晴れ、ときどき映画三昧

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「セールスマン」(16・イラン/仏 )85点

2018-01-27 13:41:07 | 2016~(平成28~)

・ イランの名匠A・ファンハディによる人間の深層心理に迫るサスペンス




「別離」(11)「ある過去の行方」(14)のアスガー・ファンハディ監督が、テヘランを舞台に小劇団俳優夫婦に起きた事件がもとで二人の日常が狂い始める深層心理を描いたサスペンス。

主演したシャハブ・ホセイニがカンヌで最優秀男優賞、A・ファンハルディが脚本賞を受賞。さらに米アカデミー賞で外国語作品賞を受賞したが、トランプ政権の入国制限令に抗議して授賞式に欠席して話題を呼んだ。

夫婦が出演するA・ミラーの戯曲「セールスマンの死」を開演する前夜、引っ越したばかりの自宅で夫エマッド(S・ホセイニ)が帰宅前に妻ラナ(タラネ・アリシュスティ)が何者かに襲われる。

警察に通報しようとする夫に、妻は事件が表沙汰になるのを恐れ嫌がる。夫婦の感情のズレが徐々に膨らむなか、独自で犯人を捜し始めた夫の行動から思いがけない方向へ・・・。

夫婦が住んでいたアパートが立ち退き騒ぎで始まったドラマは、急速な都市化や高校教師も務める主人公の教科書検定問題などイランの社会情勢も垣間見える。

表現の制限も厳しく、ジャファール・パナヒのように映画製作ができなくなった監督もいる。アメリカの戯曲を上演するのもハードルが高いはずだが、ファルハディはそれを演ずる俳優を主人公にして乗り越えた。

本作は犯人探しのミステリー要素を巧みに生かしながらイスラム社会が抱える性やお金に対する倫理観の違いを描写しながら、人間の不寛容さ、うそ、不誠実さなどで深い傷が生じてしまうことをリアルに伝えてくる。

主人公夫婦やアパートを紹介してくれる友人ババク、アパートの隣人たち、果ては犯人まで、善と悪の境目が微妙なところ。観ていて良かれと思ったことが裏目にでたり、そんなことは考えてもいなかったのにと後で後悔することはよくあることかもしれないと思わせる。

人間描写にすぐれた演出と緻密なプロットのファルハディにこれからも目が離せない。