・ 現代への警告を示唆した70年代のディストピアSF映画。
ハリイ・ハリソンのSF小説「人間がいっぱい」を、「ミクロの決死圏」(66)のリチャード・フライシャーが監督。NYを舞台に人口増加で資源が枯渇して格差社会となってしまった50年後の未来社会を描いたディストピア映画。
主演にチャールトン・ヘストン、共演はこれが遺作となったエドワード・G・ロビンソン。
’22年のNYは人口増加で人間が路上に溢れ出し溢水の余地もない状態となっていた。環境破壊のため食料が不足し大多数の人間は海のプランクトンからソイレント社が製造した合成食品の配給で命を繋いでいた。
NY殺人課の刑事ソーンはソイレント社幹部サイモンソンが殺害された事件を同居人ソルの協力のもと捜査を開始する。
ソイレントとは大豆とレンズ豆を合成した言葉で、合成食品のこと。筆者が子供の頃(’50年代)、将来は食べ物はみんな一口大のカプセルになって料理が不要になり食事が簡単になるという話を聴いて、味気ない食事はつまらないと思った記憶があった。現実にならないで良かったという反面、食事の簡素化はその方向に歩みつつある気も・・・。
現在地球レベルでは人口増加と食料不足は事実となりつつあるがかなり偏差値があり、日本では少子高齢化と自給力不足が優先課題。しかしここで描かれている格差による貧富の差や大企業と一部の権力者の癒着、安楽死問題など社会問題は現実のものとなっている。
活劇俳優C・ヘストン演じる刑事は職権乱用して良い思いもする偽善的ヒーローだが家も職業もあり恵まれた存在で、同居するソルは<本>と呼ばれる老学者で知識だけで生き延びている。彼らが集まる<交換所>は図書館のようなもの。50年前はIT技術の長足の進歩は見抜けなかったのか?
さらに配給不足で起きた暴動をショベルカーでゴミのように排除したり、特権階級には<家具>と呼ばれる若い女性がいるのは陳腐な驚き!
そんな救いのない未来感いっぱいの本作のハイライトは<ホーム>という安楽死施設。美しい大草原や大海原の風景が移る無機質なベッドで大好きなチャイコフスキーの悲愴やベートーベンの田園を聴きながら深い眠りにつくソル。撮影9日後亡くなったE・G・ロビンソンの最後の姿だったことも感慨深い。
米国ではトランプ大統領誕生とともにディストピア小説<1984年>がベストセラーになったという。本作もリメイクしたら大ヒットするのでは?