(トマジのサクソフォン協奏曲演奏後、観客の拍手に応える進正裕さん(写真中央))
2月17日、広島県広島市のJMSアステールプラザ大ホールで行われた「新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第60回広島」を聴きに行きました。
この演奏会は「新進演奏家の発掘及び育成」を目的として、厳正な実技オーディションで出演者を選抜し、プロのオーケストラと共演する機会を提供する文化庁の事業です。
広島地区では「広島交響楽団」との共演になり、若手演奏家にとってまたとない絶好の舞台です
聴きに行くのは3年連続で、新型コロナウイルスの影響でまだまだ演奏会自体が少ない中で開催してくれたことに感謝し、素敵な音色に聴き入りました
1.モーツァルト:オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314
(ソリスト(ソロ演奏者)の川本伶美さん。)
登場時にかなりお若い印象を受けて、パンフレットを見ると東京藝術大学のまだ1年生とありました。
1年生にして早くもこのステージに登場していて先が楽しみだと思いました。
(川本伶美さんとオーケストラで演奏中。)
一楽章
オーボエを主役にした協奏曲を聴くのは今回が初めてなので興味深かったです。
明るい音色で始まり、この明るさはモーツァルトらしいなと思いました
ソリストも入り、陽気な音色でした。
陽気な音色のソリストをオーケストラが支える演奏が続いて行きました。
陽気な雰囲気の音色に聴いている自身も乗って行きました。
音色に浮遊感があり、音が浮き上がって来るように聴こえ、自身の気持ちもふわりと浮き上がるかのようでした。
ソリストのソロ演奏の場面もあり、ゆったりとした陽気な音色で伸びが良かったです
二楽章
ゆったりとしたオーケストラの演奏で始まり、ソリストも入り、ゆったりとして少し安らぎもありました。
オーケストラに安らぎとともに明るさが出てきて、ソリストはゆったりと時に力強く伸びやかに演奏していました。
とても心地良い音色で、ゆったりとした明るさが良かったです。
ソリストのソロ演奏の場面もゆったりとして明るく、モーツァルトはやはり明るさが良いなと思います。
三楽章
少し速めに始まり、ソリストも速く陽気に演奏していました。
オーケストラとソリストで息の合った明るさだと思いました。
ソリストのソロ演奏はとても軽快に感じ、最後も全体での軽快な音色で終わりました。
2.プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 二長調 作品19
(ソリストの若林麗さん。この方も桐朋学園大学のまだ一年生です。)
(若林麗さん演奏が始まる直前の場面。)
一楽章
プロコフィエフはピアノ協奏曲第3番が好きでよく聴きますがヴァイオリン協奏曲は初めて聴きました。
弦楽器の小刻みな演奏で始まります。
ソリストも入り、全体がややミステリアスな音色でした。
独特なリズミカルさのある音色になり、チェロとコントラバスが力強いピッチカート(弦を指でポロンポロンと弾く演奏)をしていました。
一瞬途切れてからソリストのピッチカートが目立ちます。
曲の出だしの時点では音色のイメージが掴めていませんでしたが、この時に「ミステリアスで、どこか情熱的」と思いました。
スペインが思い浮かんでくるような情熱的な音色で上手いと思いました
やがて全体が凄く情熱的で力強い演奏になります。
全体がミステリアスな小刻み演奏をし、その中でフルートの伸びのある演奏が目立っていました。
ソリストも入り、かなりの高音を短く切りながら演奏していました。
最後はミステリアスに唸るような演奏で終わりました。
二楽章
ミステリアスで緊迫した音色で始まり、切れのある演奏でした。
全体が不気味な上にさらにリズミカルという独特な音色になります。
ソリストとオーケストラの緊迫した掛け合いがあり、パーカッション(打楽器)に迫力がありました。
ハープの音色が目立つ場面があり、ソリストとオーケストラの緊迫した掛け合いに華を添えていました。
緊迫した音色に華やかさも加わり派手な雰囲気になって終わります。
三楽章
やや静かでミステリアスなオーケストラの演奏で始まります。
ソリストも入り、全体で静かにミステリアスに演奏します。
ソリストが切れのある小刻みな演奏を続け、オーケストラがそれを引き取って一気に爆発するような演奏になります。
一旦全体がゆったりとミステリアスに演奏してからソリストの音色がかなり派手になります。
そこから全体が力強い演奏になりました。
ソリストがかなりの高音で伸びのある演奏をし、ミステリアスさの中に少し安らぎも感じる音色になって終わりました。
3.ドニゼッティ:歌劇「アンナ・ボレーナ」より”私の生まれたあのお城”
ヴェルディ:歌劇「椿姫」より”ああ そはかの人か 花から花へ”
(ソリストの柴田優香さん。)
(柴田優香さんはエリザベト音楽大学の4年生で、音域はソプラノです。)
一曲目:歌劇「アンナ・ボレーナ」より”私の生まれたあのお城”
ゆったりした少しもの悲しいオーケストラで始まります。
ソリストも入りとても力強く歌い、オーケストラがそれを引き取ってとても力強く演奏します。
ソリストが歌ってその後をオーケストラが引き取る演奏が何回か続きました。
やがて初めてソリストとオーケストラが両方とも凄い迫力で演奏する場面になります。
そこから一転して両方とも寂しそうな演奏になります。
ソリストが超高音で力強く歌っていて、それをスパッと切った時、空気が震えたように感じました。
唐突な静寂も音楽の一部のように聴こえ、「余韻」がとても上手いなと思いました。
二曲目:歌劇「椿姫」より”ああ そはかの人か 花から花へ”
オーケストラが「バババ、バーン!」と物凄く力強く演奏して始まります。
ソリストも入り高音で力強かったです。
オーケストラはところどころに「合いの手」のような音色を入れてソリストを支えていました。
ソリストのゆったりとした歌をオーケストラが支え、やがてゆったりとした歌い方にやや陽気さも入って行きます。
ソリストの雰囲気が変わってややスピードを上げ、オーケストラはミステリアスな演奏で支えます。
ソリストが力強い歌声になり、同時に明るい雰囲気もあり、最後は全体が陽気に楽しそうな音色で終わりました。
4.トマジ:サクソフォン協奏曲
(ソリストの進正裕さん。昭和音楽大学大学院の2年生で、私はこの人の演奏が聴きたくて足を運びました。)
一楽章
ミステリアスなオーケストラで始まります。
ソリストも入り、ゆったりとミステリアスに演奏し音の伸びが良かったです。
ソリストとオーケストラで伸びやかに、そしてミステリアスに演奏します。
ソリストの演奏がスピードを上げ、オーケストラも続きます。
そこからオーケストラだけでとても雄大に、ミステリアスに演奏します。
ソリストがミステリアスな演奏をし、そこからスピードと迫力を増し、オーケストラも力強く支えていました。
ミステリアスな上に力強いので、音色に重厚感があります。
ところどころ、パーカッションの「バーン!」という音色が良く、席から姿は見えませんでしたがシンバルかなと思いました。
ティンパニ(大型のドラムのような楽器)の作る、音色の「底」の部分を支える音も良いと思いました。
一楽章を聴いている時点で、ソリストが物凄く上手いと思いました。
ずっとミステリアスな音色ですが、ミステリアスさを保ちながらゆったりしたり大迫力になったりスピードを上げたりと、様々な変化を上手く付けていました。
ソリストの音色が大迫力になり、オーケストラもそれを引き取って大迫力な演奏をします。
ソリストが、パーカッションが静かな音で支えるだけのほぼソロ演奏になる場面があり、響きがとてもミステリアスでした。
今度はオーケストラが大迫力に演奏し、ソリストも入り、小刻みに演奏します。
管楽器は息を使って演奏するので、息を止めたり吐いたりを高速で行う小刻み演奏は大変だと思います。
ソリストが迫力を増してからピタッと止まり、オーケストラがそれを引き取って大迫力に演奏する場面が何度もあったのも印象的でした。
二楽章
管楽器の少しひょうきんな響きの速い演奏で始まり、ソリストも入りこちらも速い演奏でした。
全体で速い演奏をして行きます。
ソリストの演奏にコミカルさが出るようになります。
やはり速い演奏で、オーケストラも速い演奏で支えていました。
そこからソリストの演奏がゆったりと伸びやかになります。
ソリストがどんどん音を下げて行き、下がりきったところでオーケストラがそれを引き取って大迫力に演奏します。
息の合ったコンビネーションだと思いました。
それぞれの音のリズムは全く違いますが、「連続した音楽」という印象を強く持つ良い演奏でした。
オーケストラが静かな演奏になり、その中でハープが目立ちます。
ハープの音はゆったりとしたさざ波のような印象があり、たまに目立つととても心地良く感じます。
全体で凄く盛り上がる演奏をし、途中からオーケストラだけで盛り上がる演奏を続け、ミステリアスにも聴こえました。
再びソリストが入り、コミカルで速く、ミステリアスな演奏をしました。
この曲には終始ミステリアスな雰囲気があります。
全体が物凄い盛り上がりになります。
ゆったりとしていますが大迫力の音色で、最後も物凄い盛り上がりで終わりました。
(進正裕さん演奏が終わって客席に礼をしている場面。)
(進正裕さん一度退場してから拍手に応えて再登場し、オーケストラも立ち上がって全員で拍手に応える場面。
これにて今年の「新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ」が終演となりました。)
今年は最終演奏者の後、拍手に応えて演奏者全員で再登場する場面がなかったです。
また昨年と同じく演奏者全員による、観客が帰る時のお見送りもなく、何とか演奏会が開催されましたが新型コロナウイルスの影響は依然として大きいと思いました。
早くこういった大規模なコンサートが気兼ねなく開催できるようになってほしいなと思いました。
今回の演奏会、4人とも上手かったですが中でも最後に登場した進正裕さんはかつて何度か演奏を聴いたこともあり印象的でした。
エリザベト音楽大学の2018年度卒業演奏会にも出演されていて、卒業後は大学院進学で神奈川県に行かれ、私は約2年ぶりに生演奏を聴きました。
やはり上手く、2年の間にさらに上手さが増したように感じ、別の地域に旅立たれた人がこうして演奏会という舞台に舞い戻ってきて、それを聴きに行けるのは素敵なことだと思いました。
そしてどの演奏者さんも今回の広島交響楽団との共演が大きな経験になり、今後更に活躍するのがとても楽しみです
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プロフィール
川本伶美(オーボエ)
広島県出身。3歳よりヴァイオリン、7歳よりピアノ、14歳よりオーボエを始める。
広島県瀬戸内高等学校を卒業後、東京藝術大学に入学。現在1年在学中。
これまでにオーボエを板谷由起子、和久井仁の各氏に、現在、吉井瑞穂氏に師事。
室内楽を須川展也氏に師事。
第41回ハイスクール・ミュージック・コンサート最優秀賞受賞。
第36回中国ユース音楽コンクール管楽器部門最優秀賞受賞にて記念演奏会に出演。
第29回日本クラシック音楽コンクール全国大会オーボエ部門第3位(第1位、2位なし)。
若林麗(ヴァイオリン)
広島市出身。3歳よりヴァイオリンを始め、桐朋学園子供のための音楽教室(広島教室)に入室。
第67回、第69回全日本学生音楽コンクール大阪大会小学校の部、中学校の部入選。
第25回日本クラシック音楽コンクール全国大会ヴァイオリン部門中学校の部第4位。
第9回べーテン音楽コンクール全国大会弦楽器部門中学校の部第1位。
第11回べーテン音楽コンクール全国大会弦楽器部門高校の部第1位。
第1回桐朋ジュニアコンクール in 広島にてグランプリ受賞。
第33回広島サマーコンサートにてヤマハ賞受賞。
いしかわミュージックアカデミー、霧島国際音楽祭、京都フランスアカデミー、ニース夏期国際音楽アカデミーなど国内外にてマスタークラス受講。
2020年3月、桐朋女子高等学校音楽科卒業、成績優秀者による卒業演奏会に出演。
現在、桐朋学園大学音楽学部1年在学中。
これまで村上直子、浦川宜也、篠崎功子の各氏に師事。
柴田優香(ソプラノ)
山口県岩国市出身。エリザベト音楽大学演奏学科声楽専攻に特別奨学生として入学。現在4年在学中。
来年度には5年プログラム生(早期卒業制度)として大学院卒業予定。
エリザベト音楽大学ザビエル賞受賞。
岩国優秀文化賞受賞。
第25回日本クラシック音楽コンクール優秀賞受賞にて、全国大会出場。
第70回全日本学生音楽コンクール入選。
第59・60・63・64回山口県学生音楽コンクール金賞受賞。
第12回東京国際声楽コンクール大学生部門第5位。
広島シティーオペラ主催オペラ『ジャンニ・スキッキ』ラウレッタ役でオペラデビュー。
花キューピットオープンにて国歌独唱。
これまでに岡村美瑳、赤川優子、枝松瞳、折河宏治の各氏に師事。
進正裕(サクソフォン)
1996年島根県浜田市生まれ。
3歳からピアノを、12歳からサクソフォンを始める。
エリザベト音楽大学演奏学科管弦打楽器サクソフォン専攻を卒業。
同大学卒業演奏会に出演。
第21回大阪国際音楽コンクール木管楽器Age-U部門において第1位を受賞、第30回日本クラシック音楽コンクールサクソフォン部門大学の部において第2位(最高位)を受賞、第1回東京国際管楽器コンクール木管ソロ部門において第3位を受賞。
その他、国内のコンクールにおいて多数入賞を果たす。
第16回サクソフォン新人演奏会、第35回ヤマハ管楽器新人演奏会に出演。
サクソフォンを有村純親、大森義基、正田桂悟、室内楽を赤坂達三、小山弦太郎、宗貞啓二、即興演奏を平野公崇の各氏に師事。
現在、昭和音楽大学大学院修士課程に在学中。
(株)クライスエムイー『まなぶ音ライン』講師。
末廣誠(指揮)
桐朋学園大学修了。
1989年、N.リムスキー=コルサコフのオペラ『サルタン王の物語』の日本初演において訳詞及び指揮を担当し、高い評価を受ける。
以降オペラを数多く手がけ、豊富なレパートリーを誇っている。
バレエでも多くの作品に参加しており、舞台作品における技量は各界から厚い信頼を得ている。
1990年ハンガリーにおいてサボルチ交響楽団を指揮。
同年、ワイマールで開催された国際セミナーでイェーナー・フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、チューリンガー・アルゲマイネ紙に”真にプロフェッショナルな指揮者”と称賛される。
1991年、第4回フィッテルベルク国際コンクールにおいて第1位ゴールドメダルとオーケストラ特別賞を併せて受賞する。
翌年よりポーランド国立放送交響楽団をはじめとする各地のオーケストラに招かれ、クラコフ放送交響楽団の首席客演指揮者に就任。
また、国立シレジア歌劇場においてヨーロッパにおけるオペラデビューを果たし、定期客演指揮者として多くの作品を指揮している。
帰国後は群馬交響楽団を経て1995年から1999年まで札幌交響楽団指揮者を務め、多岐にわたる活動を続けている。
2016年には、ウィーン楽友協会合唱団のモーツァルト「レクイエム」を指揮し大好評を得た。
高いレベルの演奏を引き出す手腕には定評があり、今後の活躍が期待されている。
また、執筆活動のほか演奏会の司会や企画にもその才能は遺憾なく発揮されている。
レッスンの友社よりエッセー「マエストロ・ペンのお茶にしませんか?」を刊行。
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