晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『ウィンターズ・ボーン』 80点

2011-11-06 13:14:16 | (米国) 2010~15

ウィンターズ・ボーン

2010年/アメリカ

サンダンス・グランプリは「女性への応援歌」

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

インディペンデント作品の映画祭・サンダンスで昨年グランプリを獲得した本作は「フローズン・リバー」(08)「プレシャス」(09)に続いて<現代の米社会から見放されたような貧困地区で前向きに生きるヒロイン>を描いている。
舞台は中西部ミズーリ州オザーク高原の荒涼とした寒村。17歳の少女が家族と住まいを守ろうと行方不明の父親を捜すため大人の世界へ踏み入れ奔走するストーリー。監督・脚本はデブラ・グラニクで女性らしくきめ細やかな映像やキャスティングはとてもリアル。深刻な内容にもかかわらず終盤までは淡々と進む展開はまるでドキュメンタリーのよう。村はアイルランド系移民が多く開拓時代から孤立した土地で、貧困や麻薬問題が根深いことを教えてくれる。
少女リーの環境は母親が心の病で幼い弟妹を抱え毎日を必死に生きるしかない。日々の食べ物にも不自由で隣人から差し入れをもらったり、リスを捌いて内臓も食べることを弟に教えたりする。同時に「食べ物を貰ってもいいが、物乞いをしてはいけない」と母親のように諭す凛とした姿には静かな感動を覚える。演じたジェニファー・ローレンスは「あの日、欲望の大地で」で、主役のシャーリーズ・セロンを喰うほど印象深い演技が記憶に残る新進女優。ここでは卑屈にならず困難に挑む不屈の精神を持ったヒロインを演じオスカー候補に上がった。一度も笑顔を見せず行動力ある必死な少女の姿が女性たちに共感を得たようだ。
彼女を見守る周りには親友・ゲイルや隣人ソーニャのような心優しい女性がいるが、男たちは掟を守ることで生きてきたせいか深く立ち入ろうとしない。土壇場になって唯一救いの手を差し伸べたのは伯父のティア・ドロップ(ジョン・ホークス)。麻薬中毒で最初はリーに関わるなと警告しながら、掟を破ってリーを闇社会の長老から救い出す。本当は心優しい男なのだ。J・ホークが老け役ながらいい味を出している。
終盤は想いもよらぬ展開を見せ決してハッピー・エンドとはいえない結末。伝統や独立心を重んじたヒルビリーと呼ばれた<山の民>は、その独特の音楽がうらびれた寒村に哀しく流れ、アメリカの貧困の深刻さを一層漂わせる。リーのような少女が笑顔を見せてくれることを祈ってやまない。