・ 緻密な脚本による後味の良いエンタテインメント作品。
「運命じゃない人」(04)「アフタースクール」(08)の内田けんじ監督・脚本による3作目。前2作は未見だがどんでん返しで観客を魅了する緻密なオリジナル脚本が売りで、知る人ぞ知る監督40歳時の作。
売れない役者と凄腕の殺し屋が<入れ替わり人生>を体験、そこに真面目で不器用な婚活女性が絡むというサスペンス・コメディでラブ・ストーリーがスパイスとなった128分。
優しいだけが取り柄でだらしない男・桜井に堺雅人、凄みがあるが愚直な中年男・コンドウに香川照之、相手は決まっていないのにスケジュールはバッチリ立てている婚活中の雑誌編集長・水嶋早苗に広末涼子というトライアングル。
早苗の結婚宣言から始まり、コンドウの殺人シーン、桜井の自殺未遂で三人のプロフィールがお披露目され、何の関係もなさそうな三人が事件に巻き混まれて行く・・・。
自殺に失敗し銭湯の無料券を手に出かけた桜井と、渋滞に巻き込まれ袖口についた血を拭うため銭湯に入ったコンドウ。羽振りの良さそうなコンドウが石けんに足を滑らせ昏倒、救急車で運ばれるが桜井は咄嗟にロッカーの鍵を入れ替える。
記憶喪失になって自分が桜井だと思い込むコンドウを、父の見舞いに来た早苗がぼろアパートへ送り届けるうち、その真面目さが何かと気掛かりになって行く。
免許証から豪華なマンションに辿り着いた桜井は、コンドウの本名が山崎だと知る。おまけに正体は殺しやと分かり殺しの依頼を引き受けるハメに・・・。
リアリティに欠ける展開だが随所に笑いを挟みながら、小気味良いテンポのストーリーに魅入ってしまう。あちこちにちりばめられていた伏線も後半見事に回収され、後味の良いコメディに仕上がっている。
えてしてオーバーアクトになりがちな男優二人と清々しいキャラクターが定番の広末、主要人物三人にオーバーアクトを求めない演出手法が功を奏していた。
特に役柄に恵まれた香川の巧さが目立ち、顔芸だけではない彼の演技力を再確認させられた。
内田ファンには大どんでん返しがなく物足りなさが残ったかもしれないが、筆者のような初見者には良質なエンタテインメント作品でとても好感を持った。
監督はビリー・ワイルダーを尊敬しているらしく、歯切れの良い緻密な構成には納得。4作目の噂を聴かないが前2作ともども新作を観てみたい監督だ。