晴れ、ときどき映画三昧

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「ジャッカルの日」(73・英/仏) 85点

2014-09-25 16:51:27 | 外国映画 1960~79

 ・じわじわと迫る緊張感。サスペンスの真髄を魅せたF・ジンネマン監督。

                    

 ドゴール番報道記者だったフレデリック・フォーサイスの原作を、見事に映像化したフレッド・ジンネマン監督のサスペンス。

 '62.8 アルジェリア民族自決を巡り、ドゴール仏大統領専用車を機関銃乱射したプティ=クラマール事件は、武装秘密軍事組織OASによるものだった。

 以来OASはマークされ一部幹部はオーストリアに潜伏していたが、プロを雇って暗殺することを決める。年齢不詳で狙撃が超一流のイギリス人が選ばれ、報酬50万ドルで雇われる。50万ドルの大金はフランス各地の銀行から奪い取るという大胆なもの。

 コードネームは<ジャッカル>といい、英国人らしい装いと物腰で感情の現れない無機質な殺しのプロだった。カメラは暗殺に向けて用意周到な準備のサマをまるでドキュメンタリーのように追いかけて行く。

 まず図書館で下調べ。ドゴールが唯一群衆の前に姿を現す日を決行日とする。次にパスポートの取得。幼くして亡くなったポール・ダカンの出生証明書を基に偽造パスポートを作成、デンマーク人のパスポートを奪い別人に成り済まし、運転免許証・IDカードを取得する。

 狙撃銃はイタリア・ジェノバへ渡り、軽くて銃身が短くサイレンサー照準銃を発注。スナイパーと違法銃改造のプロ同士のヤリトリが興味深い。

 ここに至るまで、裏社会のプロ同士には暗黙の了解があって臨場感を味わいながら観て行く。併せて、一線を越えたら簡単に抹殺されることも。淡々と進む準備はかなりの説得力を持つ。

 仏大統領側近もただ漫然としていた訳ではない。ローマOAS幹部のボディガードを拉致拷問した際<ジャッカル>の存在を知る。官憲による対策会議が開かれ、内務大臣は警視総監の進言で最も優秀というクロード・ルベル警視に一任する

 ルベルはジャッカルがドミニカ大統領暗殺のチャールズ・カルスロップという英国人の兵器商と睨み、その行方を捜索し始める。足跡を追うたびに後手に回るのは内部情報が漏れていると読み、対策会議出席者全員に盗聴器を仕掛けるなど用意周到さを示す。

 暗殺計画のXデーに向けて小物まで着々と準備をするジャッカルと、それを阻止するために躍起となるルベル警視との同時進行による緊迫感が高まって行くサマはなかなかのもの。

 金髪でアスコットタイとタバコをふかす姿がお似合いで女性に持てるジャッカルと、冴えない風貌の中年警視の対決は、物語が進むにつれて警視が只者ではなく見えてくる。

 ジャッカルは南仏ルートでフランス入りする際ホテルでモンペリエ男爵夫人を誘惑、盗んだアルファロメオで事故を起こし足が付くなど想定外のアクシデントを乗り越え、サウナでデンマーク人に成り済まし男色の男の家に潜り込む強かさ。

 '63.8.25 解放記念日。ジャッカルが決行日と決めたモンパルナス駅前の式典広場には、仏警察による厳重警戒のもとドゴール大統領が群衆の前に姿を現す。

 大統領が銃撃されない史実を承知で観ていながら、これだけの緊張感を持って釘付けにされるのはそれまでの伏線と説得力がなければならない。

 じわじわと嘘と誠を絡ませながらここまで魅せるジンネマン監督の構成力には感服せざるを得ない。BGMを極力抑えて、パリやローロッパ各地のロケがドキュメンタリー・タッチを見事に醸成している。とくに終盤の解放記念日のロケは仏政府公認の実写であることがリアリティさを増している。

 F・ジンネマンは短編と「地上より永遠に」(53)・「わが命つきるとも」(66)でオスカーに輝く名監督だが、赤狩り騒動で作品は意外に少ない。他では「真昼の決闘」(52)、「尼僧物語」(59)など名作があり、いづれもフィクションのなかに登場人物の人間性と本物感を訴えることに注力する監督だ。

 主役を演じたエドワード・フォックスは、大スターではないがこれぞジャッカルと想わせる適役。プロデューサーはロジャー・ムーアを推したが、有名過ぎるのと背が高すぎるという理由で監督は断っている。熱心に売り込んだマイケル・ケインも同様で、173センチのE・フォックスが金的を射落とした。

 ルベル警視のミシェル・ロンズデールも仕事一筋の風貌がぴったり。シャネルがお似合いの男爵夫人役デルフィーヌ・セイリングや、女スパイ役オルガ・ジョルジュ=ピコの綺麗どころが何れもアッサリ殺されるシーンは、残酷さはなく如何にもジンネマンらしい。
 
 もっとも鮮やかだったのは、エピローグ。ルベル警視が犯人だと思ったチャールズ・カルスロップ即ちCHACALとは別人だったジャッカル。最大のミスは、<イギリスにはない風習の退役軍人へ腰を屈めてキスしたドゴール>の行動だった。