慮するが、副作用の発現等に十分留意しながら投与することが必要である[3日間以上反復投与した経験は限られている]。なお、A-1群では、吸入の困難な患者が多いと考えられるため、吸入剤の投与は避けるべきである。
(三鴨先生はA-1群の時は、ノイラミニダーゼ阻害薬(ラピアクタになる)とゾフルーザを併用するが、これはエビデンスの問題ではなく、医師として人としてなすべきだ強調されていた)
A-2-1群:生命に危険は迫っていないが入院管理が必要と判断され、肺炎を合併している患者。
オセルタミビル(タミフル®)
ペラミビル(ラピアクタ®)
オセルタミビルの使用を考慮するが、経静脈補液を行う場合、その他の事情により静注治療が適当であると医師が判断した場合にはペラミビルの使用を考慮する。なお、肺炎を合併しているこの群の患者では吸入剤の効果は限定されると考えられるため、吸入用製剤を投与適応から除外した。また、前述したように、ペラミビルの増量例や反復投与例における安全性は慎重に観察すべきである。
A-2-2群:生命に危険は迫っていないが入院管理が必要と判断され、肺炎を合併していない患者。
オセルタミビル(タミフル®)
ペラミビル(ラピアクタ®)
ザナミビル(リレンザ®)
ラニナミビル(イナビル®)
オセルタミビルの使用を考慮するが、経静脈補液を行う場合、その他の事情により静注治療が適当であると医師が判断した場合にはペラミビルの使用を考慮する。なお、吸入投与が可能な例ではザナミビル、ラニナミビルの投与も考慮する。また、前述したように、ペラミビルの増量例や反復投与例における安全性は慎重に観察すべきである。
B群.外来治療が相当と判断される患者。
オセルタミビル(タミフル®)
ラニナミビル(イナビル®)
ザナミビル(リレンザ®)
ペラミビル(ラピアクタ®)
オセルタミビルやラニナミビルあるいはザナミビルの使用を考慮する。ラニナミビルは1回で治療が完結するので、医療機関で服用することにより確実なコンプライアンスが得られるが、吸入剤であるので吸入可能な患者に使用することを考慮する。経口や吸入が困難な場合や、その他の事情により静注治療が適当であると医師が判断した場合にはペラミビルの使用も考慮できる。なお、外来での点滴静注や吸入投与に際しては患者の滞留時間を考慮し、特に診療所等で有効空間が狭い場合でも、飛沫感染予防策・空気感染予防策など他の患者等へのインフルエンザ感染拡散の防止策を考慮することが必要である。