晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「エル ELLE」 (16・仏/独/ベルギー)60点

2018-01-28 15:49:10 | 2016~(平成28~)

・ 固定概念を打ち砕くP・バーホーベン監督のヒッチコック風スリラー。




「氷の微笑」「ロボコップ」のオランダ人監督で、まもなく80代になろうとする奇才ポール・バーホーベン監督の最新作は、妖艶な大人の女性を主人公にしたヒッチコック風スリラー。

エルは主人公の名前ではなく、フランス語で「彼女」。主人公ミッシェルを演じたのはフランスを代表する女優イザベル・ユペール。

当初S・ストーン、N・キッドマン、J・ムーア、D・レインなどにオファーしたものの見事に断られ、原作(フィリップ・ディジャン「oh・・・」)のファンだという彼女が手を挙げ実現したとのこと。

突然自宅に侵入してきた覆面男に襲われたミシェル。平然と後片づけをして風呂を浴び、寿司の出前を頼む。警察に届けず、訪ねてきた息子ヴァンサン(ジョナ・ブロケ)と寿司を食べる。

ゲーム会社の経営をしているミシェルは、ビジネス・パートナーのアンナ(アンヌ・コンシニ)夫婦、元夫リシャール(シャルル・ベルリング)にさり気なくレイプされたことを話し、皆を唖然とさせる。

元夫、恋人(クリスチャン・ベルケル)、部下、隣人(ローラン・ラフィット)など犯人は身近にいると確信したミシェルは独自に犯人探しを始めた。

物語は犯人探しのサスペンスを装いながらブラックコメディのテイストもあって、意外にも中盤で犯人が判明するという展開で観客の予想を打ち砕く。

ミシェルは矛盾だらけの言動で観客の期待を裏切り、同時上映で観たイランA・ファンハディ監督の「セールスマン」とは両極にある女性ヒロイン像に戸惑うばかり。

おまけに登場する男たちはダメ人間ばかりで、共感を呼ばない。

これこそ「エログロ」「悪趣味」という陰口を恐れないバンホーベンの本領発揮で、人間の善悪に揺さぶりをかけてくる。

ミシェルは父親が連続殺人犯で刑務所暮らし、母親は若いツバメに夢中、息子は同棲中ですねかじりという環境ながら、うそをついて暮らすのはやめたと宣言。本能を隠さず性にも奔放な型にハマらない多面的な女性だ。

華奢な60代のユペールだが、知的で妖艶な10歳以上若い役柄を堂々とこなしてオスカーにノミネートされているのも納得のハマリ役。

最後のオチは、真犯人でもなく過去のトラウマでもない。カトリック教会への皮肉を込めた批判だった。