晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「紙の月」(14・日) 80点

2014-12-14 17:14:03 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 宮沢りえを支えた脇役陣と吉田演出。
                    

角田光代のベストセラーを若手の気鋭・吉田大八監督で映画化。平凡な女性銀行員が巨額の横領事件を引き起こした経緯を描いたサスペンス。

 観終わって2週間以上経過しながら筆が進まなかったのは珍しいが、決して出来が悪いわけではない。むしろ、映像や音楽センスの良さに流石CM出身監督らしい美意識が窺え、好感をもって映画館を出た。

 年頭NHKで観たTVドラマは原作に近く、主人公(原田知世)の過去や同級生などが登場して彼女の心の襞に分け入った人間ドラマだった。

 それと比較すると映画ならではの簡略化もされていて、彼女が年下の大学生に入れ上げた経緯に絞り、ヒロイン・梨花(宮沢りえ)の変貌ぶりを追うストーリーはとても分かりやすい。

 反面、原作にはないふたりの銀行員・お局役の小林聡美、若手ちゃっかり役の大島優子を加え、ヒロインを惹きたてる重要な役割を果たしている。上司役・近藤芳正と併せ、如何にも地方銀行の支店はこんな雰囲気なのではと思わせる典型的な臨場感溢れる構成だ。

 時代設定をバブル直後の94年から現在に移したのだろうか?夫婦のすれ違いの描写が割と淡泊で、年下の大学生・池松荘亮との関係もあっさりしていて現代風。

 昔の事件滋賀銀行の奥村彰子や足利銀行の大竹章子、三和銀行の伊藤素子など横領した女子銀行員のようにドロドロした男女関係から抜き差しならなくなったという悲壮感がない。

 70過ぎの老人にはヒロインの気持ちはよく分からない。むしろ上海に単身赴任した夫・田辺誠一に同情してしまう。吉田監督と脚本の早船歌江子は腕時計など微細なところで微妙な女ごころを描き切ったのだろうが、いまいち突っ込み不足では?

 起承転結でいえば、結は観客に委ねたこの作品。先のキャスティングに石橋蓮司、中原ひとみを加えた脇役陣が、5年振りの本格的主演で映画界に復帰した宮沢りえを盛り立てている。

 今年度の主演女優賞を総なめしそうな宮沢りえ。もっと映画で魅了して欲しい。