晴れ、ときどき映画三昧

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「マリー・アントワネットに別れをつげて」(12・仏) 65点

2014-09-10 17:22:40 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・貴族社会崩壊の裏面史を観る贅沢さを味わう。

                    

 シャンタル・トマの原作「王妃に別れをつげて」をもとに、フランスの大御所ブノワ・ジャコ監督が映画化。

 マリー・アントワネットの朗読係シドニー(レア・セドゥ)から視たバスティーユ陥落後4日間で起きたベルサイユ宮殿での出来事を描いた貴族社会崩壊の裏面史。

 最大の見所は、今まで映画では見ることができなかったベルサイユ宮殿でのロケ。鏡の間、王妃の部屋、中庭、プチトリアノン離宮の入り口など・・・。ベルサイユ好きなヒトには豪華な衣装やメイクとともに時代を再現してくれた臨場感を味わうことができる。

 とくに宮殿内における王侯貴族の絢爛豪華な表舞台だけでなく、王妃の身の回りの世話係、小間使い、厨房の女たち、衛兵、司教、王の記録係、元役者などさまざまな人々の裏舞台の日常が映し出されタイムスリップして宮殿内に入った気分にさせる。

 そこにはベルばらファンにはがっかりなネズミが出没したり、転ぶと泥だらけになったり、虫に刺されると腫れあがったり不衛生な生活を余儀なくされるリアルな暮らし振りも観られる。

 そんな最中バスティーユが陥落し、王妃(ダイアン・クルーガー)やその愛人・ポリニャック夫人(ヴィルジニー・ルドワイアン)の名前が載った286人のギロチンリストが宮殿に出廻り、宮殿は上から下まで不安と混乱でパニック状態に陥る。

 想定外の出来事が起こったときの人間の言動はその人の本性が現れるという。ここでのシドニーは、孤児だった田舎娘が読書係となり、王妃に心酔するあまり忠誠を誓い、何処までも王妃の傍で生死を共にする覚悟でいる。

 王妃は無邪気で気まぐれ、気品と我が儘が同居した掴みどころのない性格で、シドニーを惑わせる。愛するポリニャック夫人のことを褒め称え頭の中が一杯の素振りを見せたり、ルイ16世(グザヴィエ・ボーヴォワ)とともに城を離れ、挽回のチャンスを窺う気丈さを見せたりする。

 王妃がシドニーに見せた気遣いはあくまで王妃と使用人の関係でしかなく、残酷な非常命令となって終盤を迎える。

 この秋(11月)公開予定の「美女と野獣」を始め「アデル、ブルーは熱い色」(13)、「グランド・ブダペスト・ホテル」(14)など話題作が続いているL・セドゥ。素顔はセレブなのに貧しい育ちのヒロイン役を見事にこなしているフランスピカイチの女優。王妃とポリニャック夫人への羨望と嫉妬の眼差しが熱い。

 王妃役のD・クルーガーは監督に猛烈アタックしただけあって、こんな人だっただったろうと想わせるリアルな演技で魅了している。「すべて彼女のために」(08)、「イングロリアス・バスターズ」(09)など印象に残る作品からちょっぴりご無沙汰だったが、健在ぶりを魅せてくれた。

 監督お気に入りのV・ルドワイアンも出番は少ないが豪華な緑のドレスと寝乱れたヌードの対比を魅せ存在感を示している。

 その後の結末は史実で変えようもないので本作では語られていないが、王妃とポリニャック夫人は奇しくも4年後に亡くなっている。本作では架空の人物シドニーを通して、王侯貴族の暮らしと、その生活が保障されなくなったときの慌てた様子をドキュメント風に見せてくれた。

 女性向けの叶わぬ三角関係の心情を描写した作品でもあるが、男の筆者にはB・ジャコの女性趣向と、とても贅沢なフランス革命の裏面史を楽しんだ100分だった。