アガサ 愛の失踪事件
1979年/アメリカ
事実にもとづく大胆な推理ドラマ
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 90点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 85点
ミステリーの女王、アガサ・クリスティが’26に起こした11日間の失踪事件をもとに、英国ジャーナリストのキャサリン・タイナンが大胆な推理によってリアリティ溢れる人間ドラマに仕立てた。
夫(ティモシー・ダルトン)の誕生祝いにメッセージつきのカップを贈ったアガサ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、愛情が離れていることを実感。「アクロイド殺人事件」の出版記念の昼食会でのスピーチは内気で繊細な彼女らしく「サンキュー・べリマッチ」だけ。取材にきていたロンドンの新聞コラムニスト・スタントン(ダスティ・ホフマン)は彼女に大いに興味を持つ。翌日夫と秘書に手紙を残し、車で旅に出たアガサが行方不明となり、車だけが発見され5000人の捜索隊が探したり新聞社が情報提供者に懸賞を出したり大騒ぎとなる。
長身でシャイなアガサ役のV・レッドグレイヴが帽子を目深に被った表情は、写真に残っている実際のアガサにそっくり。その手足の長さに優雅さが漂う。対するD・ホフマンは小柄で2人のキス・シーンやダンスなど一歩間違えると滑稽そのものだが、とても気品があって情感が溢れ出ている。敵役の夫・アーチー役のティモシー・ダントンは2枚目で威厳があって、一途にすがるアガサを持て余す軍人の雰囲気がぴったり。
監督は、この作品がデビュー作のマイケル・アプテットで充実したスタッフを使い切れていないきらいはあるが、演出力の確かさは感じられる。
何よりヴィットリオ・ストラーロのカメラワークが秀逸で、ファースト・シーンからその映像の素晴らしさを満喫。さすが光の魔術師といわれただけのことはある。衣装・セットも20年代の英国はこんなだっただろうと思わせる。とくにハイドロ・ホテルの雰囲気が、このドラマのリアルさをより一層、感じさせてくれる。
残念なのは、アガサの取った言動とそれを追ったスタントンの行動があまりにも出来過ぎなこと。
ラスト・シーンといい文句なく一級品だっただけに惜しい気がしてならない。これはシナリオも参画したC・タイナンの原作によるものだけに、如何ともし難いことかも。