晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「トゥ・ザ・ワンダー」(13・米) 65点

2013-08-14 15:25:31 | (米国) 2010~15

 ・ 通俗的なラブ・ストーリーを通じて哲学的なテーマを描いた巨匠T・マリック。

   
 「ツリー・オブ・ライフ」(11)のテレンス・マリックがアメリカの男とフランスの女のラブ・ストーリーを描いた。とはいえ哲学的かつ宗教的テーマで観客を大いに惑わせた独特のスタイルは健在で、ますます拍車が掛かった感じがする。

 モンサン・ミシェルで出逢ったニールとマリーナ。シングル・マザーのマリーナがアメリカ人のニーナに会ったとき「新生児のように私は目を開く。そして溶ける永遠の闇に光を放ち、炎のなかへ落ちて行く。」というモノローグで始まる。そして「あなたとなら何処へでも。一緒に過ごせればいいの。」

 やがて2人は娘タチアナを連れてニールの住むオクラホマの田舎町で暮らし始める。何もかも新鮮でスーパーでの買い物やパレードの見物というささやかな日常に喜びを覚える日々が続く。がそれも3カ月も経たないうちに、単調な生活と環境に馴染めず、同時にニールへの情熱は失われ始める。娘のように可愛がっていたタチアナから「パパ気取りはやめて!」と言われ、心が覚めて行くニール。「永遠に続くと思った時間は存在しなかった。」

 こうして、マリーナのモノローグのオンパレードで<出会いと別れ>が展開するが、全て美しいプロモーション映像をみるような雰囲気で、ドラマを盛り上げるための余分な説明は一切ない。おまけにニールが感情を露わにしない寡黙な男。交流があったのは幼なじみの牧場主のジェーンとクインターナ神父のみ。あとで知ったがニールの友達役にオスカー女優レイチェル・ワイズが出演していたのに全面カットされたという。是非観てみたい気もするがお蔵入りだろうか?

 ニールはマリーナが去った後ジェーンに惹かれるが、パリへ戻ったタチアナが父親の家へ移ったのを知って、責任感から彼女を呼び戻し結婚する。夫婦がわだかまりなく円満な生活が戻るかは、火を見るより明らかでは?「なぜ愛は憎しみに変わる?なぜ優しい心は冷淡に?」

 <愛は感情か?義務か?それとも命令か?という男女の関係を問いかける映画>のつくりだが、本質は原罪、隣人愛などの聖書にちなんだテーマがあちらこちらに散りばめられている。それを布教に励みながらも信仰への情熱を失いかけているクインターナ神父が、神への問いとして「神はどこにいるのか?なぜ自分の前に姿を現わさないのか?」と独白してゆく。 

 ニールを演じたのは「ラルゴ」(12)で監督・主演したベン・アフレック。愛に悩む孤独な男のイメージを巧く惹きだしていた。マリーナを演じたのはウクライナ出身のミューズ、オルガ・キリレンコ。感情の赴くまま言動するが、いつも満足できない女を奔放に演じている。
幼なじみジェーンのレイチェル・マクアダムスは身を引く女の役で、出番があまりなかった。クインターナ神父のハビエル・バルデムは聖職者としての苦悩を抑えた演技で好演。仰々しさを伴うこの映画のテーマを背負った感があった。

 モンサン・ミシェルが象徴するように列車の音とともにプロローグとエピローグに登場。パリの街並みがオクラホマの家並みと対照的に映り、荒涼とした自然が自然光で美しく映えるエマニュエル・ルべツキの撮影が詩情豊かに訴えてくる。バックにながれるのがバッハ、ワーグナー、チャイコフスキーなど抑制されたクラシックなのも相乗効果を醸し出している。

 寡作だった巨匠が次々と新作を出してくるのは嬉しいが、かつての「天国の日々」(78)のようなストーリー・テラーとしての作品はもうできそうもない。そのつもりで映画館へ足を運ぶ必要がありそうだ。



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