・ W・ワイラーが流れ者と悪徳判事の奇妙な友情を描いた西部劇。
多彩な作品を手がけ米国映画界を代表する監督のひとり、ウィリアム・ワイラー。西部開拓時代の牧畜業者と農耕入植者との争いを背景に、流れ者と土地の権力者との奇妙な友情と対決を描いた西部劇。
馬泥棒と間違えられ捉えられた流れ者コール・ハーデンにゲイリー・クーパー、悪徳判事ロイ・ビーンにウォルター・ブレナンが扮している。トキにコミカルなふたりの人間模様と、馬の疾走や畑・民家の炎上シーンなど迫真の映像でシビアな開拓時代を描写した傑作だ。
「モロッコ」(30)以来、スターとして活躍しているCOOPことG・クーパー。どちらかというと2枚目俳優=大根役者では?という定評があった。本作では、後のC・イーストウッドの役柄に反映された得体の知れない流れ者に扮し、とぼけた雰囲気を醸し出しながらドラマを牽引している。翌年「ヨーク軍曹」、その翌年「打撃王」と実在の英雄を演じて大スターの位置を築いていく。
「真昼の決闘」(58)ではシリアスな保安官に扮し二度目のオスカーを手にしているが、3年後60歳でジョンウェインと並ぶ西部劇スターを失ってしまった。
そのスターを喰ってしまったのがW・ブレナン。筆者にとって「リオ・ブラボー」(60)での老牢番スタンピー役の印象が濃いブレナンだが、戦前の名脇役のひとりで本作を含めオスカー助演男優賞を3度も獲得している。
演じたロイ・ビーンはジョン・ヒューストン監督ポール・ニューマン主演でも映画化されている実在の治安判事だが、殺人・牛泥棒・詐欺など犯罪歴が多数ある人物で法秩序を守るヒーローとは言いがたい。
本作では女優リリー・ラングトリーに憧れるアイドル・オタクぶりと酒場を経営する悪徳判事という二面性を持った男を愛嬌たっぷりに演じていた。牧畜業者の味方で畑や民家を焼き討ちした黒幕ながら知らんぷり。だが「リリーの髪の毛に誓ってか?」とハーデンに問い詰められあっさり白状してしまう。
嘘から出た誠で、リリーの公演がある劇場で対決する二人。おかしな友情は最後まで人間味溢れるシーンであった。
本作以来西部劇を手がけなかったW・ワイラーは、18年後グレゴリー・ペック主演「西部の人」で二度目の西部劇をどのように描いたのか?見比べて観るのも興味深い。