晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「ヒトラー暗殺、13分の誤算」(15・独)70点

2020-03-12 12:03:08 |  (欧州・アジア他) 2010~15

・たったひとりでヒトラーを暗殺しようとした男の人生を、史実をもとに描いたドラマ。
’39年11月8日ヒトラー暗殺未遂事件を起こしたゲオルク・エルザーの人生を、回想を交えながら描いたドラマ。
「ヒトラー~最後の12日間~」(04)のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督、「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最後の日々」(05)のフレート・ブライナースが娘・レオニークレアとの共同脚本で映画化。
「白いリボン」(10)の狂言回し役で葛藤する牧師役だったクリスティアン・フリーデルが主演、「グッバイ レーニン」(03)以来ドイツ映画には欠かせない名脇役・ブルクハルト・クラウスナーが共演。
ウェルテンベルク地方の田舎町出身で、女性に好かれ音楽を愛する平凡な男がどのようにしてヒトラー暗殺をたったひとりで行ったのか?その動機は何だったのか?42件もあったヒトラー暗殺未遂事件のなかでも特異な事件を7年前からの出来事を交差させながら描いている。
プロテスタントの家庭で育ち貧しいながら家具職人として生計を立て、音楽を愛し人妻エルザ(カタリーナ・シュトラー)と不倫の恋におちるなど自由を生き甲斐としてきたゲオルク。
反ナチスだった36歳の男にとって青春を謳歌していたときは過去となり、緊迫した時代を肌で感じるようになっていた。
ナチスと共産党の狭間にいたゲオルクは個人的な理由<自由が欲しい>で、ミュンヘン一揆の記念日にヒトラーが演説する会場のビアホールへ時限爆弾を仕掛ける。
設定どおりだったが、ヒトラーの演説がいつもより早く切り上げられたため失敗、8人が死亡63人が怪我。スイスとの国境で逮捕され、ヒトラーの命令で背後関係の有無を詰問される。
取り調べたのはゲシュタポのミュラー局長(ヨハンフォン・ビューロー)と刑事警察ネーベ長官(B・クラウスナー)の二人で拷問も厭わないミュラーに対しネーベのあくまで真実を追究する姿勢に立ち位置の違いが描かれる。拷問は熾烈で目を覆うシーンも。黙々とタイプに向かう女性書記の無機質な態度が当時の趨勢を象徴している。そっと恋人の写真を手渡す女性でもある。
単独犯という結論に上官は納得せず、恋人や親族を巻き込まれるがイギリス諜報部もソ連も関与したという事実はなくそのまま拘留される。
本作では延命の謎は描かれず、謎のまま終戦間近の45年3月に反逆者として縛り首となったヌーベに続き、4月9日強制収容所で処刑されてエンディングとなる。(体制側に転向しながらも謎を漂わせて延命を図ったとも)
見終わってエルザーの行為はどうだったのだろうと思わずにはいられない。戦後もワルキューレ作戦で英雄と称えられたシュタウェンベルク大佐とは対照的なテロリストとして反ナチストからは反感を買い大衆からも異端者として扱われたエルザー。
タラレバのない歴史のいたずらから組織を持たない人間の行動は歴史から抹殺される典型か?
伊藤博文・リンカーン・ケネディなど、ときのリーダーを暗殺した名もなき人物と同様、エルザーの行為は13分の違いでその名は埋もれてしまっていた。名誉回復がされたのはツイ6年前だった。
地味な作風だったが、とても感慨深い作品だった。