Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

2013年09月07日 | 歌舞伎
新橋演舞場『九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

久しぶりの演舞場、客層が面白かったです。若いのから年の方まで男性率がかなり高かったです。歌舞伎が初めてな雰囲気がありあり。題材に惹かれてきたぽい。そして終演後、皆さん楽しそうでした。

『不知火検校』
ムダに役者が豪華!配役をきちんと調べていかなかったので驚きました。確かに大歌舞伎
でした。また大道具が何気に大掛かりで好みでした。ただしその分、場面転換はまったりしてたかな。でもまだ初日近くですし、もっと転換は早くなるでしょう。カラスが動いていたのにはビックリしました。かなり効果的な使い方。幸四郎さんは大道具の使い方が上手な役者さんだと思います。

富の市@幸四郎さん、極悪非道な悪役を凄みのなかにどこか飄々とした味を利かせ見せていきます。芝居の緩急が巧く吸引力がありますね。盲目なのに悪党の中心になっていくだけの胆があります。冷酷さのなかに盲目である寂しさがのぞくのが幸四郎さんらしい造詣でかなりいやらしいキャラクターのはずですが観客の視点を自分のところにもっていってしまう。特に検校になってからの凄みが本当にお見事。

生首の次郎@橋之助さん、颯爽としつつもやることはいかにも小悪党。そのギャップが面白かったです。淡々と富の市の悪さに加担していく。どこか人間らしい感情に欠いてるように思えてゾッとします。

鳥羽屋丹治@彌十郎さん、いかにも根っからの悪党である程度の才覚もありながら、どんどん富の市に使われていってしまう弱さのバランスがよかったです。

玉太郎@亀鶴さん、兄の丹治とともに根っから小悪党ではありつつ心の弱さをもつキャラクターを、その時々の感情に振り回されていくような芝居で説得力がありました。

おはん@孝太郎さん、いわゆる美人ではないですが色気があるので巷で大人気な娘というのがよくわかる造詣。ちょっとプライドが高く、自分を捨てない強情さなど巧み。孝太郎さんの巧さが発揮されたお役かと。女のいやらしい部分をそらさずに見せる。感嘆しました。

浪江@魁春さん、旗本の奥方らしい品のなかに女の弱さをのぞかせそこが色っぽくてなかなか良かったです。富の市に騙された時の戸惑い、何もできない悔しさが明確に伝わってきました。こういう感情表現を歌舞伎でみせるのって大変だと思うのですが的確だったと思います。

富之助が@玉太郎くん、悪の萌芽をみせる子供の頃の富の市をそれらしくみせたのがお手柄。玉太郎くんはこのところ芝居が上手くなってきましたね。

おはんの母親の秀太郎さん、幸吉の女房のおつまの高麗蔵さんが少ない出番で「女」としての存在感をみせて印象に残ります。


『馬盗人』
この演目はほのぼのと楽しくて大好きな演目です。三津五郎さんがいらっしゃなかったのがやはりとても残念でしたし、三津五郎さんのキレ味のよい動きをつい求める場もありつつも翫雀さん、橋之助さん、巳之助さんのチームワークの良さがあって気持ちのよい追い出し狂言でした。なんといってもお馬さんの大活躍ぶりに拍手喝采。