晴れ、ときどき映画三昧

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「仁義」(70・仏/伊)70点

2020-05-02 16:18:39 | 外国映画 1960~79


 ・ 仏・ノワールのJ=P・メルヴィル監督×A・ドロン主演、第2作。

 「サムライ」(68)に続きジャンピエール・メルヴィル監督がアラン・ドロンを起用したフレンチ・ノワールはジャン・マリア・ヴォロンテ、イヴ・モンタン共演という豪華キャストによるフレンチ・ノワール。

 出所したばかりのコレー(A・ドロン)の車のトランクに偶然、脱走容疑者ヴォーゲル(G・M・ヴォロンテ)が隠れたことで二人の奇妙な友情が芽生え、元警官ジャンセン(Y・モンタン)も加わり宝石店強盗を企てる。ヴォーゲルを追う初老のマッティ刑事(ブール・ヴィル)との対決を描いた男たちの挽歌。

 口ひげを蓄えたA・ドロンは少し渋味が出てきて相変わらずダンディ。
「荒野の用心棒」(64)、「夕陽のガンマン」(66)でC・イーストウッドを向こうに回して荒々しい敵役を演じたG・M・ヴォロンテが相棒だが、もともとメルヴィルはJ=P・ベルモンドを想定していたが実現しなかった。そのため出番は多いが、髭のないヴォロンテは良くも悪くも強いアクが抜けた感じで、いまひとつ精彩に欠けていた。
 中盤から登場したシャンソン「枯葉」で有名なY・モンタンはアル中で悪夢に苛まれる個性的なスナイパー役で、そのダンディな佇まいはA・ドロンを喰うほど。

 スタイリッシュな三人に対し、もともとコメディアンだったブール・ヴィルは、犯人を執拗に追い捕らえるためには手段を選ばない刑事役。3匹の猫と暮らす孤独な面もある役柄で印象深い。これが遺作となったことで記念碑的作品となった。

 名実ともに仏・ノワールの代表的存在となったメルヴィル。そのスタイルはますます顕著となって台詞・音楽を極力排除。そのためミシェル・ルグランの音楽が気に入らずエリック・ド・サルマンを起用、そのジャズ風音色が鉛色のメルヴィル・ブルーにマッチして、名手アンリ・ド・カエによる映像とともにパリ郊外の風景やパリの夜景などシックな雰囲気にマッチしている。

 原題は「赤い輪」で<人は赤い輪のなかで運命的に出会う>というブツダの言葉から取っているとあるが真偽のほどは不明。邦題の「仁義」はヤクザ映画のイメージでつけられたのだろうが、元は孟子の思想で<博愛と、ことの理非を区別する徳>を意味し、目的は違っても仲間を信頼し裏切らない登場人物たちを描いていて、あながち見当違いともいえない。

「無垢に生まれるが、長くは続かない」という哲学的な言葉で幕を閉じる140分。本国フランスでは記録的大ヒットとなったが、日本では冗長であると20分カット版で上映されたが不評だった。

 70年代を迎えて絶頂期の仏ノワールも終焉のときが近づいてきたのを感じる。