晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「よこがお」(19・日/仏)80点

2020-01-23 12:11:11 | 2016~(平成28~)

・ある事件で無実の加害者となってしまった女性を主人公に、人間の多面性を描いたサスペンス風ドラマ。
「淵に立つ」(16)で強烈なインパクトを与えた深田晃司監督が再び筒井真理子を主演にしたオリジナル脚本。
ヒロインに扮した筒井は40代半ばの役柄だが、深田監督との出逢いでブレークした遅咲きの女優。筆者には第三舞台で<踊るポンポコリン>を踊っていた20代の舞台での記憶がまだ残っている。
深田監督は現在のリサと過去の市子を交錯させながら一人の女性を同時並行的に描いて人間の多面性を表現する手法をとっている。
「淵に立つ」では体重を13キロふやして時系列を体現した筒井だが、今回は髪型・服装・化粧などで訪問介護師の市子から謎めいた女性リサへの変貌を遂げて同一人物ながら別人の趣があり、まさに<よこがお>で人間の多面性を見事に具現化している。
訪問看護師として大石家から厚い信頼を受けていた市子。ニートだった長女基子(市川実日子)が看護師を目指し勉強をしているのを助け、次女の高校生サキ(小川未祐)にも慕われていた。
そのミサが行方不明となって事態は急変する。
事件は一週間で解決するが、容疑者逮捕で市子の身に起きた申し訳ないという気持ちが無実の加害者という立場に追い込まれる。
市子に憧れ以上の好意を持つ基子との秘密が成立し、それが思わぬ方向へ・・・。
出演した俳優は主要人物はもちろん脇役まで違和感なく本物感があってドラマに吸い込まれる。なかでも基子を演じた市川実日子が複雑な人間性を魅せ筒井とがっぷり四つの好演ぶりが目立った。現在・過去そして4年後のラストシーンまで複雑な時系列や、リサが<四足歩行>や美容師和道(池松壮亮)への接近など不可解な言動も回収してくれる。
監督はミラン・クンデラの「冗談」をヒントに、親しさ故のセクシュアリティなたわいもないないハナシが、思わぬ方向へ一人歩きするという不条理を市子と基子に置き換えている。
<ささやかな復讐>で独り相撲・滑稽な空回りを演じたリサは、車のクラクションで自らを吹っ切ろうとしていた。
ますます円熟味を増した筒井真理子とシニカルな人間を描くことに磨きが掛かった深田監督のコンビで次回作を期待したい。