読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

ゴールデンウィーク

2015-04-30 22:30:52 | ウェブ日記
最も早い人は4月25日からゴールデンウィークという人もいるかと思います。
私は昨日からゴールデンウィークに入り、5月6日まで8連休となります。
昨日は広島に出掛けて「もみじ饅頭」や「瀬戸田レモンケーキ 島ごころ」など、帰省のお土産を買いました
もみじ饅頭は知っていましたが、瀬戸田という地域と瀬戸田が日本一のレモン生産量を誇ることは最近まで知りませんでした。
かなり美味しいレモンケーキで気に入っています^^

そして今日は朝5時に埼玉県の実家に向けて出発しました。
まず広島駅まで行って、そこから6時台の新幹線「のぞみ」に乗りました
こんなに早い時間帯の新幹線に乗るのは初めてだったので何だか新鮮でした。
約4時間乗り、10時20分過ぎに東京駅に到着。
そこからさらに2時間ほどかけて地元の駅へと帰っていきました。
アパートを出てから実家に着くまで8時間はかかっていて、なかなかの大移動になりました。
ただ朝早く出ただけあって東京に居た頃と同じ時間に実家に着くことができました。

実家では近所を散歩したり読書をしたり、ブログを書いたりしながらゆっくり過ごすつもりです。
まず今日は早く寝て旅の疲れを取るとします。
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「純喫茶トルンカ」八木沢里志

2015-04-30 07:23:55 | 小説
今回ご紹介するのは「純喫茶トルンカ」(著:八木沢里志)です。

-----内容-----
「純喫茶トルンカ」は美味しい珈琲が自慢のレトロな喫茶店。
東京の下町にひっそり佇む店には、魔法をかけられたようなゆっくりとした時間が流れ、高校生の看板娘・立花雫の元気な声が響く。
ある日バイトの修一と雫が店に出ていると、女性客が来店。
突然「あなたと前世で恋人同士だったんです」と修一に語りだし……。
孤独や悲しみを抱えた人々の心がやわらかくドリップされていく……。

-----感想-----
「東京の下町」という言葉が興味を惹き、手に取ってみた一冊です。
物語は以下の三編で構成されています。

日曜日のバレリーナ
再会の街
恋の雫

「日曜日のバレリーナ」の語り手は奥山修一。
大学三年生で、トルンカでアルバイトをしています。
季節は冬で冒頭では年末を迎えています。
トルンカのマスターは立花勲。
その娘の雫は高校生で、「トルンカの看板娘」を自称しています。

そんな年末のある日、雪村千夏という女性客がトルンカにやってきます。
注文の品を修一が運びに行った時、修一の姿を見るなり「やっと会えた」と言う彼女。
「現世でお会いするのははじめてですが、私たちは前世でお会いしてるんです」
「私たち、前世で恋人同士だったんです」
と仰天するようなことを言ってきます。
当然戸惑う修一。
前世で恋人だったと言ってくるのは重い気がしますが、雪村千夏の話がコミカルになっていたのは良かったです。
「会いたかった、シルヴィー(前世での修一の名前、前世では女だった)」など、真剣な様子でぶっ飛んだことを言っているのは面白かったです。

読んでいくと、修一は谷中(やなか)銀座商店街の近くに住んでいることが分かります。
私は谷中を歩いたことはないのですが、日暮里(にっぽり)の近くらしく、日暮里は歩いたことがあるので何となく想像がつきました。
日暮里駅も何度か作品内に登場しています。
ちなみに純喫茶トルンカも谷中にあります。
修一がかつて恋人と谷中銀座商店街に来た時の回想によると、「昭和的雰囲気が色濃く残っている道幅の狭いにぎやかな通りは、歩いていると懐かしいような、新鮮なような不思議な感じがした」とのことです。

やがて年が明けます。
雪村千夏は毎週店にやってくるようになりました。
前世のことを語る千夏に修一は以下のような印象を持っていました。
そう、彼女の話はいつでもこんなちょうしで、夢見がちな、聞いているだけで胸やけしそうなものだった。
まるで思春期の少女が、こうだったらいいな、こんな出会いがあったらいいな、と空想しそうな夢物語。
それがさらにエスカレートして、現実と妄想の境がとうとうわからなくなってしまった、そんな印象だった。

こんな感じで夢見がち少女という印象を持たれている千夏ですが、実は24歳で修一より年上だったりします。

「店のナプキンで折ったバレリーナ」というのが登場しました。
千夏がトルンカに来るたびに折っていくのです。
「お客さんがいなくなったあとのテーブルに残されていることがある」とあったので、喫茶店に来る人はたまに折るものなのかなと思いました。

本庄絢子という、近所の生花店で働いている26歳の女性もトルンカの常連客として登場。
世にあふれる格言をノートに書き留めるのが趣味で、なにかにつけ格言を引用してくる格言マニアです。
何となく伊坂幸太郎さんの作品の登場人物がよく偉人や学者、ミュージシャンの言葉を引用しているのが連想される人でした。

ある時、千夏の様子が変ではないかと雫が気に止めます。
何かあったのか、気になるところでした。
やがて千夏の驚きの秘密が明らかになります。


「再会の街」の語り手は沼田弘之という男。
男はトルンカに三十数年ぶりに来ました。
かつて男が通っていた頃は「ノムラ珈琲」という、別の人がやっている店でした。
沼田はトルンカに行くと絢子がやってくるのを待っています。

途中から男が自分の人生の失敗について、胸中を吐露していきます。
男のこの三十年は過ちの連続でした。
最初に過ちを犯したのは21の時とあったので、現在は51歳のようです。
もっと上に行きたいという野心から早苗という恋人と別れ、他の人と結婚し、その結婚生活が上手く行かず、仕事にもかつてほど気持ちを注げなくなり、やがて毎日酒をたくさん飲むようになってしまいました。
アルコール中毒です。
絵に描いたような転落人生で、野心は自業自得とはいえちょっと哀れでした。
こんな人物がなぜ絢子を気にかけているのか、やがて明らかになります。
ちなみに絢子が沼田との会話で引用した以下の格言は印象的でした。

成し遂げんとした志を、ただ一回の敗北によって捨ててはいけない

シェイクスピアの格言とのことで、これは良いなと思いました。
絢子は「要は、一回ミスったからって、簡単に諦めんなよって意味だよね」と言っていました。
たしかにたった一回の敗北で何もかも終わってしまうわけではないのだし、簡単に諦めてはいけないなと思います。


「恋の雫」の語り手はトルンカの看板娘・雫。
雫は喫茶店の娘ではありますが、コーヒーが全く飲めません。
小学校に入学して間もない頃にコーヒーを飲んで眠れなくなりさらに悪夢を見て以来、苦手意識があるようです。

この話での季節は7月下旬の夏。
最初の「日曜日のバレリーナ」からは半年以上経っています。

雫は17歳。
「ねえ、信じられる?わたし、お姉ちゃんの年に追いついちゃったんだよ」とあり、お姉さんが17歳で亡くなっていることが分かりました。
お姉さんの名前は菫(すみれ)と言います。

そんな夏の日、雫は姉のかつての恋人、荻野和彦に遭遇。
何となくその存在が気になり、小さな頃から一緒に育った幼馴染みの浩太に相談していました。
雫はここ数年、8月の終わり、姉の命日になると体調が崩れてしまいます。
心と体がうまく機能しなくなり、頭痛や吐き気に襲われ、ひどく神経質になり、なんてことない場面で泣きだしてしまったりするとありました。
浩太はそれを心配していました。

「栞」の語源は興味深かったです。
菫によると「もともとは山なんかを歩くときに木の枝を折って道しるべにしていたのが語源で、そこから意味が変わって、本に挟んで目印にするものを栞と呼ぶようになった」とのことです。
なのでもとの漢字は枝を折るで枝折り(しおり)ともあり、なるほどと思いました。

久しぶりに会った荻野さんと何度か話すうち、自分が荻野さんに抱く不思議な気持ちが恋心だと気付いた雫。
どうにかして荻野さんの気を引きたい雫は、かつて荻野さんと付き合っていた姉の服を借りることに。
この姿を見て幼馴染みの浩太が言った「じゃあせめて、いつものおまえで勝負しろよ」は印象的な言葉でした。
たしかに見かけだけ取り繕ってもそれは本当の姿ではないです。
浩太に核心を突かれた雫がどうするのか、喧嘩になり気まずくなってしまった浩太とは仲直りできるのか、興味深く読んでいきました。

東京の下町と聞くと浅草のイメージが断トツなのですが、谷中もあるのだなと興味を持たせてくれる作品でした。
この作品、続編もあるようです。
登場人物たちのその後の展開が気になるところなので、そちらも読んでみようかなと思います。


※続編の「純喫茶トルンカ しあわせの香り」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

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「水族館ガール」木宮条太郎

2015-04-26 18:33:08 | 小説
今回ご紹介するのは「水族館ガール」(著:木宮条太郎)です。

-----内容-----
市役所に務めて三年、突然水族館「アクアパーク」への出向を命じられた由香。
イルカ課に配属になるが、そこには人間とのコミュニケーションは苦手な男・梶と、イタズラ好きのバンドウイルカがいた。
数々の失敗や挫折を繰り返しながらも、へこたれず、動物たちと格闘する女子飼育員の姿を描く青春お仕事ノベル。
ペンギン、ラッコら水族館の人気者たちも多数登場!

-----感想-----
物語の主人公は嶋由香。
市役所の観光事業課に務めていて、この3月で務め始めてちょうど丸三年になるところです。
冒頭、由香は課長に呼び出されます。
そこで告げられたのは、「市立水族館 アクアパーク」への出向。
アクアパークは千葉県の湾岸開発区の南端にあります。

突然の異動、それも今までとは全く違う業務になることに戸惑う由香。
たしかに観光の事務仕事から水族館で動物相手の仕事では根本的に違っていて大変だと思います。

水族館に出向した由香は梶良平という由香より四つ年上の男に付くことになるのですが、この男が物凄く無愛想で口調もぶっきらぼうで、由香は大苦戦していました。
他には館長、現場の総責任者的な岩田チーフ、梶と同い年の同期で魚類展示グループの今田修太、獣医の磯川さん、マゼランペンギン担当の吉崎さんなどが登場します。
梶の無愛想さは相当なもので、「イルカショー」という言葉を使った由香に対し、
「イルカショーなんて仕事は、アクアパークには無い。ショーがやりたいと思ってるなら、帰ってくれ。そんな人間はいらない」
と言っていました。
アクアパークではイルカショーに相当するものを「イルカライブ」と呼んでいるためこう言ったようなのですが、それなら
「うちではイルカショーのことをイルカライブと呼んでいる」
と言えばいいのにと思います(^_^;)

読み始めてからしばらく、由香の言葉の「でも」の多さが目につきました。
梶にあれこれ言われるたび、「でも」「でも」と何度も「でも」を使って反論しています。
私はこの「でも」の多さが気になって、あまり「でも」ばかり使って反論するのもいかがなものかと思いました。

アクアパークには四頭のバンドウイルカがいます。
オスのC1(シーワン)、B2(ビーツー)、メスのF3(エフスリー)、水族館生まれでオスの子イルカのX0(エックスゼロ)です。
なぜ愛称を付けずにこんな記号で呼んでいるのか、磯川先生が語っていました。

「水族館の飼育生物に愛称は必要か。アクアパークでも、この議論は常に出る。だけど、そのたびに見送ってきた。まあ、こだわりだな。僕達は飼育技術者であって、仕事として生物を飼育している」
愛称をつけるとペット感覚になり感情移入してしまい、客観的な判断ができなくなるため、それをしないという決意を込めて、記号で呼んでいるとのことです。
これはなるほどなと思いました。
後に由香は一頭のイルカを巡り「感情移入してしまい、客観的な判断ができなくなる」を身をもって体験することになります。

由香は水族館のことは何も知らないものの、イルカに好かれる天性のものを持っているようで、C1が「C1ジャンプ」という、梶や先生、チーフにはやってくれない大技を、由香にはやってくれていました。
ちなみにゴールデンウィーク明け、アクアパークにとある噂が流れ、特に梶がピリピリすることになります。

イルカの愛称については磯川先生が「アクアパークでも、この議論は常に出る」と言っていただけあって、実際に会議の場で「イルカの愛称の公募」について議論している場面がありました。
そこで繰り広げられた総務の倉野課長と現場の岩田チーフの激論は印象的でした。
「愛称をつけるとペット感覚になり感情移入してしまい、客観的な判断ができなくなるため、それをしないという決意を込めて記号で呼ぶ」というのが現場側の意見ですが、それに対する倉野課長の意見は以下のものでした。

「ここは水族館であって、大学の研究室じゃない。来場者から入館料を取って、運営を維持してる。来場者はお客さんでもあるんだ。そのお客さんに見てもらって、いくらの場所なんだ」
お客さんに見てもらい楽しんでもらうためにも、お客さんから愛称を公募すべき、親しみやすい愛称を付けるべきだというのが倉野課長の主張で、これもたしかにそうだなと思いました。

イルカは群れで生活するものの互いの関係は対等で、群れにボスイルカはいないとのです。
トレーナーとイルカの関係も対等で、強引に演技を覚えさせようとすると、イルカは嫌になって相手にしてくれなくなります。
どちらかというと演技を覚えさせるというより、上手くイルカに遊んでもらいながら結果として演技の形にするのがイルカショーのようです。

「ベニクラゲ」も印象的でした。
今田修太によるとこのクラゲは寿命近くになるとエイヤっと若い頃の体に戻るとのことです。
そのため「不老不死のクラゲ」と言われていて、そんなクラゲがいるのかと驚きました。

「ラッコは極めて神経質な動物」というのは意外でした。
のんびりとした見た目とは裏腹に他の動物なら何でもない刺激でも餌を食べなくなることがあったり、驚くとショック死することもあるようです。
倉野課長が
「ラッコとは人懐っこい愛玩動物だ―そんな勘違いのまま、大半の観客は帰っていく」
と言っていたのが印象的です。
さらに「水族館は矛盾の塊」「水族館はイメージと現実の乖離が大きな場所」とも言っていました。
見に来るお客さんはその動物のイメージどおりの姿を見に来るのですが、現場で働く飼育員はイメージとは違うその動物の実際の姿を知っています。

そこを舞台に、由香自身も時には矛盾について考えたりしながら、日々奮闘していきます。
お仕事小説だけあって水族館のこと、イルカのことが詳しく分かりました。
青春物語でもあるので作品には躍動感があり、読んでいて面白かったです。
読むと水族館やイルカショーを見る目が少し変わる一冊だと思います。


※「水族館ガール2」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール3」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール4」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

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岩国市民憲章

2015-04-25 23:08:03 | ウェブ日記
岩国市民憲章

錦帯橋に象徴される美しいまち岩国
わたしたちは この地を愛し ふるさとが育てた偉人に学び 教養を高め
誇れる岩国を築き 引き継ぐために この憲章を定めます

大切にしたいもの ― それは みんなの夢 みんなの命
守りたいもの ― それは 豊かで美しい自然
伝えたいもの ― それは 歴史や伝統 文化の薫り
広げたいもの ― それは 世代や地域を超えた人の和
創りたいもの ― それは 岩国の輝かしい未来

先日山口県の岩国市役所に行った時に見かけた市民憲章です。
こんなふうに市民憲章があるのは珍しいなと思いました。
憲章の碑を見ると平成23年(2011年)1月1日制定とあり、最近できたということが分かりました。

そしてこの憲章、なかなかよく作られていると思います。
「伝えたいもの ― それは 歴史や伝統 文化の薫り」は、今日訪れた錦帯橋(きんたいきょう)、岩国城でその伝えたいという思いを強く感じました。
岩国城下の公園では岩国と縁の深い戦国武将の吉川元春(西国大名”毛利”における屈指の家臣)、剣豪の佐々木小次郎、小説家・着物デザイナーの宇野千代さんなどのことが紹介されていました。
岩国城の中では岩国市出身の偉人が紹介されていて、旧日本軍の陸軍大将、海軍大将、貴族院議員、文部大臣などが並んでいました。
後で今日訪れた錦帯橋と岩国城のフォトギャラリーを作ろうと思います。

それと「大切にしたいもの ― それは みんなの夢 みんなの命」と「守りたいもの ― それは 豊かで美しい自然」については重大な問題を抱えていると思うので、後で記事を書こうと思います。

山口県岩国市民になったことですし、この山陽の地域を楽しみながら、時には自分の住む市について考えていこうと思います。
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西日本へ

2015-04-20 22:35:02 | ウェブ日記
4月は出会いや別れ、新生活などで慌ただしくなる時期です。
私も西日本に転勤することになりました。
今日は引っ越しの日で、朝に業者が来て荷物を持って行きました。
そして私は新幹線「のぞみ」に乗って西日本に移動しました。
山陽地方へとやってきました。

そんなわけでここ数日は慌ただしく、引っ越しの準備に追われていました。
無事に荷物を送り出すことができたのでまずは一安心です。
後は明日、新しい部屋で荷物を引き取ることになります。
明後日からはさっそく業務が始まるので荷物の整理はすぐに必要なものだけやるようにしようと思います。

ある程度の期間西日本に滞在するのは2007年以来となります。
せっかくなので楽しもうと思います。
特に広島は厳島神社などがあるし、散策していきたいと思います♪
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「有頂天家族 二代目の帰朝」森見登美彦

2015-04-20 15:21:02 | 小説
「小説」カテゴリーの節目となる通算300レビュー目
今回ご紹介するのは「有頂天家族 二代目の帰朝」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
TVアニメ化され、累計30万部を突破の大ベストセラー『有頂天家族』。
森見史上、最も壮大で、最も愛の溢れるあの物語の第二幕が、7年半の時を超え、ついに開く-。

狸の名門下鴨家の三男・矢三郎は、親譲りの無鉄砲で子狸の頃から顰蹙ばかり買っている。
「面白きことは良きことなり」という父の教えを胸に、誰もが恐れる天狗や人間にちょっかいを出しては、愉快に過ごしていた。
そんなある日、老いぼれ天狗・赤玉先生の跡継ぎである”二代目”が英国より帰朝。
狸界は大混迷し、平和な街の気配が一変する。
しかも、人間の悪食集団「金曜倶楽部」は、恒例の狸鍋の具を懲りずに探している……。
阿呆の誇りを賭けて、尊敬すべき師を、愛する者たちを、毛深き命を守れ!
阿呆の道よりほかに、我を生かす道なし。
待ちに待った毛玉物語、再び。
愛おしさと切なさで落涙必至の感動巨編。

-----感想-----
※「有頂天家族」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「有頂天家族」再読レビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

というわけで、待ちに待った「有頂天家族」の第二部です!
昨秋に再読レビューを書いた時、そろそろ第二部が出るのではと見ていましたが、そこからもうしばらく待つことになりました。
待望していただけにかなりワクワクしながら読んでいきました。

冒頭から矢三郎と赤玉先生の懐かしいやり取りが見られました。
赤玉先生は如意ヶ嶽薬師坊(にょいがだけやくしぼう)という名前を持ち、かつては如意ヶ嶽一円を支配する大天狗でしたが、鞍馬天狗たちとの陣取り合戦に敗北を喫して、老いぼれた今は出町商店街裏のアパート「コーポ桝形」に逼塞しています。
天狗なのに空も飛べなくなり辻風も起こせなくなるとは寂しいものです。

弁天は豪華客船に乗って世界一周クルーズの旅に出て今はイギリスにいるとのこと。
「有頂天家族」第一部を盛り上げたキャラクター達の近況が徐々に明らかになっていきます。

今作では「天狗つぶて」という現象が登場。
空から珍しい品物が降ってくる現象のことで、これは天狗のいたずら、あるいは落とし物です。
数日前からモダンな天狗つぶてが洛中に降っていて話題になっていました。
ピカピカ輝く銀食器、音楽家が使いそうな年季の入ったヴァイオリン、金の脚のついたバスタブ、空でも飛びそうなペルシア絨毯などが降ってくるのです。
第二部のサブタイトルが「二代目の帰朝」で、二代目は長い間イギリスに行っていました。
そして空からモダンな天狗つぶてが降ってきたということで、何となく展開は予想されました。

矢三郎が弟の矢四郎とツチノコを探しにきて、鞍馬天狗の悪口を言っている時の場面は面白かったです。

「だいたい如意ヶ嶽一帯はそもそも我らが赤玉先生の縄張りだ。天狗の陣取り合戦で追い落とされたけれども、先生は鞍馬の連中より偉いんだ。鞍馬天狗なんて赤玉先生に比べればちんちくりんさ」
「ちんちくりんかあ」
「ほーうほう」
「生意気なことを言うやつめ。おまえはどこの狸だ?」
「これはこれは鞍馬天狗様。ご機嫌麗しゅう」

突然の鞍馬天狗の登場に態度が一変するのが面白く、今作も楽しい展開がたくさんありそうだなと予感させてくれました。
その鞍馬天狗達、今作では構成メンバーについて詳しく書かれていました。
鞍馬山僧正坊(そうじょうぼう)を総帥とし、その配下に十天狗がいます。
そのうちの五人の名前が明らかになり、霊山坊、多聞坊、帝金坊、月輪坊、日輪坊とのことです。
帝金坊は第一部でも弁天と一緒に登場していました。

やがて姿を現す二代目。
その姿は英国紳士然としていました。
話し方もとてもクールなのですが、父の赤玉先生のことになると物騒なことを言ったりもします。

「ところで父はどこにいるのかね?」
「出町商店街の裏だ。薄汚いアパートで狸の世話になっている」
「ならば私がとどめを刺してやろう。では諸君、失敬する」

矢三郎の「この天狗親子の百年の時を超えた確執」の言葉が示すように、やはり二代目と赤玉先生には激しい確執があるなと思いました。
そして赤玉先生からの「果たし状」により、因縁の親子の決闘が行われることになりました。
今や伝説となっている百年前以来の戦いです。
どちらが勝つのか、かなり興味深かったです。

そもそも天狗というものは、傲慢山の急峻から森羅万象を見下す者である。
天狗だからこそ偉いのであり、偉いからこそ天狗なのである。
この向かうところ敵なしの天狗論によれば、狸なんぞは毛玉にすぎず、人間なんぞは裸の猿にすぎず、自分以外の天狗たちでさえ所詮は張り子の虎である。
天地間で偉いのはただひとり我ばかり―それが天狗というものだ。

矢三郎が解説する、天狗の特徴。
まさに「あいつは天狗になっている」を地で行く傲慢ぶりだなと思います。


今作では矢一郎に恋の話が沸き起こります。
相手は南禅寺玉瀾(ぎょくらん)という、下鴨家とも仲の良い家の狸です。
玉欄は将棋の達人で、矢一郎とも将棋にまつわるエピソードが展開されます。
矢一郎はある時を境に将棋を指さなくなっていました。
矢一郎がなぜ将棋を指さなくなったのか、その理由がやがて明らかになります。
そして矢三郎たちの父、下鴨総一郎がかつて愛用していた「将棋の部屋」がどこにあるのか、その謎にも迫っていきました。


怪人「天満屋」なる謎の幻術師も登場。
この時、寺町通アーケードの商店街を悩ませる「天満屋問題」が起こっていました。
矢三郎が頼まれてこの問題を調べるのですが、何と矢三郎は天満屋に「化かされて」しまいます。
化けるのが得意な狸が人間に化かされるというまさかの事態。
矢三郎の敗北は狸界にまたたく間に広まり、金閣銀閣のお馴染み阿呆兄弟が「人間に化かされるなんて狸の恥さらしだよね、まったく!」「いやもう、まったく!」などと嬉しそうに言いふらしているとのことでした。

今作では「金曜倶楽部」に対抗する「木曜倶楽部」なるものが登場。
忘年会に狸鍋を喰らう秘密結社「金曜倶楽部」は洛中に名高いが、この悪食集団に対抗するために淀川教授によって設立されたのが「木曜倶楽部」であった。
メンバーは教授と私(矢三郎)の二名だけである。

二人で金曜倶楽部の会合に「狸鍋断固反対!」と印刷したビラを投げ込んだりしたものの、今のところ効果はないようです。

天満屋が作った「山椒魚鍋」には驚かされました。
「豆乳鍋」「狸鍋」など、森見さんの作品には鍋がよく出てくるなと思います。
そして鍋の具の山椒魚が特別天然記念物のオオサンショウウオなのではないかについてのやり取りも面白かったです。

「これはオオサンショウウオじゃありませんぜ、淀川教授」
「これはオオサンショウウオだよ、君」
「いやいや。これはあくまで大きな山椒魚であってね」
「だからさ、大きな山椒魚がすなわちオオサンショウウオなんだよ」
「そんな単純な話があるもんですか。分からん人だな、先生も」
「君こそ分からん人だねえ、天満屋さん」
ちなみに山椒魚鍋、美味しいらしいですが私は食べたくはないです。

天満屋はかつて金曜倶楽部の頭領である寿老人の手先をしていました。
そして寿老人の逆鱗に触れ、「地獄絵図の中の地獄」に落とされていました。
そこはまさしく地獄で、随分酷い目に遭ったようです。
その一件には弁天が絡んでいるらしく、天満屋は弁天に物凄く怒っていました。
赤玉先生が失墜したのも弁天が原因だし、ほんとにあちこちにトラブルを巻き起こす人だなと思います。

その弁天もやがて豪華客船での旅行から帰ってきます。
弁天が帰ってくるとついに役者が勢揃いというわけで、物語は益々面白くなっていきました。

第一部が終わった時の第二部の予告に「弁天と二代目の対決」とあったように、やはりこの二人はぶつかることになりました。
弁天が一方的に仕掛けていくのですが二代目は弁天を恐れていないし構いもしません。
弁天はこれが面白くないようで、珍しく今までのような余裕がなくなっていました。


今作では矢二郎の活躍が増えていて、納涼祭のために空飛ぶ偽叡山電車に化けたりしていました。
相変わらず納涼祭は第一部と同じく大荒れになり、夷川家の阿呆兄弟、金閣・銀閣と空中でドンパチやり合うことになりました。
この時の玉欄の金閣銀閣に対する言葉が面白かったです。

「金閣も銀閣もいいかげんにしなさい」
「さっきから聞いていれば、あなたたちは本当に失礼なことばかり言うのね。
今すぐ謝りなさい。
小さな毛玉の頃には可愛いところもあったのに、いったい何を食べたらそんな憎たらしい阿呆に育つのかしら。
可愛げのない阿呆に何の意味がありますか


相変わらず森見さんの作品の会話は特徴的で面白いなと思います(笑)

ちなみに淀川教授は木曜倶楽部を旗揚げして金曜倶楽部に対抗しているだけに、金曜倶楽部からは様々な手法を駆使した嫌がらせや懐柔策がきます。
矢三郎が教授を救うために有馬温泉に乗り込んだりしていました。
そして淀川教授が金曜倶楽部を追放されたことにより、倶楽部には「布袋」の席に空きができています。
この席に誰が就くのか興味深かったです。
さらには第一部で逃走した夷川早雲が再び暗躍し始め、物語は佳境に向かっていきました。

金曜倶楽部の頭領・寿老人の叡山電車の乗り物も登場。
「夜は短し歩けよ乙女」にも登場した乗り物で、ここに倶楽部のメンバー、矢三郎、淀川教授、天満屋などが集結するとなれば、波乱が起きないはずはありません。
面白い展開が待っていました。

金閣と銀閣に兄がいるのは予想どおりでした。
金閣が呉二郎、銀閣が呉三郎なので呉一郎がいるはずと前作で思いました。
その呉一郎が今作で登場し、早雲や金閣銀閣とは全然違う静かな僧侶だったので驚きました。

やがて物語は12月を迎えます。
金曜倶楽部が忘年会で狸鍋を食べる時期です。
激動の12月、今作でも色々なことが起こりました。
まず矢二郎の旅立ちに驚きました。

「矢三郎、これは矢二郎の考えなのだ」
「……矢二郎兄さんは京都から出ていくつもりなんだな?」
「行かせてやろうと俺は思う」
「そんなの俺は反対だぞ」

「行かないでくれよ、兄さん」
「おまえは俺に甘えているんだよ、矢三郎」
「そうして俺たちはみんな矢一郎に甘えているんだよ」

前作では「蛙の姿になって井戸に引き籠っているうちに元に戻れなくなってしまった」という驚きの登場をし、常に世を捨てた感じで覇気のない矢二郎の旅立ちにはしみじみとしました。

化け術に長け、そう簡単には「化けの皮」が剥がれない矢三郎の化けの皮があっさり剥がれてしまう意外なものも明らかになりました。
これはすごく腑に落ちるもので、「そうか、だからああだったのか!」と納得しました。

クライマックスではとある狸による「一世一代の大化け」に驚かされました。
まさかのどんでん返しで、やはり一筋縄ではいかないなと思いました。
シリーズ完結編となる第三部「天狗大戦」が今から楽しみです


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くりこ庵たい焼き

2015-04-13 23:00:32 | グルメ


浅草の雷門を通り、仲見世通りを進んでいって途中で別の通りと交差しているところを右に行くと、「くりこ庵」というたい焼き屋さんがあります。
たい焼きは好きなので試しに食べてみたらかなりの美味しさで驚くことになりました。



こちらがくりこ庵たい焼きです。
つぶ餡の中には細かくカットした栗が入っています。
「くりこ庵」の名が示すように栗を使ったたい焼きになっていました。

写真から分かるようになかなか厚みのあるたい焼きです。
そして尻尾の先まで餡がぎっしりと詰まっています。
何となく尻尾の先までしっかり餡が入っていると嬉しくなります(笑)
この餡が素晴らしく美味しく、カットされた栗とつぶ餡の相性の良さを感じました。
甘さもちょうど良く、焼き立てで弾力のあるたい焼き生地と「くりこ餡」のタッグは、今まで食べたたい焼きの中で一番と思えるような美味しさでした。
またいつか食べてみたいなと思います
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「鎌倉香房メモリーズ」阿部暁子

2015-04-12 23:15:01 | 小説
今回ご紹介するのは「鎌倉香房メモリーズ」(著:阿部暁子)です。

-----内容-----
人の心の動きを香りとして感じとる力を持つ、高校二年生の香乃(かの)は祖母が営む香り専門店『花月香房』に暮らしている。
香乃のよき理解者、大学生の雪弥(ゆきや)さんと共に『花月香房』は今日もゆるり営業中。
そんなある日、店を訪れた老婦人の”消えた手紙”を一緒に探すことになって!?
鎌倉を舞台に、あの日の匂いと、想いも……よみがえる。
ほっこり、あったか香りミステリー。

-----感想-----
舞台は鎌倉。
各種お香、香木(こうぼく)、香道具、薫香(くんこう)ひと揃えをとり扱う『花月香房』は、杉本寺や報国寺などの古刹(こさつ)が点在する金沢街道の一角にあります。
古刹とは由緒ある古いお寺のことです。
花月香房のように香りを専門に扱うお店は見たことがなく、珍しいなと思いました。
物語は以下の4話で構成されています。

第1話 あの日からの恋文
第2話 白い犬は想いの番人
第3話 恋しいひと
第4話 香り高き友情は

祖母の咲楽三春が営む香り専門店『花月香房』を手伝う香乃には「人の心の動きを香りとして感じとる」という特殊な力があります。
その人が怒っていれば怒っている香り、悲しんでいれば悲しんでいる香り、嘘をついていれば嘘をついている香りを察知することができます。
便利な力かと思いきや、知りたくもないのに他人の感情を次々と察知してしまうことで香乃は随分と苦悩したようです。
特に子供の頃はそれが普通のことだと思っていたため、人の心の動きを香りとして感じ取れることを口にしてしまい、両親からは「嘘をつくな」と嘘つき呼ばわりされていました。
祖母が営む香り専門店『花月香房』で暮らしているのも香乃の特殊な力を気味悪がった両親が自分達のもとから遠ざけたからでした。

香(こう)について、以下のように書かれていました。
遠く響く音色にじっと耳をかたむけるように、ささやきかけるような繊細な香気を、全身をかたむけて感じとる。
その一心さから、香は『聞く』と表現されるようになった。

香りについて「聞く」という表現を使うのは意外で驚きました。
ただなるほどなと思うような表現で奥の深さも感じました

香乃と一緒に働く岸田雪弥(ゆきや)は大学一年生で19歳。
普段働いている時は気の良い好青年ですが、失礼な客が相手だと態度が一変し、毒舌キャラが姿を現します。
しかも頭が良く色々な蘊蓄も知っているため、理詰めの毒舌で相手をやっつけていきます。
言葉は丁寧でも毒舌ということで、どことなく「謎解きはディナーのあとで」の影山が思い出されました。
雪弥は本当に色々なことを知っていて、「あの日からの恋文」や「白い犬は想いの番人」では香木についての蘊蓄を並べ立てて相手を圧倒していました。
”基本的に雪弥さんは礼儀正しい平和主義者だが、雪弥さんの内なるボーダーラインを侵した者には容赦がなくなるのだ。”とのことで、相手の失礼ぶりが一定ラインを越えるとキャラが激変します。

鎌倉が舞台なので江ノ電の長谷駅や長谷寺、光則寺、御霊神社など、知っている場所が出てきました。
これらの場所は紫陽花散策の時に訪れています。

長谷寺の紫陽花
長谷寺を散策
光則寺 アジサイと土牢
御霊神社 江ノ電と紫陽花の共演

他にも鎌倉文学館や川端康成旧居、甘縄神明宮など、まだ行ったことのない観光スポットの名前が出てきて興味を持ちました。
大仏様で有名な高徳院は小学校の修学旅行で一度行っていますが、これもまた見てみたいなと思いました。

LANDという、LINEがモデルと思われるスマートホンのアプリも出てきました。
これを見て、時代は流れているなと思いました。
ツイッターや、ツイッターがモデルのアプリが小説に登場したのに続き、LINEも登場するようになったかと思いました。


「恋しいひと」では香乃に敵意を示す女性が花月香房に来店します。
香乃は感情を香りとして感じ取れるので、自分に敵意が向けられていることも察知できるのです。
また、この話では雪弥が通う大学も登場。
横浜にある国立大学に通っていて、経済学部国際経済学科に在籍しています。
投資サークルに所属していて、この話ではそこの人達と関わっていくことになります。
香乃はこの大学に雪弥には内緒でキャンパスツアーに行きます。
また、この話ではそれまでの前2話では頼りなかった香乃が鋭い推理力を発揮していて少し驚きました。


「香り高き友情は」では妹の香凜(かりん)が花月香房に泊まりに来ます。
高校二年生の香乃に対して香凜は中学三年生です。
香凜は何かを心に決めていて、その決意の感情に香乃は気づいていました。
小野アサトという、「あの日からの恋文」に登場したツンツン頭で態度のでかい子も再登場。
この子も香凜と同じく中学三年生です。
香凜との喧嘩腰でのやり取りはなかなか面白く笑ってしまいました。
そしてこの話では萩ヶ谷(はぎがやつ)学園というお嬢様学校に転校した香凜の友達、堀沢真奈の最近の様子が変ということで、香乃達も協力して解決に乗り出すことになります。
この話では「二階堂の隠れ家めいた和カフェ」というのが出てきて、二階堂の隠れ家とは何だろうと興味を持ちました。
ネットで調べてみたら鎌倉市二階堂という地域名があり、そこにある隠れ家のような和カフェのことでした。


諦め、疲れ、敵意、嘘、決意など、色々な感情が香りとして登場していました。
それを感じ取れる香乃が、相手にはそのことを言わないようにしながらも、その感情を解決するために方法を考えていました。
香乃本人が「相手にとっては余計なお世話かも知れない」「関わらないほうがいい」と分かっていながらも関わっていってしまうのは興味深かったです。
目の前の人の感情の香りが口にしている言葉とは全く違うものだったりした場合、やはり気になるんだろうなと思います。
ただ、こんな力があっても便利だとは思えないので、私も香乃と同じく戸惑うだろうと思います。


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「神様のカルテ0 」夏川草介

2015-04-06 23:10:17 | 小説
今回ご紹介するのは「神様のカルテ0」(著:夏川草介)です。

-----内容-----
「なぜ私があなたに構うのか。それはあなたが私の患者だから」
二度の映画化、二度の本屋大賞ノミネートを経て、一止とハルさんの物語は原点へ。
病院とは24時間365日、困った人がいれば手を差し伸べてくれる場所。

-----感想-----
今回は「神様のカルテ」シリーズの「0」ということで、主人公たちが医者になる前の学生時代の物語などが展開されています。
物語は以下の四編によって構成されています。

有明
彼岸過ぎまで
神様のカルテ
冬山記

「有明」の冒頭の語り手は進藤辰也。
舞台は信州長野県です。
冒頭は信濃大学医学部の学生寮「有明寮」でみんなで勉強しているところから始まります。
辰也たちは医学部六年生の夏で、医師の国家試験勉強の真っ只中です。
神様のカルテシリーズの主人公、栗原一止(いちと)や砂山次郎も登場。
シリーズにおいて「学生時代は三人仲の良い友人だった」とあったとおり、仲の良い様子が描かれていました。
その他、シリーズには未登場の草木まどかや楠田重正、一止も密かに想いを寄せていたものの辰也と付き合うことになった如月千夏も登場。
如月千夏は一つ年下の医学部五年生で、楠田重正は同学年ではあるものの年齢は52歳で、一度社会人として管理職まで出世してから医学部に入ってきたという珍しい人です。
国家試験を控えた学生らしく、寮で勉強会を開くのが日課になっています。
その勉強会について、辰也は以下のように思っていました。

こうして集まる機会は今年が最後。
生まれも、経歴も、これから選ぶ進路も、まったく異なる人間たちが同じ机を囲むことは、おそらくもうないことなのだ。

これは何だかしんみりしました。
たしかに二度とはない尊い時間だと思います。

途中で如月千夏が語り手になる場面があり、ずっと辰也が語り手というわけではなかったです。
そして辰也から見た一止がどんなふうに見えているのかも分かって面白かったです。

高知生まれのこの友人は、夏目漱石の心酔者で、『草枕』を冒頭から全文暗唱できるというほとんど異常な特技の持ち主だ。
変人の多い医学部の中でも、ひときわの変人だが、辰也とは一年生以来の長い付き合いがある。

とありました。
「変人の多い医学部の中でもひときわの変人」というのが何だか面白かったです(笑)
また、有明は「夜明け」という意味なのは知りませんでした。
有明寮の由来はこれで、有明寮は医学部生にとっての夜明けという意味があるとのことです。
みんな医者になることがゴールみたいな気持ちで勉強しますが、本当は医者になったところが夜明けで一日はそこから始まるとあり、なるほどと思いました。


「彼岸過ぎまで」は、かつての本庄病院の物語。
まだ一止が来る前の頃から物語は始まります。
内科部長の大狸先生こと板垣源蔵、内科副部長の古狐先生こと内藤鴨一のシリーズでお馴染みの二人が登場。
ほかには外科部長の「乾の親分」、乾や板垣から嫌みを込めて「金庫番」と呼ばれる事務長の金山弁次などが登場。
変革期を迎えた医療を前に本庄病院も変わろうとしていて、金銭のみを考えて事務的にあれこれ変えようとする金山弁次と根っからの町医者で診療第一の乾はしばしば衝突しています。
DPC制度(包括医療制度)が国から打ち出されて、これまで行われてきた「最大限の医療」は「最低限の医療」に切り替わることになりました。
これについて乾は憤っていましたが、板垣は以下のように考えていました。

時代は変わりつつある。
命は金に代えられないと言いつつも、国庫には金がない。
金がなければ医療は成り立たない。
つまりは、医療は金では換算できない、などと叫んでいるうちに、医療そのものが崩壊してしまっては、本末転倒になる。


理想は最大限の医療ではあるものの、国庫には金がないというのは世知辛いなと思いました。
金がない以上、従来型の「最大限の医療」から変えざるを得ない面はたしかにあると思います。

やがて後半になると、研修医の面接に「履歴書の自己紹介欄が夏目漱石で統一された」青年が登場。
シリーズの主人公、栗原一止です。
一止は面接の時に本庄病院が掲げている「24時間365日対応」に対して以下のように言っていました。

「無理もあります、リスクもあります。しかし病院という場所は24時間365日、困った人がいれば、手を差し伸べてくれる場所であってほしいと思います」


「神様のカルテ」は栗原一止の研修医時代の話。
一止が研修医になって四ヶ月目から物語は始まります。
冒頭から一止が当直の時はなぜか患者がたくさん来る「引きの栗原」が発揮されていました。
そして一止は”大狸先生”こと板垣先生の指導のもと業務に励んでいます。
上に書いた「24時間365日対応」について、この話の冒頭で一止が心境を吐露していました。

無論、高い理想はそれを支える尋常ならざる努力によって成り立っているのであって、研修医になったということは、まさにその努力の側に回ったことを意味する。

面接の時に「病院という場所は24時間365日、困った人がいれば、手を差し伸べてくれる場所であってほしい」と言っていた一止。
研修医となり自分がその手を差し伸べる側となり、凄まじく忙しい日々を送っています。

「ベストな選択肢がない以上、ベターを選ぶしかないと思っているのです」
一止の患者さんが言ったこの言葉は印象的でした。
治る見込みのない癌に侵され、1ヶ月後に娘の結婚式が控えているため抗がん剤治療も開始したくないと考えている患者さんの言葉でした。
無事な状態で娘の結婚式に行くのがベストですが、それは無理なので、死期を早めることになっても結婚式に行くのを最優先しようとしています。
一止が癌を発見したこともあり、この患者さんと深く付き合っていくことになります。


「冬山記」は冬の北アルプスを舞台にした話。
冒頭、健三という50歳の男が常念岳から滑落して骨折してしまいます。
この常念岳には山岳写真家の片島榛名も来ていました。
後に一止と結婚する「ハル」です。
そしてこの物語はハルが雪山を舞台に大活躍でした。

「生きていればときには、山に逃げ込むことだってあります。でも山が好きなら、ここを悲しい場所にはしないでください。山は、帰るために登るんですから」

滑落して骨折した男性は生きる気力を無くしていたのですが、ハルはこう言って諭していました。
行動力も半端ではなく、吹雪の雪山の中を一人で滑落した男性を探しに行ったりもしていました。
ハルの活躍にスポットを当てた話はこれが初めてだったので新鮮でした。

シリーズの「0」ということで、登場人物それぞれの昔の姿を見ることができました。
変わらない人もいるし、変わってしまった人もいます。
この作品を経てきっとシリーズの「4」がいずれ出ると思うので、そちらも楽しみにしています。


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