読書日和

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「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」武田綾乃

2019-01-07 23:09:19 | 小説


今回ご紹介するのは「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」(著:武田綾乃)です。

-----内容-----
北宇治高校吹奏楽部は、過去には全国大会に出場したこともある強豪校だったが、顧問が変わってからは関西大会にも進めていない。
しかし、新しく赴任した滝昇の厳しい指導のもと、生徒たちは着実に力をつけていった。
実際はソロを巡っての争いや、勉強を優先し部活を辞める生徒も出てくるなど、波瀾万丈の毎日。
そんななか、いよいよコンクールの日がやってくるーー。
少女たちの心の成長を描いた青春エンターテインメント小説。

-----感想-----
中学校生活最後の吹奏楽コンクールのプロローグで物語が始まります。
語り手は黄前(おうまえ)久美子で、久美子の中学校は金賞を受賞します。
「金は金でも関西大会には進めないダメ金(金賞を受賞した学校の中から関西大会に進む学校が選ばれる)」とありましたが、金賞を受賞できたことに生徒達は盛り上がります。
しかし麗奈という子だけが涙を流しながら「悔しい。悔しくって死にそう。なんでみんな金賞なんかで喜べんの?アタシら、全国目指してたのに」と言っていたのが印象的でした。



久美子は京都府立北宇治高校に進学します。
入学式の校歌斉唱の時久美子は吹奏楽部の演奏を聴いて酷い演奏だと思い、これなら入部はやめようと思います。
また新入生代表の挨拶は高坂(こうさか)麗奈で、プロローグに登場した久美子と同じ吹奏楽部だった人でした。

久美子が教室に入り席に着くと隣の席の加藤葉月が話しかけてきます。
担任は松本美知恵という恐いベテランの音楽教師で吹奏楽部の副顧問をしています。
松本先生がクラスの名前の確認をした時、川島緑輝(サファイア)という名前の子がとても印象的でした。
緑に輝くと書いてサファイアは完全にキラキラネームだと思いました。
本人が恥ずかしがっていたのも印象的でこの名前は嫌だろうなと思います。

高校最初の一日が終わり久美子は葉月と話します。
葉月は中学はテニス部でしたが高校では吹奏楽部に入るつもりだと言います。
サファイアも話しかけてきて吹奏楽部に入るつもりだと言い、自身のことは緑と呼んでと言います。
緑は私立の聖女中等学園出身で、そこは吹奏楽部の超強豪校です。
緑はコントラバスの奏者、久美子はユーフォニアムの奏者でどちらも低音の楽器です。
二人の話を聞いて葉月が「ふうーん。うちはやっぱ派手な楽器がやりたいなあ。トランペットとか、サックスとか」と言っていたのはよく分かりました。
ヴァイオリンやフルート、トランペット、サックス(サクソフォン)などは高音の派手な音が出るので人気になると思います。
緑も吹奏楽部の演奏は下手だと思っていますがとにかく楽器ができたら良いと考えています。
緑も葉月も吹奏楽部に入ると言い、どうしようか迷っていた久美子は二人に流される形で入部することにします。

久美子が最寄り駅の京阪宇治駅で降りて歩いていると幼馴染みで同じ北宇治高校に入った塚本秀一が話しかけてきます。
熱心に話しかける秀一と冷たくあしらう久美子の掛け合いが面白かったです。
秀一も久美子が入るなら吹奏楽部に入ると言います。

吹奏楽部への入部希望者が音楽室に集められ、部長やパートリーダーなどが挨拶をして楽器の紹介をしていきます。
部長は小笠原晴香(三年生)でバリトンサックスの奏者、副部長と低音パートリーダーは田中あすか(三年生)でユーフォニアム奏者、トランペットパートリーダーは中世古(なかせこ)香織(三年生)です。

久美子はどの楽器にするかで悩み、あすかと緑に流されて中学校時代と同じユーフォニアムをやることにします。
緑は本人の希望で中学校時代と同じコントラバス、葉月はトランペットを希望しますが定員オーバーでチューバになります。

やがて顧問の滝昇先生がやって来ます。
滝先生は今年から北宇治高校にやって来た音楽教師で、生徒の自主性を重んじるので生徒達の手で今年度の目標を決めてほしいと言います。
そして生徒達が本気で全国に行きたいと思うなら当然練習も厳しくなり、大会に出場して楽しい思い出を作るだけで充分ならハードな練習は必要なく自身はどちらでも良いと考えていると言います。
北宇治高校の吹奏楽部は多くの生徒が練習を真面目にせず演奏が下手な状態ですが、表立って「大会に出場して楽しい思い出を作るだけで充分」とは言いづらいようで、多数決の結果全国大会を目指すことになります。
その多数決で一人だけ「京都大会で満足」に挙手をしたのが斎藤葵で、葵は久美子の家の近所の家に住む二つ年上の人です。
久美子がなぜ「京都大会で満足」に挙手したのかを聞くと「辞めるときにさ、意見は前から伝えてましたって言えるやん」と言っていました。
周りが全員全国大会を目指すほうに挙手している中で一人だけ「京都大会で満足」に挙手するのは勇気の要ることで、周りに流されがちな久美子との対比が印象的でした。

低音パートの練習が始まり、あすかの他にはチューバの長瀬梨子と後藤卓也、ユーフォニアムの中川夏紀(いずれも二年生)がいます。
吹奏楽部は三年生が35人、二年生が18人、一年生が28人で、二年生が少ないのはなぜなのかと緑が聞くと後藤が「一年生が気にすることない。知らなくていい」と言い険悪な雰囲気になります。

その帰り道に秀一が久美子に声をかけ、北宇治高校の吹奏楽部は嫌な感じだと言います。
秀一が今の三年生は晴香、あすか、香織といった特例を除いて全然練習しなくて、それが原因で練習をしようとしていた二年生と大揉めになり、何人もの二年生が吹奏楽部を辞めたことを話します。

毎年5月は「サンライズフェスティバル」という京都にある各高校の吹奏楽部が太陽公園を演奏しながら歩くパレードが行われ、まずそこを目指します。
曲はビートルズの「キャント・バイ・ミー・ラヴ」を演奏することになります。
初の合奏が行われますがそれぞれの楽器の音が全く合わずに滝先生に途中で止められて酷評されます。
滝先生の言い方は丁寧ですが凄まじく、パートによっては全く練習せず雑談していたのもばれていました。
滝先生からは次の合奏までにパート練習で合奏ができる状態にしておけと言われます。

その帰り道、久美子と秀一が滝は実力があるのかと言っていると突然後ろから激怒した麗奈があるに決まってるだろと言ってきます。
麗奈も吹奏楽部に入部し楽器は中学校時代と同じトランペットになりました。

次の日久美子がパート練習室に行くと滝先生が来ていました。
滝先生の指導はかなり上手く、次の言葉が印象的でした。
「音程というのは合わせるのがとても面倒ですが、美しい演奏はこの音程を無視してはできあがりません。超絶技巧を見せつけるだけが演奏ではないのです」

吹奏楽部が合奏の前に「チューニング」をした場面も印象的でした。
演奏者達が一斉に同じ音を出してその高低差を調節するもので、昨年の秋からクラシックを中心によくコンサートを聴いた私は演奏者達がチューニングをするのを何度も見ました。
今まで書いた記事では「音鳴らし」と書きましたが正式にはチューニングと呼ぶのかと思いました。

二度目の合奏ではどのパートも大幅に上手くなり滝先生は及第点だと言います。
この日まで滝先生は全てのパートの指導を行い、かなり手厳しいことを言われたパートもあり泣きながら楽器を吹く生徒もいたとありました。

サンライズフェスティバルが来週に迫りパレードで着る衣装が配られた時、スーザフォンという楽器が登場しました。
移動しながら演奏するにはチューバはあまりに重いため奏者の負担を減らすために作られたのがスーザフォンとあり、スーザフォンは知っていましたがそのことは初めて知りました。

サンライズフェスティバルの日を迎え、北宇治高校のパレードが始まると下手なはずだった演奏が上手いことに観客が驚きます。
さらにパレードの前に麗奈が個人でのチューニングをしていた時、その演奏のあまりの上手さに北宇治高校も他校も皆が演奏を止め麗奈のほうを見て辺りがしんとなる場面がありました。
麗奈は全国最強級の抜群の演奏力を持っています。
またサンライズフェスティバルには立華(りっか)高校という私立の超強豪校がやってきます。
立華高校はアメリカ海軍の中尉だったチャールズ・ツィマーマン作曲の行進曲「錨を上げて」を演奏していてどんな曲なのか気になりました。

立華高校には梓という久美子の中学校時代の同級生がいて二人で話をします。
梓が麗奈は立華高校から全額免除の話をもらっていたと言い、それなのになぜ北宇治高校に行ったのか気になりました。

中間テストが終わりいよいよ京都府吹奏楽コンクールに向かっていきます。
課題曲と自由曲が決まり、課題曲は堀川奈美恵さんという架空の人物が作曲した「三日月の舞」、自由曲はナイジェル・ヘスさん作曲の「イーストコーストの風景」(実在する曲)になります。
初心者10人を除いた71人のうち京都府吹奏楽コンクールでA部門に出場できるのは55人です。
全国大会まで行けるのはA部門で、小編成の学校や人数の多い吹奏楽部でA部門に入れなかった人達などが出場するB部門は全国大会への道はないです。
誰をA部門で演奏させるかについて滝先生は北宇治高校の慣例の「年齢順」を止めオーディションで出場者を決めると言い生徒達が騒然とします。
また「ソロパート」もオーディションで決めると言い、三年生を差し置いて一年生がソロの担当になることも有り得るためさらに騒然とします。

そんな中葵が吹奏楽部を辞めると言います。
久美子は出て行った葵を追いかけますが晴香が久美子より先に葵を追いかけていて話をします。
葵は「去年あんなにあの子らのことを責めてたくせに今年のうのうと全国を目指すとは言えない」ということを言っていました。
吹奏楽部を去った現在の二年生達が練習をしっかりやろうとした時に潰しておきながら、今年のうのうと全国を目指すと言うのはおかしいと感じているのだと思います。

久美子はみんなをまとめるのが上手く気さくでもありながら冷たさも感じるあすかに恐ろしさを感じます。
秀一が久美子にあすかのことが苦手だと言い、久美子も私らが思ってるような人ではない気がすると言います。

自由曲「イーストコーストの風景」の説明があり、曲についての理解が深まると曲の物語も分かるようになって面白いと思います。
また「へ音記号」という言葉が出てきて、音楽の専門知識のない私にはどんな記号なのか分からなかったので調べてみました。
調べると意味が分かりもっとしっかりと知識を身に付けたくもなります。
課題曲「三日月の舞」は低音の楽器が活躍する場面が多くさらに課題曲の中で一番難易度が高いとあり、楽譜を見て久美子は不安になります。
オーディションの日取りが近づくにつれて部の空気がピリピリしてきます。

宇治市の小学校では水道の蛇口をひねるとお茶が出るとあったのは驚きました。
お茶の産地宇治らしくて面白いと思います。

葉月は秀一のことが好きになります。
秀一が久美子を「あがた祭り」というお祭りに誘いますが、久美子は葉月の姿を見かけて咄嗟に近くにいた麗奈と行くことにします。
しかし久美子の胸中を見ると本人は自覚していませんが秀一のことが好きなのが分かりました。
久美子が麗奈と一緒に行くと言ったのはその場しのぎのつもりでしたが麗奈が乗り気になり一緒にあがた祭りに行くことになります。

あがた祭りに行くと麗奈は久美子と遊んでみたかったと言い意外に思いました。
久美子があがた祭りを歩く中学生を見た場面で「他人との差異を見せつけるために他人と同じように金髪にした中学生たち」とあったのは印象的な言葉でした。
また久美子が麗奈とお祭りに行くと言った日から秀一が久美子を避けるようになります。

オーディションの日を迎え久美子も演奏します。
オーディションの結果を発表するのは松本先生で、これは威圧感のある松本先生が言うことで生徒から不満が上がるのを押さえるためな気がしました。
久美子は低音パートのAメンバーで名前を呼ばれますが落ちた先輩がいました。
中学校時代、久美子がAメンバーになり自身が落ちた途端態度が変わった三年生の先輩がいたことを思い出し恐ろしくなりますが今度の先輩はそんなことはなかったです。

ユーフォニアムにソロパートはありませんが、次の日久美子はソロパートが発表された直後の様子を見ます。
トランペットのソロには麗奈が選ばれ、吉川優子という香織を慕う二年生がなぜ香織ではなく麗奈なのかと激怒します。
そして優子が滝先生が麗奈を贔屓していると言うと麗奈が激怒します。
この場面を見ると実力でソロパートの奏者が決まっても納得のいかない人は何かと因縁をつけるのがよく分かります。
やがてなぜ麗奈が北宇治高校に来たのかが分かります。

夏休みになり吹奏楽コンクール京都大会の日程が決まり、A編成の部は8月5日、6日に行われることになります。
「私、本気で思っていますよ。このメンバーなら、全国に行けるって」
滝先生のこの言葉が凄くドラマチックでした。
指導も最初は音程やリズムといったものだったのが日を追うごとに表現の仕方といった高度なものに変わっていきました。

「ソロは、あなたが吹くべきやと思う」
これは悔しさと相手を認める気持ちが一緒になっていて凄く引かれる言葉でした。

久美子はユーフォニアムが好きなのを自覚します。
物語を通して周りに流されて惰性でやっている感のあったのが最後に好きなのだと気づいていたのが良かったです。
そしてついにコンクールの日を迎えます。


この作品を読んでやはり青春小説は良いなと思いました。
演奏の下手だった吹奏楽部が強力な顧問のもと全国を目指してどんどん上手くなっていくのはとても盛り上がります。
吹奏楽部に所属している生徒達それぞれに様々な思いがあるのもよく分かり、温度差はありながらも後半ではみんな全国への思いを共にしていました。
前年度までの情熱のなかった吹奏楽部から一気に変わり全国目指して突き進んでいった生徒達の物語は引かれるものがあり面白かったです


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