晴れ、ときどき映画三昧

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「間違えられた男」(56・米)75点

2021-07-18 12:31:13 | 外国映画 1946~59


 ・ 唯一、実録ドラマ構成に挑んだヒッチ。


 ’53NYで強盗犯に間違えられた男の冤罪事件をもとにアルフレッド・ヒッチコック監督によってモノクロで映画化されたサスペンス。主演に唯一ヘンリー・フォンダを起用、共演はヴェラ・マイルズ。

 ヒッチはカメオ出演が観客の興味を惹くシーンでお馴染みだが、本作では冒頭シルエットで登場し「これは実際に起こった事件です」というTVのヒッチコック劇場を連想させる異色のスタート。

 VIP専用クラブのバンドマンであるマニー(H・フォンダ)は、妻ローズ(V・マイルズ)と二人の息子と慎ましく暮らしていた。妻の歯の治療に300ドルが必要となり、金を借りるため生命保険会社に出向いたマニー。2度も強盗に入られた保険会社の事務員から強盗犯に間違えられ拘束されてしまう。
 7500ドルの保釈金を工面してもらい、妻とともにアリバイ立証のために奔走するが・・・。

 警察の捜査は、ルール通りで致命的ミスはないもののおざなりで、マニーが犯人であることから物事を進めている。職業への偏見や趣味の競馬や借金、イタリア系であることなど先入観がアリアリ。
 カメラはマニーの戸惑いや警察の事務的な対応どなを丁寧に追い、観客を臨場感溢れるシーンへと巻き込んで行く。

 ヒッチは得意のユーモアとストーリー・テーラーを封印しドキュメンタリー調の雰囲気でスタート、新しい実録ドラマ構成に挑んでいる。ただトリュフォーに語っているように社会派には不向きで、無罪証明に必死なマニー夫婦の心情に寄り添いエンタテインメントとのバランスが中途半端な感は否めない。

 主演のH・フォンダは実年齢より13歳も年下の役柄ながら普通の市民を演じる巧みさが際立ち、冤罪の重さをヒシヒシと伝えている。前年「十二人の怒れる男」とともに<アメリカの良心を演じるスター>としてポジションを不動のものとしている。
 共演したV・マイルズは健気な妻に扮し、後半心身に異常を来す役柄を無難にこなしヒッチの期待に応えている。「めまい」には妊娠のため果たせなかったが、三年後の「サイコ」で主人公の妹役に起用された。
 実在の弁護士アンソニー・クエイルを演じたフランク・オコナーは、刑事事件が専門ではない元議員というキャラクターで二人を支えている存在。

 冤罪は本人のみならず家族や親族など周辺にまで傷つけてしまう。オウムの長野サリン事件での河野夫妻を連想させる本作。
エンディング・クレジットはヒッチらしくないが、救いが欲しい観客には不可欠なシーンだった。