読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

異例の梅雨入り

2021-05-27 19:27:12 | ウェブ日記
5月15日、山口県が異例の早さで梅雨入りしました。
5月前半のうちに梅雨入りするのは今まで見たことがなかったので驚きました。
調べてみると平年に比べて20日も早い梅雨入りで、1951年の統計開始以降、54年の5月13日に次ぐ2番目に早い梅雨入りとのことです。

普段の年の5月と言えば過ごしやすい陽気が思い浮かびます。
有名な「茶摘」という歌の歌詞に「夏も近づく八十八夜」とあるように、5月は立春から数えて88日目の「八十八夜」があり、さらには二十四節気の「立夏」もあり、爽やかな初夏のイメージがあります。
晴れた日に日差しを浴びながら薄着でウォーキングするとやや汗ばんだりしながらも気持ちが爽やかになります

それが今年は5月前半という異例の早さで梅雨入りしてしまい、爽やかな初夏の時期があまりなかったです。
一年の中でもかなり好きな時期なので少し寂しく思いました。
それでも梅雨の合間に晴れた日には5月らしい爽やかさを感じるので、貴重な晴れ間を楽しみたいと思います

近所の紫陽花の花は早すぎる梅雨入りについて行けなかったのか、まだそこまで色鮮やかには咲いていないです。
しかし6月が近付いてきたこともあり間もなくたくさん咲くようになると思います。
紫陽花の淡い色合いに心を和ませながら、梅雨の雨の中を真夏目指して進んで行きたいです
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やよい軒 昔ながらの朝食

2021-05-25 19:32:57 | ウェブ日記


写真は定食などの外食チェーン「やよい軒」の「納豆朝食(生卵付き)」です。
サイドメニューの「蒸し鶏と海藻のぽん酢和え」も付けました。

「納豆朝食(生卵付き)」はとてもシンプルかつヘルシーで、メニューはご飯、味噌汁、納豆、生卵、海苔、ミニ冷奴です。
私はこのメニューを見て、昔ながらの朝食を思い出しました

小学生の頃の朝食と言えば、実家は和食派なので卵かけご飯に納豆、海苔、ウインナーなどが中心でした。
特に卵かけご飯と納豆は毎日食べていました。
後に卵かけご飯は目玉焼きに変わりましたが、小学生時代に毎日卵かけご飯を食べていたのはよく覚えています。
この組み合わせは味も美味しくご飯が進み、さっぱりしているので朝食に向いていると思います。

最近、卵かけご飯に納豆の組み合わせが脂質控えめな上にたんぱく質をしっかり摂れることに気付きました。
何も意識せずに食べていた朝食が実は凄く優秀な朝食だったのだなと思いました
やよい軒の納豆朝食はそんな昔の日を思い出させてくれる素敵な朝食です。
また食べに行きたいと思います

※卵かけご飯と納豆の組み合わせは、卵白が納豆の美肌ビタミンの吸収を阻害するので、納豆が持つ美肌効果が薄れてしまうようです。
混ぜる場合は卵黄だけにするか、卵は卵、納豆は納豆で分けて食べたほうがが美肌には良いようです。
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東京オリンピックの医療ボランティアについて

2021-05-22 12:11:31 | ウェブ日記
今年の夏に開催する方針で準備が進められている東京オリンピック。
新型コロナウイルスの影響が依然として収まらず、本当に開催出来るのかと疑問視する声も聞かれます。

私は看護師などによる「医療ボランティア」についての方針に愕然としました。
元々人間に対して医療対応をする人をタダで働かせるつもりなのかの問題があるのに加えて、やはり新型コロナウイルスの影響が色濃い中では人数も集まらず、苦戦しているようです。
感染の脅威が高い大都市東京に行って、同じく感染の脅威がある人対人の医療対応をしたい人は思うようにはいないものだと思います。
そんな中、オリンピックの組織委員会が日本看護協会に看護師約500人の確保を要請したことが先月末に明らかになっています。

問題が二つあり、一つは「看護師の確保を要請」という方針です。
ボランティアとは本来、「報酬は出せないですが、もしご協力頂ける方がいたらよろしくお願いします」という募集を見た人が、参加するかどうかを自身で決められるものを言います。
ところが組織委員会は約500人という人数を決めて日本看護協会に確保の要請を出しています。
そういうのは「ボランティア」ではなくて「強制招集」と呼ぶのではないか?と私は思います。
私は言葉だけボランティアにして実態は半ば強引に動員して働かせるようなやり方は良くないと思います。
新型コロナウイルスの対応で、政府や知事などが補償金をたくさん払いたくないばかりに使う「自粛を要請」という言葉に通じるものがあります。
そちらも、自粛とは本来自身の意思で自主的に営業を取りやめることを言うのに、政府や知事からの「要請」になっています。
ただし形の上ではあくまで「自粛」なので、自身達の意思で休業したということで補償金も全額は支払われない状況になっています。

もう一つの問題は、菅義偉首相の認識です。
組織委員会が日本看護協会に医療ボランティアの確保を要請したことについて、「看護協会の中で現在、休んでいる方もたくさんいると聞いている。可能だと考えている」という認識を示しました。
私はこれを聞いて、率直にズレているなと思いました。
表面の理論だけを言っている印象があり、菅義偉首相としては「日本看護協会の認定有資格者の中には休職している人もたくさん居る。よってその人達にボランティアをして貰えばオリンピックは大丈夫」という理論なのだと思います。
しかし休職するからには育児や介護、激務で体調を壊したなどの理由があるものです。
その層の人達を狙って、しかも無報酬のボランティアで動員しようとするのはあまりに酷くないかと思いました。
物には「言い方」があり、こんな言い方をすれば反発を招くのを本人も認識しておらず、周りにも教えてくれる人がいないのかなと思いました。
これでは支持を失うと思います。

東京オリンピックの医療対応については、「ボランティア」のように言葉で誤魔化すのはやめにしたほうが良いと思います。
完全無報酬に本人が乗り気で参加する場合を「医療ボランティア」、完全無報酬に本人は反対だが偉い人に言われて強引に動員される場合を「医療強制無報酬従事者」、適切な報酬が支払われる場合を「医療従事者」のように、はっきり区分けするのが誠実な対応ではと思います。
汚いやり方の部分を全て「ボランティア」という綺麗に聞こえる言葉で誤魔化すようなオリンピックにならないことを願います。
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「推し、燃ゆ」宇佐見りん

2021-05-16 16:51:06 | 小説


今回ご紹介するのは「推し、燃ゆ」(著:宇佐見りん)です。

-----内容-----
推しが、炎上した。
デビュー作『かか』で文藝賞&三島由紀夫賞、第二作となる本作で芥川賞を受賞。
21歳、驚異の才能、現る。
2021年1月第164回芥川賞受賞作。

-----感想-----
今年1月の芥川賞発表の時期に書店でこの小説を見かけ、第164回芥川賞受賞を知りました。
宇佐見りんさんのことは初めて知り、21歳という年齢の若さがまず印象的でした。
私に大きな影響を与えた綿矢りささんの「蹴りたい背中」という作品が2004年1月に史上最年少19歳で第130回芥川賞を受賞した時のことを思い出しました。
21歳での受賞は19歳綿矢りささん、20歳金原ひとみさん(綿矢りささんと同時受賞)に次ぐ史上3番目の若さです

もう一つ印象的だったのが「推し」という言葉でした。
推しとはアイドルグループのファンもしくはオタクの人が、特定の人物を特に応援する時に「この人を推す」という意味で使われる言葉です。
2010年代の初頭、アイドルグループAKB48が全盛時代を迎えて国民の間に広く知られた頃から「推し」という言葉をよく聞くようになったと思います。
その「推し」という言葉がタイトルに入り、アイドルを推す人を主人公にした作品が芥川賞を受賞したところに時代の流れを感じました。
史上3番目の若さでの受賞とともに興味を引き読んでみようと思いました

語り手は上野真幸(まさき)というアイドルを推す高校二年生の山下あかりです。
冒頭、「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という言葉で物語が始まります。
「燃える」とはネットでの「炎上」のことで、アイドルや企業などの不祥事の際に非難が殺到すると炎上状態になります。

あかりと同じくアイドルを推す友達の成美との会話で「チェキ」という言葉が登場し、アイドルと一緒に撮る写真のことをチェキと言います。
これもAKB48によって広まった言葉だと思います。
しかし言葉を聞いても一般層には分からない人も多いと思われ、文脈から写真のことだと分かるようになっていました。

成美はメンズ地下アイドルにはまっていて「あかりも来なって、はまるよ、認知もらえたり裏で繫がれたり、もしかしたら付き合えるかもしれないんだよ」と誘っていました。
「裏で繫がれる」というアイドルとの関係には嫌悪感を持ちました。
現実世界では2018年末、新潟県を中心に活動するアイドルグループの特定メンバーと裏で繫がりのあるオタク達が、そのメンバーとは別のメンバーを待ち伏せして襲撃する事件も起き、全国ニュースで連日報道される大事件に発展したことがあります。
そのこともあり「繫がり」には非常にダーティな、犯罪を誘発しかねないというイメージがあります。
作者の宇佐見りんさんも事件のことを知っているのかも知れないなと思いました。
私は特定のファンもしくはオタクの人と裏で繫がっているような人は、他のファンやオタクの人全てを裏切っているのでアイドルとは呼べないと思います。

冒頭の季節は夏です。
あかりが「寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、生きているだけで皺寄せがくる。」と語り、これは良い表現だと思いました。
誰かと喋ったり、お風呂に入ったり、爪を切ったりといった身の回りの些細なことがあかりにとっては負担が重いようでした。
病院の受診で二つ診断名が付いたとあり、あかりは精神面で何かの病気を患っているようです。

あかりが4歳の時、12歳だった推しがピーターパンの舞台でピーターパン役をしているのを観た時に思ったことは印象的でした。
重さを背負って大人になることを、つらいと思ってもいいのだと、誰かに強く言われている気がする。
このことからあかりは大人になっていくのを辛いと思っていることが分かりました。
「重さ」とは身の回りのことを自身でしながら生きて行くことだと思います。

あかりはラジオ、テレビなどでの推しのあらゆる発言を書いて20冊を超えるファイルに綴じて部屋に置いてあり、かなりのオタクだと思いました。
私はファンとオタクの違いを「ファンはライトに応援」「オタクはディープに応援」と解釈しています。

あかりの「アイドルとの関わり方」への考えは印象的でした。
アイドルとのかかわり方は十人十色で、推しのすべての行動を信奉する人もいれば、善し悪しがわからないとファンとは言えないと批評する人もいる。推しを恋愛的に好きで作品には興味がない人、そういった感情はないが推しにリプライを送るなど積極的に触れ合う人、逆に作品だけが好きでスキャンダルなどに一切興味を示さない人、お金を使うことに集中する人、ファン同士の交流が好きな人。
あかりはアイドルの応援には様々なスタンスがあると考えていて、それ自体はそのとおりだと思います。
そして私の場合はあかりが挙げた例のほとんどはそれで良いのではと思いますが、唯一「推しのすべての行動を信奉」には「宗教を狂信的に崇拝」と似た怖さを感じます。
あかり自身のスタンスは「作品も人もまるごと解釈し続けること」とありました。
またあかりが偉いのは「自身のスタンスこそが優れていて他は劣等」とは考えていないことだと思います。
私が実際に見た例では、自身のスタンスと周りのスタンスを比べて「周りは劣等」のようにマウンティングしたり、「そのスタンスはなってないから私のスタンスに従え」のように仕切ろうとするタイプの人もいました。
そのように考えるようになったらお終いだと私は思います。

あかりは上野真幸の「ガチ勢」として他の人からも有名とのことです。
またあかりは推しがファンを殴ったことを事実と認め、さらにまだ本人も事務所もまともな記者会見での説明をしていない状態で「これからも推し続けることだけが決まっていた。」と語っていました。
この心境がコアなオタクの人らしいなという気がしました。
一般層の人は不祥事に際してはまず不信の目で見るようになり、記者会見での説明が行われるならそれを見て判断し、まともに説明しないともなればずっとイメージが悪いままになります。
そこがコアなオタクの人と一般層の人で大きく違うと思いました。

あかりは高校では保健室の常連とあり、登校はするものの教室で勉学をするのは難しいようでした。
学内での場面の情景描写で、「廊下窓から差し込む日差しが一段と濃くなり、西日に変わっていく。頬の肉が灼かれる。」とありました。
これは芥川賞系の「純文学小説」らしい良い表現だと思いました
最後の一言があるのが大きく、短い文章の中で厚みのある表現になっていると思います。

上野真幸は「まざま座」という男女混合アイドルグループに所属していて、2021年度で29歳になります。
他には斎藤明仁、立花みふゆ、岡野美奈、瀬名徹(とおる)というメンバーがいます。
このグループでは人気投票があり、CDを一枚買うごとに投票券が一枚付いていて好きなメンバーに投票出来ます。
結果次第で次のアルバムの歌割りや立ち位置が決まるとあり、これは明らかにAKB48など48グループの「選抜総選挙」をモデルにしているのではと思いました。

あかりは「未来永劫、あたしの推しは上野真幸だけだった。」と語っていて物凄い執着だと思いました。
推しのメンバーカラーが青色だからカーテンなど身の周りの物を徹底的に青く染め上げたとも語っていて、これも並々ならぬ入れ込みようだと思いました。
夏休みについては「推しを推すだけの夏休み」と語り、綿矢りささんの「蹴りたい背中」で主人公が夏休みを「どこまでも続く暇の砂漠」と表現したのと似たものを感じました。
今回は推しを推す楽しみがあるという点は違うもののどちらも高校のクラス内で孤立しているのは同じです。

「まざま座」のオフィシャルサイトで、予定していたライブに上野真幸を予定通り出演させると発表があった時、SNSは非難囂々(ごうごう)とありました。
これは責任を取らせずに活動だけしようとすれば実際にそうなると思います。

あかりは推しを推す資金を稼ぐために「定食なかっこ」というお店でアルバイトをしています。
そしてお客さんがたくさん来て忙しく動くのはかなり苦手なようで、上手く動けていない描写がありました。
印象的だったのが常連のお客さんから「ハイボールをちょっと濃いめに作ってくれない?」と頼まれた時で、そのお客さんは有料にならない範囲で多少濃いめにしてくれないか(おまけしてくれないか)という意味合いで言っていました。
しかしあかりは「普通だとこの値段、濃いめだとこの値段、大ジョッキだとこの値段」のように事務的な切り返しをし、お客さんは興醒めしたようでした。
例えば「仕方ないですね~」と愛憎良く応じ、実際のおまけの量はほんの少しにしたり、店長の指示を仰いでも良かったと思います。
ただしそういう立ち回りは苦手な人は本当に苦手だと思うので、この場面はあかりを可哀想に思いました。

あかりの漢数字の書き方への感性は面白かったです。
「一は一画、二は二画、三は三画で書けるのに、四は五画。逆に、五は四画だ。」とあり、今までこう考えたことはなかったので興味を引きました。

あかりの姉はひかりと言い、あかりが母親からちゃんと勉強をしろと叱られて「頑張ってるよ」と適当に返事をした時、頑張っているという言葉を使ったことにひかりが激怒する場面がありました。
適当な返事での「頑張っている」という言葉を本気で頑張っている人が聞くと頭にくるのだと思います。

上野真幸は投票のシステムを「このシステムはあまり良心的じゃない、ファンの子に投票してもらえるのは本当にありがたいけど無理はしないでほしい」とラジオでこぼしたりもしていて、これは良いと思いました。
アイドルがこの感性を忘れて「一枚でも良いから多くCDを買って投票してくれ」と、懐具合を考えずに催促するようになったら一般層からは白い目で見られることになるのではと思います。
あかりは前回1位だった推しが不祥事が原因で転落しないようにCDを50枚も買って投票していて、私はこの行為は不健全だと思いました。
記者会見でのまともな説明もせずに活動だけを再開した場合、一般層のみならずコアなオタク以外のファン層からも反発を受けるのは必至で、当然投票してくれる人の数も減り、そこから目を背けるわけには行かないのではと思います。
仮にあかりのようにコアなオタクの人が1人で大量に投票する戦法で順位を守ることが出来たとしても、その順位は実態とかけ離れたものになっていて信用もされないと思います。

夏休みが終わって新学期になると、あかりの体調が目に見えて悪くなります。
にきびが顔中から噴き出し、母親がそのにきびを汚いと言ったのは酷いなと思いました。
年頃の娘さんの、本人が一番気にしているであろうことをそのように言うとは、この母親は娘を愛していないのだなと思いました。
精神面の病気を患うあかりにとってこの母親の存在は不幸だと思います。

やがて冒頭の炎上事件から1年以上が経ちます。
アイドルグループ「まざま座」にも転機が訪れ、やはりそうなるだろうと思いました。
この頃になるとあかりの日常生活を送るのが困難な状態が一層酷くなっているように見えました。
あかりは「まざま座」の転機を見て決意を新たにしていて、「推すことはあたしの生きる手立てだった。業(ごう)だった。」とまで語っていて壮絶さを感じました。
最後は一体どうなってしまうのかと思いました。


あかりというオタクの「本人としては至極真面目に一生懸命推しているが、傍から見ると完全に狂気じみている」という状態が上手く描かれていました。
あかりがオタク活動について淡々と語っているのを読む時、その淡々とした雰囲気とは真逆の狂気を感じ、事件が起きるわけでもないのに独特の緊張感がありました。
本人が「推しのいない人生は余生だった。」と語っているように、精神面に病気を抱え普通の日常生活を送るのが難しいあかりにとって、推しを推すことだけが生きる希望なのだと思います。
それでも物語の最後、もしかしたら推しに頼らなくても生きていけるのではという予感がしたので、ぜひ推しを推す時のパワーを少しでも日常生活を送るほうに向けられるようになって行ってくれたらと思いました。


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「響け!ユーフォニアム2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」武田綾乃

2021-05-09 12:53:39 | 小説


今回ご紹介するのは「響け!ユーフォニアム2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」(著:武田綾乃)です。

-----内容-----
新しく赴任した滝昇の指導のもと、めきめきと力をつけ関西大会への出場を決めた北宇治高校吹奏楽部。
全国大会を目指し、日々練習に励む部員のもとへ突然、部を辞めた希美が復帰したいとやってくる。
しかし副部長のあすかは頑なにその申し出を拒む。
昨年、大量の部員が辞めた際にいったい何があったのか……。
”吹部”ならではの悩みと喜びをリアリティたっぷりに描く傑作吹部小説シリーズ第2弾。

-----感想-----
この作品は「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」の続編となります。
プロローグは中学校時代の鎧塚みぞれと傘木希美が話す場面で始まります。
みぞれ達の通っていた南中学校は京都でそこそこ有名な吹奏楽部の強豪校で、関西大会には通算6回出場していますが全国大会にはまだ行ったことがないです。
希美が部長となり臨んだ最後の大会は全国大会に行くために猛練習しましたがまさかの京都府大会銀賞で、関西大会にも行けずに終わってしまいます。

全日本吹奏楽コンクールの京都府大会を終えた8月8日から物語が始まります。
京都府立北宇治高校は関西大会に出場出来ることになりました。

ユーフォニアムの特徴は深い響きを持つ柔らかな音色とありました。
私は以前聴いた演奏会で「ユーフォニアムは人間の声に最も近い音域の楽器」とユーフォニアム奏者が言っていたのが思い浮かびました。

北宇治高校はかつて吹奏楽の強豪校で、関西大会の常連で全国大会にも出場したことがあります。
しかし当時の顧問が別の学校に移ってから一気に弱体化し、ここ10年は大した結果を残せていませんでした。
それが今年、音楽教師の滝昇(のぼる)がやって来て吹奏楽部の顧問に就任し、優しい雰囲気ながらも口の悪いスパルタ指導で反発を受けましたが力を付け、見事に関西大会出場権を得たのでした。

関西大会で立ちはだかることになる「三強」の名前が3年生でユーフォニアム奏者の副部長田中あすかから語られます。
部長は3年生でバリトンサックス奏者の小笠原晴香ですが、あすかは変人ではあるものの天才でありカリスマ的な存在感があります。
三強は全て大阪の高校で、明静(みょうじょう)工科高校、大阪東照高校、秀塔(しゅうとう)大学附属高校とありました。
大阪東照高校は野球部の甲子園でもよく演奏しているとあったのでモデルは大阪桐蔭高校ではと思いました。
三校とも関西大会どころか全国大会でも金賞を取るレベルの超強豪校とあり、関西大会から全国大会に行けるのは二十三校中三校だけなので、三強のうちどれかを倒す必要があり北宇治高校が全国に行くのは非現実的と言わざるを得ないとあすかは語ります。
するとコントラバス奏者の1年生川島緑輝(サファイア。いわゆるキラキラネームで本人は嫌がって緑と呼ばせている)が明静工科高校の顧問が引退し、今年は弱くなっているかも知れないと語り三強に割って入るならそこしかないという雰囲気になります。

1年生でトランペット奏者の麗奈が同じく1年生でユーフォニアム奏者、そして主人公の久美子に一緒に帰らないかと誘ってきて同じ電車に乗ります。
麗奈は花火大会に一緒に行かないかと言い久美子と仲良くなりたそうでした。
久美子は部活にも一緒に行こうと言いますが、麗奈が毎日6時に学校に着いていると聞いて驚愕します。
麗奈は1年生にしてトランペットのソロ演奏を任される実力者で、やはり上手い人は人一倍努力しているのだと思いました。
そして麗奈よりさらに先に練習を始めている先輩が一人いて、2年生でオーボエ奏者の鎧塚みぞれだと語られます。

麗奈と別れると同じ電車に乗っていた秀一が話しかけてきます。
久美子は秀一を見ると息苦しくなるとあり、前作で秀一のお祭りへの誘いを断ってから気まずくなったのを引きずっているようでした。
二人で宇治橋を渡る場面で高欄という言葉が登場し、初めて聞く言葉だったので調べてみたら欄干のことと分かりました。
北宇治高校が全国大会に行けるかどうかの話になり、秀一が「ま、でも滝先生はめちゃくちゃ優秀やし。もし関西で負けても、それは俺ら部員側の問題やと思う」と言います。
人のせいにしない姿勢が素晴らしいと思いました。
吹奏楽における指導者の役割は大変重要で、指導者が別の学校に移って弱体化した学校はたくさんあり、反対に弱小校が新たな指導者を迎えて強豪校になることもあるようです。

久美子が麗奈のことを「そういえば麗奈は滝のことが好きなのだ。もちろん、恋愛的な意味で。」と語っていて、この言い回しが高校生らしくて良いなと思いました。
久美子と麗奈二人で音楽室に行く時、音楽室からオーボエの音色が聴こえてきて、「オーボエ特有のしっとりとした音色」とありました。
クラシックを聴くようになってしばらくはオーボエの音色は蛇使いの音色のようなイメージを持っていましたが、モーツァルトのオーボエ協奏曲を聴いてから私もそのイメージになってきました。
また久美子と麗奈は音楽室に向かいながら聞こえてきた音色に「何か物足りない」という印象を持ちました。
オーボエを演奏していたのは鎧塚みぞれで、みぞれは会話に独特な神秘さがあります。
オーボエは構造上その場でぱっと音を変えるのが無理なので、オーケストラではオーボエを基準に音を合わせるとあり、実際の演奏会でのチューニング(音合わせ)で一番最初にオーボエが音を出し、それから他の楽器も音を出して行くのが思い浮かびました。

滝から8月16日~18日に夏合宿を行うと伝えられます。
滝は今の北宇治高校では関西大会の壁は越えられないと言い、夏合宿の間に府大会で出来なかったことを出来るようになろうと言います。
また夏休みの間は金管楽器が専門の滝に加え、木管楽器とパーカッション(打楽器)のために外部の指導者を呼ぶことになります。
まず橋本真博という北宇治高校OBのプロのパーカッション奏者がやって来ます。
橋本は陽気な性格をしていて一日でパーカッションの部員たちの人気者になっていました。

「低音は音楽の土台であり骨組み」という言葉が登場し、まさにそうだと思いました。
演奏会でも低音が「底」から支えて厚みのある音になるのを何度も聴きました。

「胡乱(うろん)げな視線」という言葉も登場し、どんな視線なのか気になりました。
調べてみると「胡乱げ」は正体が怪しく疑わしいという意味とのことで、この作品はたまに普段使わない言葉が登場するのが興味深いです。

ある日、2年生で久美子と同じユーフォニアム奏者の中川夏紀が昨年吹奏楽部を退部した傘木希美を連れて来ます。
希美は副部長のあすかに吹奏楽部に戻りたいと言いますが、あすかは冷たく断ります。
あすかはどうしても戻りたいなら顧問の滝に許可してもらえと言いますが、希美はあすかの許可が欲しいと言い、二人の間には何かがあるようでした。

久美子が緑のことを「他人の心情をおもんぱかることに長けている彼女は、まるで好きなようにやっていますといわんばかりの顔をして、さりげなく他人をフォローする」と評していました。
天真爛漫に振る舞う緑の本当の姿をよく分かっていて、他の人のことをよく見ているのは久美子の良いところだと思います。

みぞれ、久美子、麗奈が朝早い音楽室で練習をしていると、その次に2年生のトランペット奏者、吉川優子がやって来たことがありました。
優子は麗奈が1年生にしてソロ演奏者に選ばれた時、3年生の中世古香織を推して麗奈と敵対していました。
みぞれが物凄くストレートに優子は2人と仲が悪いのかと聞き、久美子はあまりにストレート過ぎて緊迫した気持ちになります。

秀一が久美子に宇治川花火大会は誰と行くのかと聞く場面があり、やはり久美子のことが気になっているようでした。
花火大会の当日、久美子は練習が終わって帰る前に忘れ物を取りに行った時、みぞれが階段でうずくまっているのに遭遇します。
その様子は尋常ではありませんでした。
さらに階段の上からフルートの音色が聴こえてきて、久美子は北宇治高校のフルートソリスト(ソロ演奏者)より上手いと感じます。
演奏していたのは希美でした。
いったいこの二人には何があるのかとても気になりました。

久美子、麗奈、緑、チューバ奏者の加藤葉月の1年生四人で出掛けたプールで、久美子は一人で歩いている時に希美に遭遇します。
そして思い切ってなぜ吹奏楽部を辞めたのか聞きます。
なぜ希美が顧問の滝よりあすかの許可を得ることにこだわっているのかが分かりました。
また、希美は昨年まで平気で練習なんてせんでええやんと言っていた子が今になってケロッとした顔で関西大会に出ていることに凄く怒っていて、この怒りは分かる気がしました。
滝が顧問になって吹奏楽部の雰囲気が変わりはしたものの、その前の雰囲気に絶望して辞めた希美にはやり切れないものがあると思います。
麗奈は部活を辞めるのは逃げるということだと言っていましたが、久美子は希美が辞めたのはその時の彼女にとってベストの選択をしたのであり、逃げたわけではないと見ています。
私は思いやりがあって良い見方だと思います。
久美子はなぜ希美が復帰してはいけないのかを調べ、必ず復帰させると言います。

ついに合宿が始まります。
木管楽器の指導をする新山聡美という優しく穏やかな雰囲気のフルート奏者が新たにやって来て、滝の彼女ではという話もあり、麗奈が動揺していて面白かったです。
しかし指導を受けた緑は、新山は決して怒りませんが指導の中身は滝並に凄いと言っていました。
読んでいると滝と橋本は20代後半の印象があり、新山は二人の後輩とのことでもう何年か若いようです。

みぞれは久美子に、音楽の芸術性の部分は審査員の好みになってしまうので技術が重要だと言います。
みぞれと話した後、久美子は夜遅いのに3年生の部長や各パートのリーダー達が集まって行うリーダー会議が行われているのを目撃します。
そして自身の部屋への帰り道、久美子の足取りは軽くなっていて、その心境は先輩達から良い影響を受けたのが分かり良いなと思いました

各パートでの練習から全体での合わせになった時、橋本がみぞれの演奏はロボットが演奏しているようだと言います。
橋本は北宇治高校は技術では強豪校に引けを取らないようになったが表現力が足りていないと言い、みぞれの考えと逆のことを言っているのが印象的でした。

久美子はあすかとみぞれが話し合っているのを盗み聞きしてしまいます。
その様子からみぞれは希美を怖がっているようでした。
そしてついに、なぜ希美が吹奏楽部に戻るのをあすかが許可しないかが明らかになります。

新山が差し入れてくれた花火をみんなでする場面があります。
久美子が花火の光を「まるで夜を追い払っているみたい。」と形容していて良い表現だと思いました。
辺り一面に広がる夜の闇の中にあって、花火が光っている間だけはそこに明るさがあります。

久美子は今度は夜の自販機の前で優子に遭遇していて、主人公だけあって色々な人に遭遇するなと思いました。
優子が意外にも麗奈の実力を認める場面があり、憎まれ口を叩いていてもきちんと見る人なのだと思いました。

夏合宿が終わりを迎えます。
新山のみぞれへの言葉が印象的で、次のように言っていました。
「楽器を吹くのはね、義務じゃないの。あなたの技術はとても素晴らしいけれど、なぜだか聞いていると苦しくなる。もっとね、楽しんでいいのよ。オーボエを好きになってあげて。そうすればきっと、ソロだって上手くいくと思うわ」
やはり楽しく吹くのと義務のように気乗りせずに吹くのでは音色に差が出るだろうなと思います。

麗奈が久美子にコンクールでの審査員の評価について、「もし圧倒的な上手さがあれば、コンクールで評価されへんなんてことはありえへんと思う。」と言います。
みぞれの「芸術性の部分は審査員の好みになる」と違い、圧倒的に上手ければ有無を言わさず評価されると見ています。
同じ「コンクール」についての考え方でも人によって全然違うなと思いました。

いよいよ関西大会の演奏の順番が発表されます。
滝が部員達に「思う存分我々の演奏を見せつけてやりましょう」と言っていたのが夏合宿の自信が窺えて良いなと思いました。

しかし関西大会直前、みぞれが大きく取り乱す事件が起きます。
その中で「吐息がうっそりと漏れる。」という表現があり、「ぼんやりと」という意味のようで、これも珍しい表現だと思いました。
そして事件を経て常に塞ぎ込んでいるようだったみぞれの心がついに解き放たれる時が来ます。
夏紀の「綺麗な音やね。あの子、こんなふうに吹けたんや」という言葉が関西大会での善戦を予感させました。
関西大会でこの年の戦いが終わるのか、それとも全国大会に行けるのか、最後の盛り上がり方が凄く良かったです


今作では京都府大会を終えてから関西大会まで、短い時間の中で凄く濃密な物語になっていたと思います。
続編も出ていて、今作を通して物語の中心に居た鎧塚みぞれと傘木希美はかなりの実力者でもあり次作以降も活躍が予感されました。
北宇治高校吹奏楽部の演奏力もさらに上がり、関西大会の強豪達相手に引けを取らないまでになりました。
素敵な実力者達に囲まれた主人公久美子がユーフォニアム奏者としてどうなっていくのか、秀一との関係はどうなるのか、続編もぜひ読んでみたいと思います


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