・映画化のモラルを問う作品。
「不毛地帯」「白い巨塔」など社会派作家・山崎豊子の長編をもとに<映像化されなかった最後の傑作>と言われた本作を、角川が苦難を乗り越え映画化に漕ぎ付け日本アカデミー賞を獲得した。
ナショナル・フラッグと言われる航空会社の軌跡をたどりながら人命に関わる航空機会社の在り方を問う問題作だけに、週刊誌に連載された時点で出版社(新潮社)とモデルとなった航空会社(日本航空)では確執があった。そもそもノンフィクションかフィクションかの境界線が微妙で<限りなくノンフィクションに近いフィクション>という原作に偏りがあったのでは?
その最大の理由は主人公の設定があまりにもヒーロー扱いで描かれていること。渡辺謙扮する恩地元は、正義漢溢れ純粋な企業戦士で若いころは労組の委員長だった。社員や安全フライトのため経営陣との闘争で勝利したが、経営側はあまりにも過激すぎて経営悪化を招くと第2組合を作るキッカケとなり、本人はカラチ・テヘラン・ナイロビと流刑とも言われる支店派遣が続く。10年を経て東京本社の閉職に復帰する折りしも御巣鷹山でジャンボ機墜落事故が発生。救援隊・遺族係へ派遣される。遺族への真摯な対応を評価され信頼を得て大坂の遺族係として赴任。政府は再建を期し人選に当たった結果、関西の紡績会社会長・国見正之を会長として迎えることとする。恩地は会長から会長室・部長として呼び戻され、特命事項を担当し会社の不正を糺すことに奮闘する。
まさにキャッチ・フレーズどおりの、<30年間、企業の不条理に翻弄されても絶対に諦めなかった男>の物語になっている。モデルになった実在人物は小倉貫太郎氏といい02年に亡くなっているが社内では有名人だった。東大法科出身で学生運動の闘士としての経験から、ある企業の労働運動に関わって退社。航空会社へ入社後は労組委員長として鳴らし、要求貫徹の戦術としてタブーと言われる総理フライト(池田首相の訪欧スケジュール)期間中スト決行を掲げたので一躍有名となった。その後アフリカ生活10年を経て東京本社へ戻るが、墜落事故の際遺族係として奮闘努力したのは別の人物だった。御巣鷹山にいち早く駆け付け4年間尽力したのは岡崎彬氏で、遺族相談室・世話役は岩田正次氏である。不正取引の調査をした事実はないようだ。ナイロビでの王侯貴族のような生活に未練があって転任願いしたとも聞く。
これではドラマとして成り立たないので、企業戦士の<イイトコ取り>をして恩地というヒーローが登場したのだ。
三浦友一が演じた友人でライバルの行天は架空の人物だが、複数の実在モデルがいる。西村雅彦が扮した八馬取締役、柴俊夫演じる労務担当役員で後の社長・堂本は実在する。彼らの<謂れのない悪行は払拭されないまま、事実として残ってしまう>。渡辺いっけい扮する運輸省課長は、原作者に直談判しようとしたが居留守を使われたとのこと。
もうひとり石坂浩二が扮した国見会長は鐘紡の伊藤会長のことで、あまりにもキレイごと過ぎると言わざるを得ない。長年に亘る労使関係の歪み、政治家・官僚との癒着、不採算路線の圧しつけ排除ができないこと、長期の為替予約で厖大な差損を抱えたこと、子会社のホテル投資失敗など経営陣のミスによって、この後経営悪化した事実は免れようもない。この点に深く切り込んだドラマなら大拍手を送れたに違いない。
大熱演した渡辺謙には惜しみない拍手を送りたいが、事実ではないヒーロー恩地元を美化した本作はかつてのNHK人気番組「プロジェクトX」の拡大スペシャル版を連想してしまった。
若松節朗監督を始め20回以上シナリオを書き直した西岡琢也、航空会社から協力を得られなかったスタッフなどの苦労が目に浮かぶが、フィルムは後世にも残っていく。エンディングでこの物語はフィクションであるというクレジットでは済まされない映画化のモラルというものがある。主人公が会社を止めない理由に<人間としての矜持を示したかった>と言うように。
「不毛地帯」「白い巨塔」など社会派作家・山崎豊子の長編をもとに<映像化されなかった最後の傑作>と言われた本作を、角川が苦難を乗り越え映画化に漕ぎ付け日本アカデミー賞を獲得した。
ナショナル・フラッグと言われる航空会社の軌跡をたどりながら人命に関わる航空機会社の在り方を問う問題作だけに、週刊誌に連載された時点で出版社(新潮社)とモデルとなった航空会社(日本航空)では確執があった。そもそもノンフィクションかフィクションかの境界線が微妙で<限りなくノンフィクションに近いフィクション>という原作に偏りがあったのでは?
その最大の理由は主人公の設定があまりにもヒーロー扱いで描かれていること。渡辺謙扮する恩地元は、正義漢溢れ純粋な企業戦士で若いころは労組の委員長だった。社員や安全フライトのため経営陣との闘争で勝利したが、経営側はあまりにも過激すぎて経営悪化を招くと第2組合を作るキッカケとなり、本人はカラチ・テヘラン・ナイロビと流刑とも言われる支店派遣が続く。10年を経て東京本社の閉職に復帰する折りしも御巣鷹山でジャンボ機墜落事故が発生。救援隊・遺族係へ派遣される。遺族への真摯な対応を評価され信頼を得て大坂の遺族係として赴任。政府は再建を期し人選に当たった結果、関西の紡績会社会長・国見正之を会長として迎えることとする。恩地は会長から会長室・部長として呼び戻され、特命事項を担当し会社の不正を糺すことに奮闘する。
まさにキャッチ・フレーズどおりの、<30年間、企業の不条理に翻弄されても絶対に諦めなかった男>の物語になっている。モデルになった実在人物は小倉貫太郎氏といい02年に亡くなっているが社内では有名人だった。東大法科出身で学生運動の闘士としての経験から、ある企業の労働運動に関わって退社。航空会社へ入社後は労組委員長として鳴らし、要求貫徹の戦術としてタブーと言われる総理フライト(池田首相の訪欧スケジュール)期間中スト決行を掲げたので一躍有名となった。その後アフリカ生活10年を経て東京本社へ戻るが、墜落事故の際遺族係として奮闘努力したのは別の人物だった。御巣鷹山にいち早く駆け付け4年間尽力したのは岡崎彬氏で、遺族相談室・世話役は岩田正次氏である。不正取引の調査をした事実はないようだ。ナイロビでの王侯貴族のような生活に未練があって転任願いしたとも聞く。
これではドラマとして成り立たないので、企業戦士の<イイトコ取り>をして恩地というヒーローが登場したのだ。
三浦友一が演じた友人でライバルの行天は架空の人物だが、複数の実在モデルがいる。西村雅彦が扮した八馬取締役、柴俊夫演じる労務担当役員で後の社長・堂本は実在する。彼らの<謂れのない悪行は払拭されないまま、事実として残ってしまう>。渡辺いっけい扮する運輸省課長は、原作者に直談判しようとしたが居留守を使われたとのこと。
もうひとり石坂浩二が扮した国見会長は鐘紡の伊藤会長のことで、あまりにもキレイごと過ぎると言わざるを得ない。長年に亘る労使関係の歪み、政治家・官僚との癒着、不採算路線の圧しつけ排除ができないこと、長期の為替予約で厖大な差損を抱えたこと、子会社のホテル投資失敗など経営陣のミスによって、この後経営悪化した事実は免れようもない。この点に深く切り込んだドラマなら大拍手を送れたに違いない。
大熱演した渡辺謙には惜しみない拍手を送りたいが、事実ではないヒーロー恩地元を美化した本作はかつてのNHK人気番組「プロジェクトX」の拡大スペシャル版を連想してしまった。
若松節朗監督を始め20回以上シナリオを書き直した西岡琢也、航空会社から協力を得られなかったスタッフなどの苦労が目に浮かぶが、フィルムは後世にも残っていく。エンディングでこの物語はフィクションであるというクレジットでは済まされない映画化のモラルというものがある。主人公が会社を止めない理由に<人間としての矜持を示したかった>と言うように。