Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『七月大歌舞伎 昼の部』 2等A席右袖

2012年07月08日 | 歌舞伎
新橋演舞場『七月大歌舞伎 昼の部』 2等A席右袖

『ヤマトタケル』
私はスーパー歌舞伎はだいぶ昔に観たきり(『三国志』、『八犬伝』)でかなり久しぶり。『ヤマトタケル』は初見です。「スーパー歌舞伎ってこういうのだったなあ」って妙に懐かしく感じました。個人的好みからするとやっぱりちょっと外れていましたが芝居としてまとまっていたし役者さんたちも良かったしその部分で楽しみました。

私にはスーパー歌舞伎の台詞廻しがどうしてもすんなり耳に入らないです。なぜなんだろう…。演出は今拝見すると当時としては本当に凄かったんだろうなって思いました。今では目新しくはないのですがそれだけ影響を与えたということでもありますよね。火の立ち回りの京劇の方々には思わず「わ~」と声が出ました。猿之助さんは古典でも(『国性爺合戦』)京劇の方の立ち回りを見せてくださいましたがこの融合の試みは今でも見応えがあって今後も続けていただきたいなと思います。

ヤマトタケル@猿之助さん、両性具有的な魅力がある。性がまだ未分化な少年という雰囲気。幼さがあるので父に認められたい思いや故郷大和へ戻りたいという願いに切実さを深く湛える。すでに猿之助さんのヤマトタケル像が造詣されていたと思う。猿之助さんのヤマトタケルは反対に男性性が少ないので母性本能を擽るのだろうとは思いつつも多くの女性との恋愛部分がどうもしっくりこない。恋愛の色気が出てない感じがした。タケヒコなど男性を相手にしている部分のほうが色気がでてるように思いました。それと今回の猿之助さんタケルには「油断」はあっても「傲慢」はなかったかな。三代目のヤマトタケルはどうだったんでしょう。

タケヒコ@右近さんが終始かっこよかった。猿之助さんタケルが柔らかな雰囲気なので対照的な剛な雰囲気なのも良かった。剛だけどしなやか。その立ち振る舞いが美しかった。台詞回しが歌六さんに非常に似ててちょっとビックリしました。

熊襲兄タケル/山神@彌十郎さんの精神に柔軟さがある存在感そして熊襲弟タケル/ヤイラム@猿弥さんの懐の深い男気がこの芝居を締めていたと思う。このお二人が本当に良かった。とっても魅力的なキャラを造詣されていたと思う。

兄橘姫/みやず姫@笑也さん、硬質な美しさが役に似合ってました。兄橘姫のほうが好きかな。最後の場が特に良かった。タケルを失った寂しさのなかに凛とした強さを感じさせる。ワカタケルを見守る母の顔での優しい風情もよかった。團子くんをさりげなくしっかりリード。

弟橘姫@春猿さんは情熱的な弟橘姫をまっすぐに。

倭姫@笑三郎さん、台詞の間のつけかたが本当の上手い。どことなく玉様を髣髴させる台詞廻しだったかも。

尾張の国造@竹三郎さん、出は少ないのにこの方が出ると舞台が弾む。人物造詣のバランスが良いんですよね。またそれを表現できる。

帝の使者@月乃助さん、口跡の良さとすらりとした姿で見栄えする。この方は裁き役が似合いますね。

ワカタケル@團子くん、拵えがよく似合い可愛い。通る声でしっかりと台詞を言い観客から盛大な拍手。今からすでに澤瀉屋独特の押しの強い台詞廻しをしてる!!

全体的に中性的な猿之助さんタケルとのバランスで考えると今回女形さんが前に出てなかったように思えてそれが残念。皆さん美しかったし良い芝居はしてたと思うんだけど。物語的にも古い価値観での役割でしかないから尚更なのかな~。