読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「たった、それだけ」宮下奈都

2014-11-30 20:59:19 | 小説
今回ご紹介するのは「たった、それだけ」(著:宮下奈都)です。

-----内容-----
贈賄の罪が明るみに出る前に失踪した男と、その妻、姉、娘、浮気相手。
考え抜いたそれぞれの胸の内からこぼれでた“たった、それだけ”のこと。
本屋大賞ノミネート作『誰かが足りない』の感動ふたたび。
人の弱さを見つめ、強さを信じる、著者の新たなる傑作!

-----感想-----
宮下奈都さんの最新作は、少しミステリータッチな作品でした。
物語は第一話から第六話まであり、それぞれの話ごとに語り手が変わります。

第一話は「人を傷つけたことのない人なんていないと思うけど」という、蒼井さんという人の謎の言葉から始まります。
会社の空いた会議室で女性社員達がお昼を食べていた時のことです。
突然何を言い出すのかと、みんな訝しがります。
読んでいくと「私」が蒼井さんに恨まれていることが分かります。
はっきりとこちらを見て「もうのうのうとは生きていられなくなるだろうから」とまで言われていました。
一体何があったのか気になりました。

蒼井さんは海外営業部の望月部長のことを話し出します。
会社に大がかりな贈賄の容疑がかかっていて、その実行者が望月さんということになっています。
蒼井さんの話はどんどん広がっていきます。
「あたしがゆるせないのは」
「密告者よ。望月さんの人生を台無しにした」
そしてその目はまっすぐと「私」のほうを見据えています。
「私」の名字は夏目といい、密告者として蒼井さんから糾弾されています。
夏目と望月は愛人として付き合っていましたが、蒼井さんと望月も愛人として付き合っていました。

ある時、望月の油断から、夏目は望月のタブレット端末のパスワードを知ってしまいます。
そこには極秘の贈賄のデータがありました。
そして夏目は望月の贈賄のことを告発してしまいます。
極秘の贈賄データを見てしまった時、夏目の脳裏には中学二年の時に自殺した加納君のことが思い浮かんでいました。

「どうしたの」
たった、それだけ。それだけのことが、どうして言えなかったんだろう。


加納君に声をかけて助けてあげられなかったことを夏目は後悔していました。
この時の後悔が、望月の贈賄の告発へとつながったようです。
自分で告発しておいて望月に「逃げて」「逃げ切って」と言う心理状態は興味深かったです。
夏目は望月のことを
「汚い仕事をやらされて、断り切れずに引き受けてしまう」
と分析していました。

私の役目は、望月さんに生き延びてもらうこと。そして、望月さんを追い詰めたものを探ること。蒼井さんにはそのやり方がわからなかっただけだ。

夏目は望月を助けるために告発という行動に出ましたが、それが助けたことになったのかは本人にもよく分かっていません。


第二話の語り手は望月可南子。
望月の妻です。
ある時可南子の前に突然自分自身が現れて可南子は戸惑います。
現れた分身は姿形も考え方も可南子そのもので、可南子は分身と話しながら、自分自身を見つめていくことになります。
望月夫婦は当初、娘の名前を片仮名の「ルイ」にしようとしていました。
しかし夫が娘の名前を勝手に漢字の涙(るい)にして出生届を出してしまいます。
涙などという名前を勝手に付けられたことで、可南子は騙されていた、裏切られていたと感じます。

変わらないということがどんなに残酷なことか。近づくことも、遠ざかることもなく、ただずっと変わらないということ。
この言葉を見て、「幻想日記店」の不老不死のことを思い出しました。
たしかに全く変わらないというのは辛いことかも知れません。

それと可南子の出身地について「ふるさとの鳥海山」とあったので、山形県か秋田県の出身のようです。
一瞬宮下奈都さんの出身地である福井県の山かと思いましたが、調べてみたら山形県と秋田県に跨る山とありました。

可南子の夫に対する心境は印象的でした。

ずっと変わらずに穏やかな笑顔を保っていられるというのは、周囲の変化に鈍感だということなんじゃないか。何があっても変わらず、ただ笑っていられる。それは、やさしく見えて、途轍もなく冷たいということだ。

可南子は夫の望月が常に穏やかに笑っていることにこういった印象を持っていました。
ただ、この後に自身の分身と話す中でこの印象が変わっていくことになります。


第三話の語り手は望月正幸の姉、有希子。
姉から見た望月のことが描かれています。

辞めてもよかった。辞めるのは逃げることじゃない。
この言葉は印象的でした。
辞めなかった結果潰れてしまって深刻なダメージを受けるより、辞めて新たな道に行くのもひとつの選択だということです。

この話にも「たった、それだけ」という言葉が出てきます。
そしてどの話にもどこかでこの言葉が出てきて、それで小説のタイトルになっているのだということが分かりました。

「狐の嫁入り」という言葉も印象的でした。
空は晴れているのに雨が降っていることを「狐の嫁入り」と言います。

晴れているのに雨が降っている。弟そのままだった。涙を封印するようになって、顔はにこにこしていても、心の中に雨を降らせていた。
これは何だかよく分かる心境でした。
顔が笑っていたとしても心が笑っているとは限らないということです。


第四話の語り手は望月ルイの担任の先生。
ルイは小学三年生になりました。
担任の名前は須藤先生と言います。
この話ではルイの同級生の意地の悪さが際立っています。
川原乃愛(のあ)という子はどうしてルイに父親がいないかも知っているし、父親の贈賄のことも知っています。
そしてそれをもとに意地悪く攻撃してくる最低ぶりを発揮していました。

また、この話では「そもそも」という言葉が印象に残りました。

そもそも、と言われると、現在だけでなく、自分には手に負えないところまで遡って非難されている気がしてしまう。

これは全くの同感です。
私はそもそもという物言いが好きではないです。
それ故にここ何年も一度たりとも使っていない言葉でもあります。

俺は俺だ。たった、それだけ。その簡単な言葉が言えなかった。
俺は俺、私は私、言葉にするのは簡単でも、実際に周りに流されずに自分自身を保つのは難しいと思います。
大事なのは流され続けていってしまわないように、踏みとどまれるように、適度に俺は俺、私は私の意識を持つことかなと思います。


第五話の語り手は望月ルイ。
ルイは高校生になりました。
ルイは母親の病的な引っ越し癖に呆れ、既にあきらめています。
母親は夫の望月正幸の痕跡が少しでも見つかればすぐにその地に引っ越すようになっていました。

損ばかりしていると感じるということは、自分にはほんとうはそれ以上の価値があると言っているようなものだ。それほど恥知らずではないつもりだった。
これはかなり印象的な言葉でした。
嫌なことや不運なことが続くと卑屈になって「損ばかりしている」と思ってしまいがちなので私も気をつけたいと思います。

この話でルイは黒田トータという同級生に惚れられてしまいます。
しかしルイのほうはにべもない態度です。

もう少し向こうで話して。わざわざ聞こえる辺りで話さないで。めんどうくさい。
詳しくは知らない。知りたくもない。こちらがそう思っていることに限って、周りは耳に入れたがる。
知らせてやろう、知るべきだ、と押しつけるように。

父親のことが耳に入ってくることへのルイの心境です。
「こちらがそう思っていることに限って周りは耳に入れたがる」というのは本当にそう思います。

この話で望月とは満月のこと、すべてが満たされているということとありました
これは知りませんでした。
やはり言葉の意味を知っていくのは面白いなと思います。

黒田トータのトータという漢字も明らかになります。
親に変な名前を付けられると子供が苦労することになります。
私は「キラキラネーム」が思い浮かびました。


第六話の語り手は特養施設で働く大橋。
よく面倒を見てくれる先輩に益田という人がいます。
この益田という人の正体が興味深かったです。

大橋はルイと黒田トータの同級生で、半年前に高校を辞めて働き始めていました。
高校では辛い立場に立たされていたのですが、黒田トータのおかげで心境に変化が訪れます。

どうしてつらいと思い込んでいたのだろう。ほんとうにつらいのは、そんなことじゃない。駄目になっていく自分をみすみす見逃すほうがずっとつらい。

この作品は章ごとに印象的な言葉があるなと思いました。
心理描写も見事だし、流石宮下奈都さんだと思いました。
繊細な心理描写は芥川賞向きだと思うので、いつか受賞してほしい作家さんです


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決断-解散の凄さ-

2014-11-23 10:59:31 | 政治
消費税の10%への引き上げを巡るここしばらくの動き。
大多数の人はこう思ったのではないでしょうか。
「景気の状況を見て判断すると言いつつも、どうせ年内に来年10月の消費税10%への引き上げを決定するのは規定事項なのだろう」と。
しかし、そうはなりませんでした。
安倍晋三首相は消費税10%への引き上げを一年半延期することを決断し、伝家の宝刀「衆議院の解散」を抜刀しました。
解散総選挙で国民に信を問う決断をしたのです。

現在衆議院で300議席近い議席を持っている中で、それを減らすかも知れないのに解散をするのは凄く勇気が要ることです。
本当によく決断したと思います。

解散が必要だった理由は大きく三つあると思います。
一つ目は「税」という、国家国民にとって最も重要なものについて、民主党政権の時に決められ既に法施行されている規定路線を変更するからです。
国民に信を問うというのは民主主義の点から見ても至極真っ当な手段です。
この点、日頃から「民主主義の否定~」「暴走」「ファシズム」と、安倍晋三首相があたかも独裁政治家のように言っている人達の主張は荒唐無稽なものだと言い添えておきます。
早い話、自分達に都合の悪い(つまり日本にとっては良い)政策を打ち出された時に上記のフレーズを使って貶めているだけです。

二つ目は増税に凄まじい執念を燃やす財務省を押さえ込むには選挙で国民の声を明確に示す必要があるからです。
さすがに国民から「一年半延期の方が良い」の声が示されれば、今すぐの増税に反対の議員(例えば安倍晋三首相)を潰して無理やり増税に持っていくような増税工作もしずらくなるでしょう。

三つ目は国際公約になってしまっている消費税の10%への引き上げを延期するには、選挙で国民の声を示すしかないからです。
国民が延期を望んでいるとなれば、国際社会に対しても延期の説明の大義名分が立ちます。
国際金融、経済の面から見ても物凄くデリケートな問題なので、増税を延期するためには実のところ解散総選挙以外に道はありません。

まだあと2年任期があるので、このまま解散をせずにいればもうしばらくは与党として安泰だったのに、あえてそうはしませんでした。
背水の陣を敷き退路を絶ってまでして消費税増税の延期の決断をしたことを私は評価しています。
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「午前0時のラジオ局」村山仁志

2014-11-22 23:34:07 | 小説
今回ご紹介するのは「午前0時のラジオ局」(著:村山仁志)です。

-----内容-----
地方局の新米アナウンサー・鴨川優は、テレビからラジオに異動となり、憂鬱な気分を抱えていた。
妙に陽気なディレクターの蓮池陽一から、午前0時に始まる新番組の司会に抜擢されるが、その準備中のある夜、突然の豪雨で孤立した村に災害情報を流す大役を担うことに。
さらには陽一のとんでもない秘密が発覚し……。
ラジオ局で働く人々の奮闘を現役アナウンサーが描く、少し不思議で心温まる物語。
文庫書き下ろし。

-----感想-----
主人公は鴨川優。
優が勤務するローカル放送局はラジオとテレビの兼営局、いわゆるラテ局と呼ばれるものです。
ラジオ局のほうは放送設備の都合で本社から離れた丘の上にあります。
冒頭、時期は3月の半ばでラジオ局に来るのは新人研修以来ほぼ一年ぶりとありました。
4月から「ラジオ局勤務」の辞令が出されたため、異動前の挨拶をしに来ていました。

現在の社内におけるラジオ局の位置づけは、限りなく「独立ラジオ局」「他局」に近く……ラジオというメディアについては「オワコン」、終わったコンテンツと言ってはばからない、口の悪い社員すら存在した。

この「ラジオはオワコン」には違和感を持ちました。
実のところテレビのほうもオワコン(終わったコンテンツ、既に斜陽状態で往年の力はないという意味です)なのでは。
この辺りは作者がテレビ、ラジオのアナウンサーということで、既存マスコミの斜陽状態への認識が乏しい気がしました。

ラジオ局には蓮池陽一というディレクターがいます。。
20代後半くらいで、明るい茶色の瞳でやや長い髪が軽くカールした、少女マンガにそのまま登場できそうなルックスの男です。
この蓮池陽一の正体が謎でした。
ラジオ局長によると「彼はまあ、言ってみれば幽霊社員だな。いつ出てくるか分からない」とのことで、それまでの様子を見ても本当に幽霊の可能性が高く、正体が気になるところでした。

優は高校球児だったのですが、本人はその過去に負い目があるようです。
高校の野球で何があったのか、気になるところでした。

優が担当することになった春の新番組は「ミッドナイト☆レディオステーション」と言います。
月曜から金曜まで帯の深夜バラエティで、スタート時間は午前零時です。
先輩アナウンサーの海野あおいも手伝いに来てこの番組のアシスタント・オーディションを行ったりもしました。

海野あおいの以下の言葉は印象的でした。

「真夜中って時間帯はね……普段は心の奥深くに隠れているものがひょっこり顔を出しちゃう、そんな不思議な力があるの。春から鴨川クンが担当する番組も、きっと色んなリスナーの恋や夢や希望や、反対にドロドロした欲望とか悲しさとか悔しさとか、色んなリスナーのナマの想いが届く番組になるわね」

また、陽一が「ラジオは心のライフライン」と言っていて、なるほどなと思いました。
たしかに災害の時などは携帯型のラジオがあると頼りになると思います。

ひょんなことから、新番組のアシスタントは山野佳澄という少女に決定。
優と二人で真夜中の放送に臨んでいくことになります。

蓮池陽一本人が
「このラジオ局では時々、物理的法則を超えた出来事が起こるな。ま、その最たる存在がぼくなんだけど」
と言っていて、同氏が幽霊であるのはいよいよ確定的になりました。
このラジオ局では幽霊がディレクターをやっているというわけです。

優の前に沢田コウという、高校時代の野球部のチームメイトが登場。
沢田は既に死んでいて、幽霊として優の前に現れました。
優がなぜ高校球児だった過去に負い目があるのか、ここで明らかになりました。

ラジオの本番中に天井に青い光が見え、ラジオを聞いていた幽霊から番組にファックスが送られてくることがあります。
これも陽一が言っていた「このラジオ局では時々、物理的法則を超えた出来事が起こるな」な現象です。
また、章ごとにそれぞれ霊的なエピソードがあるのもこの作品の特徴です。
物語は

第一話 洋館ラジオ局
第二話 最後の一球
第三話 月夜の夢
第四話 プレイボール
第五話 光のフルート
第六話 いつまでも君に
エピローグ

で構成されているのですが、そのどれもに霊的な要素がありました。

最後の章では陽一の死についてのことが書かれていました。
なぜ陽一が幽霊なのにラジオのディレクターをしているかの理由も明らかになります。
その最後の章で、陽一が不気味なことを言っていました。

「きみたち、知ってるかい?夕方はね、『逢う魔が時』ともいうのさ……昼と夜の境目は、幽霊や妖怪に会いやすい時間帯だ。霊媒体質の人間は、一応気をつけた方がいい」
「もひとつ。黄昏時は、『誰彼時』とも書くよ。誰、彼、時、だ。薄暗いせいで、彼が誰だか、誰だか彼だか、分からないってことさ……」


物語全体を通して霊的な要素が多かったです。
ただし怖くはなく、心の温まる話でした。
そしてサクサク読めるのはこの作品の良いところだと思います。
文章表現力や物語構成は私の好きな作家さん達に比べるとだいぶ及ばないのですが、読みやすいというのは大事なことです。
サクサク読める作品を探している人には良い一冊になるのではと思います。


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衆議院解散へ

2014-11-21 00:46:08 | 政治
一昨日、安倍晋三首相が衆議院を解散する意向を表明しました。
自民党で開かれた臨時役員会で安倍晋三首相は、GDP・国内総生産の伸び率が2期連続のマイナスとなったことなどを受けて、来年10月に予定されている消費税の10%への引き上げを平成29年4月まで1年半先送りすることを決断。
そしてその判断について国民に信を問いたいとして衆議院解散・総選挙を決断しました。

消費税を来年10月に10%に引き上げるのは今年4月の8%への引き上げと同じく民主党政権の時に決定され、法施行されました。
しかし今回、今年4月の消費税8%への引き上げ後の景気の状況を見て、このまま間髪入れずに10%へ引き上げるのは危険と判断。
平成29年4月まで1年半先送りすることを政治決断したため、解散総選挙で国民に信を問うことになりました。

私はこれ、よくぞ決断したと思います。
実のところ、国際公約になってしまっている消費税10%への引き上げを延期する手段は解散総選挙しかないと思います。

「大義のない解散」などと言っている人がいるようですが、そういう人達は普段同じ口で「政治家は国民の声を聞け」などと言っているのではないでしょうか。
今回はまさに国民に信を問うて声を聞こうとしているわけで、消費税増税の延期の決断についてどう思うのか、投票という明確な意思表示の手段があるのですから、それを行使すれば良いのです。
共産党、社民党、民主党、テレビ、新聞辺りの人達のように日頃は「国民の声を聞け」と主張しておいて、いざ選挙で聞く局面が来たら「大義のない解散」と言っていたのでは批判のための批判なのがバレバレですし、見ていて見苦しいです。
まずは投票に行きましょう。

私はぜひアベノミクスを続けていって引き続き日本経済を立て直してほしいと思いますし、デフレからも完全に脱却してほしいと思います。
そしてそれには、今すぐ消費税10%への引き上げを決断してただでさえ8%への引き上げで萎縮気味の消費活動をさらに萎縮させるより、間隔を開けてしっかりと準備を整えたほうが良いと思います。
10%への引き上げが不可避である以上、そこへ向かう道のりは経済への影響が少なくて済むものであってほしいと願います。

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「でーれーガールズ」原田マハ

2014-11-19 23:06:22 | 小説
今回ご紹介するのは「でーれーガールズ」(著:原田マハ)です。

-----内容-----
1980年、岡山。
佐々岡鮎子は東京から引っ越してきたばかり。
無理に「でーれー(すごい)」と方言を連発して同じクラスの武美に馬鹿にされていた。
ところが、恋人との恋愛を自ら描いた漫画を偶然、武美に読まれたことから、二人は急速に仲良しに。
漫画に夢中になる武美に鮎子はどうしても言えないことがあって……。
大切な友だちに会いたくなる、感涙の青春小説。

-----感想-----
原田マハさんの小説は「旅屋おかえり」で初めて読み、良い物語を書く人だなと思いました。
「でーれーガールズ」は書店で見かけて「映画化決定、80年代がよみがえる青春小説」とあり、興味を持って読んでみようと思いました。

物語の主人公は佐々岡鮎子、45歳。
小日向アユコというペンネームで活動している人気の漫画家です。
物語は鮎子の母校である岡山白鷺女子高等学校で国語教師を務めている荻原一子という人からの手紙で始まります。
それによると、岡山白鷺女子高等学校が創立120周年の節目を迎えること、荻原一子は創立120周年記念事業実行委員会の実行委員をしていること、そして創立記念事業の一環として佐々岡鮎子に記念講演をしてほしいということがしたためられていました。
最初は断ろうかと思った鮎子ですが、手紙の追伸に『アユたんのデビュー作「でーれーガールズ」が、私の人生最良の作品です。』とあり、ぐっときた鮎子。
鮎子は老舗の少女マンガ誌「別冊お花畑」(通称ベッパナ)に短大二年生の20歳の時にデビューしていました。
デビュー当時のニックネームは「アユたん」でした。
その時のデビュー作が「でーれーガールズ」という乙女チックなラブストーリーで、荻原一子はその頃のことを知っているようでした。
さらに時を同じくして「あゆがシラサギの創立記念講演会をやるなら」と、高校卒業以来27年ぶりに同窓会が開催されることになり、いよいよ岡山に行かないといけないかという状況になっていました。
同級生だった篠山みずのからの手紙に同窓会のことが書かれていて、その手紙の追伸に興味深いことが書かれていました。

追伸
広島に転校してしまった武美、覚えとる?
同窓会には、彼女も来る予定です。

秋本武美は転校してしまった友達です。
鮎子がシラサギに入学した当初、率先して鮎子をからかっていたちょっとワルそうな子です。
二人とも白鷺女子高進学クラス「Z組」という国立大学や有名私立大学への進学のために設けられた特別クラスにいました。
東京から来た鮎子に対し、「佐々岡さんってお上品すぎるんじゃが。でーれーとっつきにくいんじゃ」とつっかかっていました。
「でーれー」とは「ものすごい」というような意味の岡山弁です。
岡山弁の特徴については序盤で触れられていて、『幼稚園児が話しても「わし、アイスが食べてえんじゃ」って感じでもともとジイさん言葉なのが岡山弁の特徴』とのことです。
一人称が「ワシ」なのは広島弁と同じだなと思いました。

鮎子は同窓会に参加。
27年ぶりの同窓会は岡山駅前にあるホテルのレストランで開かれました。
同窓会の手紙を送ってきた篠山みずのなど懐かしい旧友たちに再会します。
秋本武美とも再会しました。
その後、武美とたくさん積もる話をして、二人の思い出の高校時代の回想が始まります。
現在と高校時代を交互に繰り返しながら物語は進んでいきました。

作中に何度か出てきた「大手まんじゅう」は実在する岡山銘菓で、かなり有名な饅頭のようです。
日本三大饅頭の一つとあって驚きました。
同じく何度か出てきた「白十字(はくじゅうじ)」という老舗洋菓子店のチーズケーキも興味を持ちました。今では珍しくなくなったチーズケーキですが、このお店は鮎子たちが高校生の頃既に販売していたとのことです。

二人の話には「ヒデホ」という鮎子の恋人だった男の名前がよく出てきます。
しかし恋人のヒデホは鮎子が作った架空の人物で、現実には存在しません。

あのひとは、孤独な私がノートに描き続けた、マンガの主人公。

このマンガをある時武美に見られてしまったことから、二人は仲良くなっていきました。
武美にはヒデホのことを少しずつ話すようになっていって、ノートに描いたマンガも続きをどんどん見せていました。
そして武美は次第にそのマンガの物語に引き込まれていって、やがて見たこともないヒデホ君に恋をしてしまいました。
鮎子のほうは、「ヒデホは現実には存在しない」という真実を武美に打ち明けることができず、封印することにしました。
この物語は架空のヒデホ君を巡る鮎子と武美の物語です。

そう。あの頃、私たちは誰もが光の中にいた。
おかしなものだ。光の中にいるときには、光を意識することなんてめったにない。
そのくせ、その場所から一歩踏み出すと、どんなにまぶしい光のさなかにいたのか、初めてわかるのだから。


この「光の中」とは高校の青春時代のことです。
たしかに高校時代を振り返ってみると、光の中にいたのだなと思います。
教室のワイワイガヤガヤとした雰囲気や友達との何気ない会話、弓道の部活動に明け暮れた日々が懐かしいです。

物語は以下の七話で構成されています。

#1 鮎子の恋人
#2 欄干ノート
#3 時間よ止まれ
#4 ジョージのブローチ
#5 聖夜
#6 リボンの白
最終話 友だちの名前

各章ごとに高校時代の振り返りがあります。
第三話の「時間よ止まれ」に「どんきほーて」という名前の喫茶店が出てくるのですが、ここでのエピソードは面白かったです。
同級生の篠山みずのが山岡高という「このへんでいちばんワルいと噂の男子高」の不良学生たちに囲まれていて、武美がみずのを助けるために突撃していきました。
その不良学生たちの追い払い方が面白かったです。

岡山は「晴れの国おかやま」というキャッチフレーズがあるくらい、年間の晴天率が高いとのです。
晴れの日が多いのは良いなと思います。

「どんきほーて」に置いてある「どんき自由ノート」への書き込みは横浜山手でのことを思い出しました。
横浜山手で西洋館巡りをした時に、自由に書き込めるノートの置いてある建物がありました。
この物語で「どんき自由ノート」に色々書いているのを見たら私もあの西洋館へ行ってノートに書き込みたいなと思いました。

鮎子はヒデホという架空の存在ではなく、鈴木淳という現実の高校生と一時期仲良くなっていました。
その話が第四話「ジョージのブローチ」と第五話「聖夜」に出てきます。
良い感じで付き合っていくのかと思いきや、驚きの展開が待っていました。

ちなみに鮎子と武美はお互いにとって一番の親友になりましたが、時に喧嘩をすることもあります。
二人の喧嘩のシーンは胸が痛みました。

鮎子の心境吐露に興味深いものがありました。
揺れる思いを、私は私は誰かに打ち明けて支えてもらいたかった。
正確にいえば、誰か、じゃなくて、武美に。


思っていることや悩んでいることを誰かに打ち明けるのはすごく勇気がいることですが、同時にすごく良いことだと思います。
話すことで重くなっていた気持ちが軽くなるかも知れませんし、自分自身の気持ちを整理することにもつながります。
そしてそんな大事なことを話すなら信頼している人が良いですし、鮎子にとって武美はそういう存在だということです。

私たちは、いまを生きて、あたりまえに年を取って、成長して、大人になっていかなくちゃだめなんだ。そう気がついたのは、いつだっただろう。
これも印象的な言葉でした。
自分自身と向き合っているなという気がしました。

第六話「リボンの白」の最後で衝撃的な展開があって、最終話「友だちの名前」へと入っていきます。
最終話はちょっと霊的な展開になっていました。
現在の鮎子が出会った、友だちと喧嘩をしてひとりぼっちで橋の真ん中に佇む少女の正体が明らかになって切なかったです。

橋の上にはいいにおいの風が吹いていた。咲きこぼれるジンチョウゲの花、のどかな日差しに温んだ川面。春のかけらの匂いが風に乗って漂っていた。
この文章はかなり良いなと思いました。
武美が引っ越す直前の春にピタリと合った文章で、人が去る時の雰囲気が見事に表現された良い文章だと思います。
原田マハさんの感性の綺麗さを感じました。

鶴見橋の、あっちとこっち。それが、三十年まえ、武美と私がそれぞれに歩んでいった道だった。

それから三十年を経て二人は再会することができました。
それだけ時間が経っていても昔のように楽しく話せた二人の関係、良いなと思います。
これこそ親友だと思いました。


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「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎

2014-11-16 13:11:17 | 小説
今回ご紹介するのは「アイネクライネナハトムジーク」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
ここにヒーローはいない。
さあ、君の出番だ。
奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、他力本願で恋をしようとする青年、元いじめっこへの復讐を企てるOL……。
情けないけど、愛おしい。
そんな登場人物たちが紡ぎ出す、数々のサプライズ!!
伊坂作品ならではの、伏線と驚きに満ちたエンタテイメント小説!

-----感想-----
作者本人があとがきに書いているように、伊坂幸太郎さんの作品にしては珍しく泥棒や強盗、殺し屋が出てこず、人が死ぬこともありませんでした。

まずこのタイトルに面食らいました。
作品を読んでいくと、アイネ・クライネ・ナハトムジークはモーツァルトの曲で、ドイツ語で「ある、小さな、夜の曲」という意味であり、日本語では「小夜曲」と言うことが分かります。
物語は以下の六編で構成されています。

アイネクライネ
ライトヘビー
ドクメンタ
ルックスライク
メイクアップ
ナハトムジーク

それぞれの物語はリンクしていて、その章で語り手だった人の友人や知人として登場した人が他の章で語り手になっていたりします。

「アイネクライネ」の語り手は佐藤という27歳の会社員。
マーケットリサーチを行う会社で、冒頭で佐藤は街頭アンケートをしていました。
普段はインターネットを活用してリサーチを行うのですが、藤間という先輩社員に巻き込まれる形で失敗をしてしまいデータが消えてしまったため、課長から残業代なしのアンケート作業を命じられていました。
藤間は優秀な社員なのですが奥さんに出て行かれ自暴自棄になっていました。

織田一真と織田由美の夫妻は、佐藤の大学の同級生。
織田一真はかなり適当な性格ですが、出会いについての織田一真の考え方は意外と興味深かったです。

「出会い方とかそういうのはどうでもいいんだよ」
「いいか、後になって、『あの時、あそこにいたのが彼女で本当に良かった』って幸運に感謝できるようなのが、一番幸せなんだよ」



「ライトヘビー」の語り手は美奈子。
美奈子は美容師をしています。
美奈子がよく担当するお客さんに板橋香澄という人がいて、冒頭は二人の会話で始まりました。
二人の会話の中でボクシングのウィンストン小野という人が出てきます。
日本では珍しいヘビー級の選手で、「アイネクライネ」に出ていたヘビー級のチャンピオンへの挑戦者と同じ人物です。
「アイネクライネナハトムジーク」ではこのボクシングのウィンストン小野の試合が重要な意味を持ちます。
作品を通して何度もウィンストン小野の試合のことが出てきていました。

美奈子の友人に山田寛子と日高亮一という人がいます。
三人揃って居酒屋に行ったりすることがよくあるようです。
この三人は居酒屋の帰り道、「斉藤さん」という人のところに寄っていました。
斉藤さんは路上で歌を売っている人で、客が料金の100円を払い「今、こんな気持ちです」「こんな状況です」と話をすると、斉藤さんがうんうんとうなずきパソコンを叩き、そこから曲の一部が再生されるというものです。
不思議なことに歌詞やメロディが客の気分にマッチしていて愉快な気持ちになるとのことです。
私はこれを読んで、昔横浜の路上でこちらが名前を言うと、ヘッドフォンをして音楽か何かを聞きながら一気に和紙に筆でメッセージを書いていた人のことを思い出しました。
最初に「○○」と名前が書いてあって、次に「○○の~」とメッセージが書かれています。

ちなみに板橋香澄の弟に学という人がいて、板橋香澄のいたずらから美奈子と学は電話で話をするようになっていました。
やがて明らかになる学の正体が意外なもので、この仕掛けには驚きました。
伊坂さんらしいなと思います。

また、美奈子の地元の友人で高校時代の同級生に由美がいます。
この由美は「アイネクライネ」に出ていた織田由美で、短編同士がリンクしていました。

学は一ヶ月半ほど全く電話をかけてこない時期があって、その後はまたかかってくるようになりました。
なぜその間全く電話をかけてこなかったのか、謎でしたが正体が分かって納得しました。
美奈子は山田寛子と日高亮一に学のことを話していて、ここまで読んだ時点で既に多くの人が登場していて、人と人の関わり合いがこの作品のテーマなのかも知れないと思いました。
最後はヘビー級ボクサー、ウィンストン小野の世界戦でこの短編のクライマックスを迎えます。


「ドクメンタ」は藤間の物語。
「アイネクライネ」で佐藤の会社の先輩として登場していた人です。
アイネクライネでは藤間の奥さんが藤間に愛想を尽かして出て行ってしまって、衝撃を受けた藤間は錯乱した精神状態になり、仕事場で突然叫び声を発し、目の前の机を蹴飛ばしてしまっていました。
それが原因で佐藤も巻き込まれ、大切なデータが消失してしまったというわけです。
「ドクメンタ」では奥さんが出ていってから既に半年経っています。
藤間の上司の課長が藤間と飲みに行った居酒屋で言った「夫婦の関係は外交と同じ」というのは印象的でした。

「いいか、藤間、外交そのものだぞ。宗教も歴史も違う、別の国だ、女房なんて。それが一つ屋根の下でやっていくんだから、外交の交渉技術が必要なんだよ。一つ、毅然とした態度、二つ、相手の顔を立てつつ、三つ、確約はしない、四つ、国土は守る。そういうものだ。離婚だって、立派な選択だ。ともにやっていくことのできない他国とは、距離を置くほうがお互いの国民のためだからな」

ちなみにこの短編では「銀行の記帳」が物語の鍵になっています。
愛想を尽かして出て行ってしまった奥さんに戻ってきてもらえるのか、興味深い物語の終わり方でした。


「ルックスライク」は「高校生」と「若い男女」の二つの物語が交互に展開されていきます。
「高校生」の語り手は久留米和人(かずと)で、ほかには英語教師の深堀先生や織田美緒などが登場。
織田美緒は織田一真と織田由美の娘です。

「若い男女」の語り手は笹塚朱美(あけみ)。
ファミリーレストランでアルバイトをしています。
冒頭、クレーマーの客が朱美に因縁をつけています。
そこに若い男が割って入ってきて、気になることを言います。

「あの、こちらの方がどなたの娘さんかご存知の上で、そういう風に言ってらっしゃるんですか?」
「いえ、あの人の娘さんにそんな風に言うなんて、命知らずだな、と思いまして」
「誰の娘かも知らずに、怒っているんだとしたら、あなたがちょっと心配になっちゃいまして」

これは『この子がどなたの娘かご存知ですか作戦』と言い、割って入ってきた男が咄嗟に考えたものです。
なかなかの効果を発揮して、クレーマーのおじさんも朱美が誰の娘なのか気になって因縁をつける声がトーンダウンしていました。
男の名前は邦彦と言います。
そこから一年が経ち、笹塚朱美は助けてくれた邦彦と付き合うようになっていました。
やがて一年半が経った頃、笹塚朱美のほうが邦彦に倦怠感を抱いていました。

大丈夫?と問われれば、大半の人は、「大丈夫」とほとんど反射的に返事をするものだとは、邦彦は気づいていない。

これは印象的でした。
たしかに大丈夫?と聞かれると自動的に「大丈夫」と答えてしまう場合が多いです。
しかし本当は大丈夫ではない場合も多々あると思います。

この話では邦彦の正体と笹塚朱美の正体が最後に明らかになります。
別々に進んでいた二つの話がある時ひとつに重なり合うという、伊坂幸太郎さんの最も得意とする展開がここで見られました。
しかもいつもとは少し違う重なり方をしていて新鮮でもありました。
二世代に跨がる驚きの文章マジックでした。


「メイクアップ」の語り手は結衣。
化粧品を作る会社で働いています。
同期の佳織は思いついたことを熟考することなく次々口にする性格で、結衣とは正反対ですが、意外にも安心して話ができる存在となっています。
結衣の旧姓は高木で、高校時代にいじめに遭っていました。
その時結衣をいじめていた小久保亜季が広告会社の社員として結衣の前に登場。
結衣の会社の新商品のプロモーションについて、その広告会社が名乗りを上げてきたのです。

この状況について佳織は「来たね、これは。復讐の時が来たわけだよ」と結衣に言ってきます。
あちらの会社は必死に契約を取りにきている状況で、立場からすればこちらは選ぶ側、あちらは選ばれる側で、完全に結衣が有利、さあ復讐しようというわけです。

またこの話では「ライトヘビー」に出ていた山田寛子が結衣の上司として登場。
26、7歳の頃に「会社でいっちょ頑張ってみるか」と思い、30代半ばとなった現在は広報部の部長補佐を勤めているすごい人です。

結衣は結婚して苗字が変わり、高校時代とは外見もかなり変わったため、小久保亜季は結衣が高校の同級生だということに気づいていませんでした。
そして結衣は亜季に誘われて合コンに行くことになります。
そこで結衣は亜季の内面が高校時代と変わっていないことを知ることになります。
それを知り、結衣がどうするのか、興味深かったです。


「ナハトムジーク」は今まで出てきた複数の人物の物語が順番に展開されていきます。
時系列も現在と19年前と9年前の3つあり、大きく時間が流れたことが分かります。
ウィンストン小野の試合が今までで一番物語の中心に来ていました。
織田美緒やその友達で藤間の娘の藤間亜美子が登場する物語もあり、二世代に渡る物語構成になっていました。

また、最後に別の章で登場していた「合唱コンクール」のネタが出てきて、これが意外でした。
改めてこの物語は「リンク、つながり」の物語だと思いました。
またいずれ読んでみるとより一層各章同士のつながりが分かり、ひとつの大きな物語が形作られると思います。


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坂道の向こう

2014-11-15 15:06:56 | ウェブ日記
写真は八王子みなみ野の「Mioみなみ野ショッピングセンター」と「フレスポ八王子みなみ野」の間にある坂道です。
この秋にみなみ野に行った時に撮りました。
10月ですが早くも秋の深まりを感じる風景でした。

私は学生時代、よくこの坂道を上って買い物に行きました。
食料品も揃えているドラッグストアや「パリール」というパン屋さんがあってよく買っていました。
パン屋さんのほうは現在はみなみ野内の別の場所に移転しています。

この坂道は曲がっているため、向こう側を見ることができません。
こういう坂道を見ると上っていって向こう側を見てみたくなります。
曲がっているところを登っていった先にどんなものがあるのかは興味深いです。

私の趣味のひとつに散歩があるのは、こういうところに由来しているのだと思います。
街歩きへの興味です。
やはり街を歩いて散策するのは楽しいですし、新たな道、お店、風景を知ることができます。
興味を持った道を歩いて行って思わぬ発見があったりすると嬉しいです。
新生活でも色々散策してみたいと思います。
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引っ越し

2014-11-09 14:45:14 | ウェブ日記
先日引っ越しをしました。
転勤することになり長く住んだ東京都を離れ、埼玉県に越してきました。
私はもともとの出身が埼玉県で、久しぶりに埼玉県民になります。

この一週間ちょっとは怒濤のように過ぎていきました。
まず荷造りがなかなか終わらずに困りました。
引っ越し当日の明け方の4時少し前にようやく終わりました。
長く住んでいると荷物も簡単にはまとまらないもので一苦労です。

引っ越しの日は午前中に引っ越し業者が来て荷物を送り出し、その後はアパートの管理会社の人が来て部屋の引き払いの立ち会い検査をしました。
幸いこれといった損傷はなく、敷金もいくらかは帰ってきそうです。
その後は急いで部屋を後にし、埼玉県の引っ越し先へと向かいました。
アパートに着いてみると、既に引っ越し業者のトラックが来ていました。
さらにガス会社の人も来ていました。
電気、水道、ガスのうち、ガスだけは使用開始の時に立ち会いが必要です。
引っ越しの荷物の搬入とガス会社の人の立ち会いが同時に進んでいきました。

洗濯機の水漏れもありました。
洗濯機の給水ホースを水道の蛇口に取り付けた後、試しに水を出してみたら水道の蛇口の水が出る部分と蛇口をひねる部分の中間にある繋ぎ目になっているところからポタポタと水が漏れていました。
街の水道屋さんに連絡して今日来てもらい、無事に直りました。
洗濯が出来ない状態が続いていたので休みの日のうちに何とかなって良かったです。

こんな状態でバタバタしていたため、まだ荷物の整理もついていません。
部屋には荷物の詰まった段ボール箱がたくさん残っています。
そしてインターネットもまだ使えるようになっていません。
これも使えないと不便なので早く使えるようにしたいです。

心機一転、新たな環境での生活が始まりました。
せっかくなので久しぶりの埼玉県民を楽しみたいと思います。
幸いなことに図書館が近くにあり、荷物整理が落ち着いたら行ってみようと思います。
食べ物のお店も色々行ってみたいと思います。
街のことを知り、土地勘を身に付けていくのが楽しみです。
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「吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ」山本渚

2014-11-01 18:01:50 | 小説


今回ご紹介するのは「吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ」(著:山本渚)です。

-----内容-----
高3になったかずらは、友達として側にいてくれる図書委員仲間・藤枝への想いの変化に戸惑っていた。
友達のままでいたいと言ったのは自分なのに、いまさら、それがさみしいなんて。
一方大地はあるきっかけから、かずらを女の子として意識しはじめる。
そしていよいよ受験も近づいて……。
高校生たちのもどかしい想いが交錯するシリーズ第3弾。
友人の快活女子・壬生っちの視点からかずらたちを描いた「女のトモダチ」を併録。

-----感想-----
※「吉野北高校図書委員会」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

高校三年生の夏休み
川本かずら、武市大地、岸本一、藤枝高広は図書委員を引退し、受験生として受験勉強をしています。
今でも司書室に入れてもらってみんなでしゃべったり勉強したりするものの、二年生の現役委員の時に比べたら少なくなったし、特に夏休みに入ってからは司書室より図書室の側にいることの方が多くなり、かずらはそれをちょっと淋しく感じていました。

「3」の序盤では武市大地の友達で同じハンドボール部の小嶋という男がかずらに猛烈アタックをしてきます。
「頼む!大地、俺かわもっちゃんのこと好きなんよ。協力して!」
と大地にも協力を頼んできました。
この小嶋のアタックがかなり強引でかずらも小嶋が話しかけてくるたびに戸惑っていました。

かずらと同じクラスに壬生っちという友達がいます。
その壬生っちと話している時のかずらの心境が印象的でした。

去年に引き続いて壬生っちと同じクラスになれたときは、本当に嬉しかった。
何でも話せる相手が、最初からクラスにいるのは本当に安心できることだ。

これはそのとおりだなと思います。
何でも話せる相手って簡単にはできませんし、そんな気兼ねなく話せる友達が最初からいると安心すると思います。

小嶋と藤枝を対比させての心境もありました。
次々と話題が出てくる小嶋君に比べると口数が少ないせいか、藤枝といると落ち着いた。藤枝もよく喋るけれど、無理に話題を探したり、相手に合わせようと考えたりしないやつだから、一緒にいて気持ちが楽になるのだ。
藤枝と一緒にいる時の沈黙は「自然な沈黙」なのだろうと思います。
無理に話題を探さなくても、お互い会話が途切れたとしても自然にいられる相手だということです。
今作ではその藤枝に対し、段々とかずらの気持ちが変化していきます。

かずらは進路について、徳島県内の大学を第一志望校にしていました。
県内に残ることと司書の資格を取ることが大前提としてありました。
しかし担任の先生からは志望校を変更しないかと言われていて、夏休み前の三者面談のときには先生が母に「川本さんの成績ならもっと上をねらえます」と言っていました。

行ってみたい、でもここにいたい。せめぎ合うのはいつもその二つの気持ちで、どっちを選ぼうとしても私はとても不安な気持ちになる。あとは自分の気持ちだけだとわかっているのに、どちらにも踏み出せない
県内の大学にするか、それとも県外のランクの高い大学にするか、かずらは迷っていました。
「どっちを選ぼうとしても私はとても不安な気持ちになる」というのがすごくよく分かります。
どちらかを選んだ場合のことを考えると自動的にどちらかを選ばなかった場合のことも考え、あれこれ考えているうちになかなか踏み出すことができなくなってしまいます。

やがてかずらははっきりと藤枝への思いを自覚することになります。
藤枝に告白された時は「友達で」と断っていたのに今になって自分のほうが藤枝を好きになり、かずら自身も気持ちの変化に戸惑っていました。

三巻は恋愛模様がメインになっています。
小嶋のかずらへの想い、藤枝のかずらへの想い、そして二巻まではなかった、かずらの藤枝への想い。
また、三巻では章ごとに語り手が変わっていきました。

そして三巻では明るくスポーツもできる優等生の武市大地がかずらになかなか酷いことをしてしまいます。
藤枝がかずらのことを好きなのが分かり、複雑な心境になってしまったようでした。
一、二巻の常に爽やかな大地とは違う姿を見ることになったのが意外でした。

ちなみに武市大地は一学年下で現在は図書委員の書記をしている上森あゆみという子と付き合っているのですが、あゆみはかずらが大地のことを好きなのではと不安に思っています。
シリーズ第一巻の「吉野北高校図書委員会」ではあゆみが語り手の章があり、その時も同じ心境の描写がありました。

いくつもの恋愛感情が折り重なったり、複雑な気持ちの打ち明けなどがあったりしながら、ラストへと向かっていきました。

ラストの後は「女のトモダチ」という、かずらの友達の壬生っちが語り手の物語がありました。
もうすっかり秋とあったので、本編のラストと同じくらいの時期の物語かなと思いました。
これを読んだら、かずらが藤枝を好きになったのをついに言う時が来るのかも知れないと思いました。

三巻は「気持ち」のまとめの物語でもあったと思います。
「あの時こう思っていた」など、その時の自分の気持ちを打ち明ける場面が多かったです。

タイトルが「図書委員会」で、その図書委員会を引退して進路も恋も道筋がついた今、これが最終巻なのだろうと思います。
徳島県の田舎の高校と今日マチ子さんの淡く温かみのあるイラストがよく合ったシリーズでした。
もしいつか番外編でかずらたちのその後の物語をやってくれたら読んでみたいなと思います


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