晴れ、ときどき映画三昧

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「家へ帰ろう」(17・スペイン/アルゼンチン)80点

2019-07-16 12:29:35 | 2016~(平成28~)


 ・ アルゼンチンからポーランドまで、老人ひとりのロード・ムービー。


 アルゼンチンに暮らす88歳の老人が、高齢者施設への入居を嫌い70年ぶりに故郷ポーランドへ一人旅するロード・ムービー。アルゼンチンの脚本家パブロ・ソラルスの長編2作目監督作品。自身の祖父の体験やホロコ-スト生存者の息子のハナシをもとに映画化。主演は「タンゴ」(98)のミゲル・アンヘル・ソラ。

 長年ブエノスアイレスに住む仕立屋のアブラハム。自分を高齢者施設に入れようとする子供たちから逃れ、故郷であるポーランドのウッツ目指して一人旅立つ。
 その旅は、第二次大戦でナチスの手から救ってくれた親友へ自分が仕立てた最後のスーツを届ける再会の旅でもあった。

 ホロコーストといえば悲惨な戦争の歴史で、どうしても暗いハナシになるが、本作は回想シーンを挟みながら、軽妙なユーモアを伴う感動的なストーリー。

 主人公は頑固でしたたかだが、どこか憎めない愛嬌ある風貌でオシャレな老人。若い頃痛めた右足にツーレス(デイッシュ語でトラブルという意味)と命名、手術を進められても拒んでいる。老けメイクの主人公がイメージぴったりだ。
 
 ブエノスアイレスからマドリードへ飛行機で、マドリードからフランス経由ワルシャワへは列車での旅は出逢いによる人間賛歌とちょっぴり哀しい別れ。
 マドリードで出会ったのはホテルの女主人・マリア(アンヘラ・モリーナ)とミュージシャンの青年・レオナルド(マルティン・ピロヤンスキー)、それにマドリードに住む末娘クラウディア(ナタリア・ベルベケ)。
 無愛想な女主人とのヤリトリはまるで男と女の恋の駆け引きのよう。スペイン女優A・モレーラの大人の色気は60を過ぎても衰えず、とても魅力的な3人の夫がいた恋多き女を演じている。
 末娘クラウディアとの出会いはリア王のコーディアがモチーフ。ホテルで有り金を盗まれたアブラハムが勘当した娘に借金をするために会いに行く。彼女の腕に彫られたタトゥーが悲しい親子の絆を物語る。

モンパルナス経由東駅で路頭に迷うアブラハムに助け船を出したのはドイツ人類学者イングリット(ユリア・ベアホルト)ドイツを通らずポーランドへ行きたいという無理難題を解決してくれた。
歴史的負の遺産を背負った二人の抱擁は心から安堵させられた。日本人もドイツ人も75年経っても戦争のハンデを背負っており、隣国との対応の難しさを実感する。

車中で過去の幻想と体調不良から倒れ、目覚めたのはワルシャワの病院だった。看護師ゴーシャ(オルガ・ポラズ)はまさに白衣の天使だった。

様々な映画祭で観客賞を受賞した本作。邦題ともなった最後のセリフが70年間のギャップを埋めるようだ。