夫婦善哉
1955年/日本
浪花の下町情緒たっぷりな豊田・森繁・淡島トリオ
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 80点
織田作之助の短編小説、昭和初期・大阪を舞台にした人情物語を名匠・豊田四郎が監督、八住利雄が脚色。文芸ものを得意としていた豊田がスランプ脱出、主演の森繁久彌、淡島千景が名コンビといわれるキッカケとなった作品。
船場の化粧品問屋のボンボン柳吉(森繁久彌)は根っからの甲斐性なし。17歳で自分から新地の芸者となってしっかりものの蝶子(淡島千景)に通ううち抜き差しならない仲に。妻子がありながら放蕩を続けるうち勘当されてしまう。
大阪弁が得意な森繁はだらしないダメ男ながら、お人好しでどこか可愛げのある若旦那像を殆ど地ではないかと思わせる好演ぶり。対する淡島は言葉に苦労したそうだが、気風があって気の好いオンナを体全体で表わし、新境地を拓いて代表作となった。
浪花情緒たっぷりな映像は法善寺界隈を再現した伊藤喜朔のセットによるところが大きい。俯瞰のカメラが浪花の街並みを見事に映してそこで暮らす人々を見守るようだ。また、柳吉が食道楽で自由軒のライスカレーと法善寺横丁のぜんざいは2人の逢い引きの場所で今も健在。昆布煮や関東煮(おでん)などB級グルメがふんだんに登場するのも浪花の文化である。
そして脇役の味わい。浪花千栄子と若宮忠三郎、田村楽太と三好栄子の夫婦は演技とは思えないほどの臨場感。お店の潔癖症の婿養子・山茶花究やズル賢い番頭・田中春男は見事な敵役の雰囲気を醸し出してくれるし、柳吉の妹司葉子の美しさも見逃せない。
この時代の都会は貧しいなか、ひたむきに暮らす庶民が圧倒的に多かった。船場の商家は恵まれた大富豪だけに、甲斐性のない若旦那は蝶子のような母性愛あふれる女に守られ生きるしかないのだろう。2人のささやかな幸せに法善寺は良く似合う。