読書日和

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「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」三上延

2021-04-30 21:22:53 | 小説


今回ご紹介するのは「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」(著:三上延)です。

-----内容-----
ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。
それは、この世に存在していないはずの本ーー横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。
どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。
老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。
その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。
深まる疑念と迷宮入りする事件。
ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始めるーー。

-----感想-----
北鎌倉にある古書堂の店主篠川栞子が古書にまつわる事件を解決していく「ビブリア古書堂の事件手帖」の、栞子と五浦大輔が結婚して娘の扉子が登場するようになって2作目の作品です。
読書をしたい思いはありながらもなかなか読めない中で少しずつ読み進めて行きました。

プロローグはブックカフェの臨時店番をする戸山圭とそこに現れる篠川扉子の場面で始まります。
二人は友達で、高校生なのが分かりました。
圭も扉子と同じで両親が古い本を扱う仕事をしているので幼い頃から本に囲まれて育ち本が好きですが、本の詳しさについてはとても控え目な考えを持っています。
「自分が本に詳しいとか、人より知識があるなどと思ったことはない。世の中には何事も上には上がいるものだからだ。」とあり、驕りがなくて良い考えだと思いました。
圭から見た扉子の本好き度合いの描写が「扉子は本が好きーーいや、好きというレベルではない。息をするように読んでいる。」とあり表現が面白かったです

扉子の前には2012年と2021年の「マイブック(新潮文庫が発行する日記帳のようなもの)」が置いてあります。
マイブックの中身は大輔が栞子とともに遭遇した事件について書いた「ビブリア古書堂の事件手帖」で、扉子は祖母の篠川智恵子と会うことになっていました。
智恵子は2012年と2021年に起きた横溝正史の「雪割草」事件について確認したいことがあると言い、2021年が過去のことになっていて、シリーズ1作目の「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」から作中でもかなり時間が経ったのを感じました。
扉子は智恵子が来るまでなら良いだろうと思い事件手帖を読み始め、そこから本格的に今回の物語が始まります。


「第一話 横溝正史『雪割草』Ⅰ」
栞子と大輔が結婚する前の時代に戻るので語り手は大輔になり、2012年の4月とあり二人は既に結婚しています。
栞子の妹の文香(あやか)はこの春高校を卒業し八王子にある大学の近くで一人暮らしを始めたとありました。
文香は栞子のことを「奴は息を吸うように本を読む」と言っていて、ここにもこの言葉が出てきて面白かったです。
そして活発な性格でムードメーカーの文香がビブリア古書堂から居なくなってしまったのは寂しく思いました。

井浦清美という人がトラブルの相談をしにビブリア古書堂にやって来ることになっていて、栞子はその相談内容に不安を感じています。
現れた清美は盗まれた本を取り返してほしいと依頼し、その本は「雪割草」という幻の作品です。
「この世に存在していないはずの本が盗まれ、それを探してほしい」という奇妙な依頼です。
気になったので調べてみると、横溝正史の『雪割草』は実際に近年発見されて刊行されたばかりの作品で、2012年当時はまだ発見されていませんでした。
その出来事を上手く作品に盛り込む構成が良いなと思いました

話の中心になるのは元華族に連なる「上島家」で、三姉妹の長女である上島秋世は「雪割草」を持っていました。
次女は井浦初子、三女は上島春子で、初子と春子は双子です。
また清美は初子の娘で、かつては結婚していましたが現在は離婚し息子の創太を引き取っています。
秋世が亡くなり、遺産となった「雪割草」が何者かによって盗まれてしまいます。
初子と春子は犬猿の仲で、お互いのことを雪割草を盗んだ犯人だと主張しています。

栞子は清美の依頼に対し、「調査費用はいらないから、雪割草が実在していて取り返せたら読ませてほしい」と言って引き受けます。
本が大好きな栞子は幻の作品が実在していそうなことに興味を持ちました。
また、栞子と大輔は今回の件には「元華族の一族」「複雑な家族関係」「いがみあう双子の姉妹」など、横溝正史の代表作でもある金田一探偵シリーズを連想させる事柄が妙に多いことが気になり、本当に全て偶然なのかと思います。

後日栞子と大輔が上島家の邸宅に行くと、仕事を抜けて来た清美と家政婦の小柳が出迎えます。
小柳に話を聞くと雪割草を見たことがあるのが分かり、美しい装釘の自装本(出版社からは刊行されておらず、個人で装釘した本)とのことでした。
また会話の中で道行(みちゆき)という言葉が登場し、和服用のコートだと初めて知りました。

やがて初子が現れ、日本の探偵小説は嫌いと言われて栞子が怒る場面があり、普段は物静かで控えめでもやはり本のことになると熱いなと思いました。
春子の息子の乙彦(おとひこ)は横溝正史の大ファンで、「雪割草」を盗む動機があることも分かります。
さらに春子も登場し、帰る間際の初子と口論になります。

栞子と大輔が上島家の邸宅を後にした時、今度は乙彦が現れます。
乙彦、清美ともに「雪割草」を盗んだ犯人は自身の母親だと言っているのが印象的で、親のことを信用出来ないのは寂しいものだと思いました。


「第二話 横溝正史『獄門島』」
2021年10月の話で、今回この作品を読んだ2021年3~4月より未来になりました。
もぐら堂という古書店の2階のブックカフェで大輔と扉子が過ごしているところから物語が始まります。
大輔は扉子の付き添いで来ていて、扉子は1階で取り置きしてもらっていた古書を買うつもりでした。
しかしアルバイトの店員は置き場所を知らず、店長は宅買いに出掛けていたため、2階のブックカフェで時間を潰しています。
古書の売買が昔より難しくなり、飲食スペースを併設する古書店が増えたとあり、時代の流れを感じました。

栞子はロンドンに出張して母親の経営する古書店を手伝いに行っています。
扉子の通う小学校のクラス担任から電話がかかってきて、扉子が読書感想文に横溝正史の「獄門島」を選んだことを問題視します。
殺人事件が起き怖い表現もあるので、子供に読ませるのはどうかという見方をする人もいるようです。
「決して横溝正史が悪いわけではありません」と言いながらも電話をかけてきたことを大輔は不審に思っていて、私もこういったやり方は嫌だなと思います。
最終的に担任は「本当に「獄門島」でいいのか、扉子さんに聞いてみて下さい」と言って電話を切り、あくまで自身が強制して読ませるのを止めたのではなく、親が止めたという形を作りたいのかなと思いました。
大輔は扉子の意思を尊重して「獄門島」を読むのを止めない方針で、私は意思を尊重するのは良いことだと思いました。

大輔がイギリスに居る栞子とパソコンでビデオ通話をすると、栞子は扉子の買う獄門島の値段が3000円と聞いてどの版なのか検討が付かず気にしていました。
物凄く本に詳しい栞子にも分からないのが興味深かったです。

取り置きしてもらっていたはずの「獄門島」がなくなってしまう事件が起きます。
扉子は栞子を思わせる鋭さで本が消えた謎を追って行きますが、大輔は出来れば扉子に古い本の事件と関わらないで欲しいと思っていて、「時として本を求める人の心には悪意があるのだ。」とあったのが印象的でした。
あまりに希少価値の高い古書は時として人の心を狂わせ、手に入れるためなら手段を選ばない狂気じみた人にしてしまうことがあります。

もぐら堂の店主は戸山吉信と言いプロローグに登場した戸山圭の父親でもあります。
吉信が帰ってきてそこから意外な展開を経てやっと「獄門島」を見つけ出すことができます。
事件は解決しましたが大輔はこの一件で、扉子が本の持ち主達の秘められた物語を読み解く喜びに目覚めていないかと心配します。
扉子の祖母にして栞子の母、智恵子は特に本の持ち主達の秘められた物語を暴くのを好むようなところがあり、篠川家の血統の宿命のようにも思います。

また、本を読むばかりで誰も友達のいなかった扉子はこの一件で戸山圭と友達になることが出来ました。
大輔が「本一冊で壊れる関係もあれば、本一冊で生まれる関係もある。」と語っていて、印象的な言葉でした。


「第三話 横溝正史『雪割草』Ⅱ」
2021年11月の物語で、第一話で解決出来なかった謎に9年経ってもう一度挑むことになります。
「横溝正史の幻の新聞連載小説 発表から77年を経て初の単行本化!」という帯の付いた「雪割草」の単行本が登場し、既に発売された描写がありました。
近代小説の研究者によって掲載紙が突き止められ本文も全て発見されました。
栞子達のように古書店で働く人にとって横溝正史の幻の作品が発見されるのは物凄い大ニュースなのではと思います。

井浦清美からメールで連絡が来て、初子が亡くなったので遺言に従いビブリア古書堂に蔵書を買い取ってほしいと依頼されます。
第一話での因縁もあり、初子はビブリア古書堂をよく思っていないはずなのになぜそんな遺言を残したのか、何か裏があると大輔は警戒します。
栞子は9年前に事件を解決出来なかった悔しさを晴らすために決意新たに臨み、大輔もまたそんな栞子を支えようと決意します。

栞子と大輔が蔵書を買い取るために整理をしていると、横溝正史の全く同じ文章の「雪割草」の直筆原稿が7枚も出てきます。
ヒトリ書房の井上太一郎に鑑定してもらうと7枚は全て偽物と分かり、栞子も気付いていました。
そして本物の直筆原稿を見ながら模写した可能性があり、本物がどこにあるのか探していくことになります。
いよいよ9年前の事件とともに全ての謎を解く時が来ます。


久しぶりにビブリア古書堂シリーズの作品を読み、やはりこのシリーズは面白いと思いました
プロローグとエピローグでは扉子がもう高校生になっていたのも印象的で、一気に時間が流れたのを感じました。
智恵子が扉子の洞察力を気に入った様子だったのも気になり、またいずれ扉子の前に現れると言っていたので、もしかすると智恵子と接する中で扉子も古書を巡る事件を解決していく人になることが予感されました。
高校生、あるいは大人になった扉子をはっきりと主役にした作品、栞子と大輔が活躍する作品、どちらも読みたい思いが強くなり、続編を楽しみにしています



ビブリア古書堂シリーズの感想記事
「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」
「ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~」
「ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~」
「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」
「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」
「ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~」
「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~」
「ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~」


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コメント (2)
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2021-04-03 19:50:12 | ウェブ日記
気象庁の区切りでの冬(12~2月)が終わり、3月になって春が始まりました
その3月が早くも終わり4月になって新年度を迎え、月日の流れの早さに驚きます。

春の始まりの頃は、まだ冬を意識していました。
しかし3月上旬、中旬と進むにつれて、段々と年末年始の頃のような猛烈な寒さにはもうならないのだろうなと実感するようになりました。
季節が春になってから少し遅れ、気持ちも春になったのだと思います
3月下旬になると完全に後ろの冬より前の春に意識が向くようになりました。
4月を迎えた今は約1ヶ月後に迫った二十四節気の「立夏」、そして初夏の時期を意識するようになり、人の気持ちもどんどん移り変わって行くのを感じます。

3月は着るものや寝る時の布団の厚さも目まぐるしく変わりました。
毎日天気予報を見て、朝冷え込むようなら布団を厚くし、暖かいようなら薄くしました。
服は最高気温をよく見るようにし、毎日コートは着ていましたがインナーを調節しました。
そのインナーも真冬の厚さになる日はほとんどなくて、ここでも冬が終わったことを日々感じました。

そして昨日4月2日はこの春初めてコートなしで通勤の行き帰りを歩きました。
今日もコートなしで一日過ごし、段々と身体もコートなしで過ごすことに慣れてくると思います。
日々力強くなって行く春に上手く対応しながら過ごして行きたいです
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