今回ご紹介するのは「陽気なギャングは三つ数えろ」(著:伊坂幸太郎)です。
-----内容-----
陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。
だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。
正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。
蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた!
必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶対絶命のカウントダウンが!
人気シリーズ、9年ぶりの最新作!
-----感想-----
※「陽気なギャングが地球を回す」のレビューはこちらをどうぞ。
※「陽気なギャングの日常と襲撃」のレビューはこちらをどうぞ。
この作品は陽気なギャングシリーズの9年ぶりとなる新作です。
人間ウソ発見器の成瀬、演説の達人響野、正確な体内時計を持つ雪子、天才スリ久遠の、ルパン三世のような銀行強盗四人組の物語が帰ってきました。
冒頭は主人公たち四人組にとって二年ぶりの銀行強盗から始まりました。
響野、久遠、成瀬の三人が銀行を襲撃。
響野の銀行にいる人達の注意を惹き付ける演説が冴え渡る中、久遠と成瀬が銀行のお金をスムーズに奪い取っていきます。
そしてお金の奪取が終われば正確な体内時計を持つ女・雪子が逃走用車両を乗り付けて全員それに乗って逃走で、いつもどおり上手く行くはずだったのですが…
銀行を去ろうとした時、警備員の一人が警棒を投げつけてきて、それが久遠の左手に命中。
無事に逃走は出来たものの久遠は負傷してしまいます。
逃走から10日経った頃、とあるホテルのラウンジに四人が集合して、久遠が「防犯カメラの性能が向上し、普通の通行人も簡単に写真や動画を撮るようになり、銀行強盗は年々難しくなっている」と言っていたのは印象的でした。
またそれに加えて久遠がワーキングビザを使いオーストラリアに行っていたため、四人組は二年間銀行強盗から遠ざかっていたようです。
このホテルでは慎一という雪子の息子がアルバイトをしています。
シリーズの最初は小学生だった慎一も今や大学生になり、時の流れを感じます。
ちなみにこのホテルでは火尻正嗣(まさつぐ)という週刊誌記者が登場し、久遠とは結構言葉を交わすことになります。
火尻は宝島沙耶というアイドル兼女優のスクープを撮るためにこのホテルに来ていました。
宝島沙耶はしばらく前から雲隠れしていて、なぜ雲隠れしていたのか気になるところでした。
宝島沙耶のことは最初は少ししか登場しませんでしたが、伊坂さんの作品ではこういうのが伏線になるので、後で再登場するのではと思いました。
火尻はホテルで久遠と鉢合わせた時のエピソードから、久遠を銀行強盗犯ではと疑います。
警棒を投げつけてきた警備員がテレビに出演しまくり、「犯人は左手に怪我をしている!」と触れ回っているからです。
その後慎一が誰かに尾行されたり、久遠が当たり屋に因縁をつけられたり、成瀬が痴漢犯に仕立て上げられそうになったりと、四人組の周辺で色々なことが起こります。
火尻が四人に色々仕掛けてきていました。
やがて大桑というカジノのリーダーの存在が浮かび上がります。
どうやら火尻はそこのカジノに借金がたくさんあり、大桑に「あいつらから金を巻き上げて借金の返済に充ててくれ」と言っていたようです。
火尻に銀行強盗犯ではと疑われたことにより、四人組はどんどんトラブルに巻き込まれていくことになります。
火尻は加害者も被害者も関係なく、面白いエピソードがあれば掘り出し、対象を自殺に追い込むような記事を平気で書くハイエナ記者です。
四人組も「お前らが銀行強盗の犯人だと書くぞ」と脅されピンチになっていました。
成瀬と久遠が宝島沙耶のサイン会に行って、やはり宝島沙耶再登場となりました。
そして宝島沙耶にとって恩人である近所のお姉さんが自殺して死んだのも火尻のせいだと分かります。
諸悪の根元、火尻の想像以上の最低ぶりが明らかになり、物語が大きく動き出していきます。
ちなみに久遠が火尻に「銀行強盗犯では」と疑われることになった時、なぜか火尻はホテルの部屋で暴漢に襲撃されそうになっていました。
四人組がその時のことを調べていく中で、響野と佐藤二三男(ふみお)という男の次のやり取りは面白かったです。
「カメラの映像をどうやって」
「詳しくは言えないが、私たちにはそういう力があるんだ。とある、情報機関の力のような、CIAやKGBに似た」
「アルファベット三文字の?」
「そう。PTA、NGK、ETC。そういった組織の力でね」
PTAは小学校の保護者&教職員会であり、ETCは高速道路の自動料金支払いシステムですね
伊坂幸太郎さんらしいリズミカルな会話だと思いました。
人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ
響野が引用したチャップリンのこの言葉は印象的でした。
たしかにその時だけで見ると悲劇的なことでも、長い時間で見るとそんなに悪くなかったりもします。
火尻は典型的な嫌な奴で、早く消えてほしいと思いました。
ただこういう嫌な奴に限ってなかなか死なないんですよね。
伊坂さんの作品らしく、ウンチクも出てきました。
シロアリは蟻の仲間ではなくゴキブリの仲間だというのから始まり、カカトアルキという虫の話になりました。
カカトアルキは「88年ぶりに目(もく)が増えた新発見」とのことで、バッタ目、チョウ目、トンボ目のように新たな目が誕生することになりました。
21世紀になって新しい「目」ができるのは驚きのことのようです。
また、網翅目(もうしもく)というゴキブリとカマキリを合わせた分類があり、ゴキブリとカマキリは近縁だともありました。
これはかなり意外でした。
やがて四人組は同じく火尻に激怒している人達にも協力を頼み、火尻討伐に動き出します。
「うまくいくことを祈るしかない。明日からもこの日常が続くように」
そして物語の最初のほうで「凶暴な野良犬がまだ捕まっていない」というニュースがありました。
伊坂さんの作品ではこういうちょっとした伏線が重要な場面で生かされることがよくあります。
なのでこの伏線がどこで生かされるのか興味深く読んでいました。
もうこのシリーズの続編は出ないのだろうと思っていたので、書店でこの作品が平積みされているのを見つけた時はワクワクしました
久しぶりに銀行強盗四人組の活躍を読むことが出来て楽しかったです。
陽気で楽しい人達の物語は読んでいるほうも楽しくなってくるのが良いと思います
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-----内容-----
陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。
だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。
正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。
蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた!
必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶対絶命のカウントダウンが!
人気シリーズ、9年ぶりの最新作!
-----感想-----
※「陽気なギャングが地球を回す」のレビューはこちらをどうぞ。
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この作品は陽気なギャングシリーズの9年ぶりとなる新作です。
人間ウソ発見器の成瀬、演説の達人響野、正確な体内時計を持つ雪子、天才スリ久遠の、ルパン三世のような銀行強盗四人組の物語が帰ってきました。
冒頭は主人公たち四人組にとって二年ぶりの銀行強盗から始まりました。
響野、久遠、成瀬の三人が銀行を襲撃。
響野の銀行にいる人達の注意を惹き付ける演説が冴え渡る中、久遠と成瀬が銀行のお金をスムーズに奪い取っていきます。
そしてお金の奪取が終われば正確な体内時計を持つ女・雪子が逃走用車両を乗り付けて全員それに乗って逃走で、いつもどおり上手く行くはずだったのですが…
銀行を去ろうとした時、警備員の一人が警棒を投げつけてきて、それが久遠の左手に命中。
無事に逃走は出来たものの久遠は負傷してしまいます。
逃走から10日経った頃、とあるホテルのラウンジに四人が集合して、久遠が「防犯カメラの性能が向上し、普通の通行人も簡単に写真や動画を撮るようになり、銀行強盗は年々難しくなっている」と言っていたのは印象的でした。
またそれに加えて久遠がワーキングビザを使いオーストラリアに行っていたため、四人組は二年間銀行強盗から遠ざかっていたようです。
このホテルでは慎一という雪子の息子がアルバイトをしています。
シリーズの最初は小学生だった慎一も今や大学生になり、時の流れを感じます。
ちなみにこのホテルでは火尻正嗣(まさつぐ)という週刊誌記者が登場し、久遠とは結構言葉を交わすことになります。
火尻は宝島沙耶というアイドル兼女優のスクープを撮るためにこのホテルに来ていました。
宝島沙耶はしばらく前から雲隠れしていて、なぜ雲隠れしていたのか気になるところでした。
宝島沙耶のことは最初は少ししか登場しませんでしたが、伊坂さんの作品ではこういうのが伏線になるので、後で再登場するのではと思いました。
火尻はホテルで久遠と鉢合わせた時のエピソードから、久遠を銀行強盗犯ではと疑います。
警棒を投げつけてきた警備員がテレビに出演しまくり、「犯人は左手に怪我をしている!」と触れ回っているからです。
その後慎一が誰かに尾行されたり、久遠が当たり屋に因縁をつけられたり、成瀬が痴漢犯に仕立て上げられそうになったりと、四人組の周辺で色々なことが起こります。
火尻が四人に色々仕掛けてきていました。
やがて大桑というカジノのリーダーの存在が浮かび上がります。
どうやら火尻はそこのカジノに借金がたくさんあり、大桑に「あいつらから金を巻き上げて借金の返済に充ててくれ」と言っていたようです。
火尻に銀行強盗犯ではと疑われたことにより、四人組はどんどんトラブルに巻き込まれていくことになります。
火尻は加害者も被害者も関係なく、面白いエピソードがあれば掘り出し、対象を自殺に追い込むような記事を平気で書くハイエナ記者です。
四人組も「お前らが銀行強盗の犯人だと書くぞ」と脅されピンチになっていました。
成瀬と久遠が宝島沙耶のサイン会に行って、やはり宝島沙耶再登場となりました。
そして宝島沙耶にとって恩人である近所のお姉さんが自殺して死んだのも火尻のせいだと分かります。
諸悪の根元、火尻の想像以上の最低ぶりが明らかになり、物語が大きく動き出していきます。
ちなみに久遠が火尻に「銀行強盗犯では」と疑われることになった時、なぜか火尻はホテルの部屋で暴漢に襲撃されそうになっていました。
四人組がその時のことを調べていく中で、響野と佐藤二三男(ふみお)という男の次のやり取りは面白かったです。
「カメラの映像をどうやって」
「詳しくは言えないが、私たちにはそういう力があるんだ。とある、情報機関の力のような、CIAやKGBに似た」
「アルファベット三文字の?」
「そう。PTA、NGK、ETC。そういった組織の力でね」
PTAは小学校の保護者&教職員会であり、ETCは高速道路の自動料金支払いシステムですね
伊坂幸太郎さんらしいリズミカルな会話だと思いました。
人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ
響野が引用したチャップリンのこの言葉は印象的でした。
たしかにその時だけで見ると悲劇的なことでも、長い時間で見るとそんなに悪くなかったりもします。
火尻は典型的な嫌な奴で、早く消えてほしいと思いました。
ただこういう嫌な奴に限ってなかなか死なないんですよね。
伊坂さんの作品らしく、ウンチクも出てきました。
シロアリは蟻の仲間ではなくゴキブリの仲間だというのから始まり、カカトアルキという虫の話になりました。
カカトアルキは「88年ぶりに目(もく)が増えた新発見」とのことで、バッタ目、チョウ目、トンボ目のように新たな目が誕生することになりました。
21世紀になって新しい「目」ができるのは驚きのことのようです。
また、網翅目(もうしもく)というゴキブリとカマキリを合わせた分類があり、ゴキブリとカマキリは近縁だともありました。
これはかなり意外でした。
やがて四人組は同じく火尻に激怒している人達にも協力を頼み、火尻討伐に動き出します。
「うまくいくことを祈るしかない。明日からもこの日常が続くように」
そして物語の最初のほうで「凶暴な野良犬がまだ捕まっていない」というニュースがありました。
伊坂さんの作品ではこういうちょっとした伏線が重要な場面で生かされることがよくあります。
なのでこの伏線がどこで生かされるのか興味深く読んでいました。
もうこのシリーズの続編は出ないのだろうと思っていたので、書店でこの作品が平積みされているのを見つけた時はワクワクしました
久しぶりに銀行強盗四人組の活躍を読むことが出来て楽しかったです。
陽気で楽しい人達の物語は読んでいるほうも楽しくなってくるのが良いと思います
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