あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

『芸予ブルー』_テーマカラー of 印象派_”瀬戸内シーカヤック日記”

瀬戸内シーカヤック日記: 森本孝さん、『宮本常一と瀬戸内沿岸の写真』

2010年08月29日 | 旅するシーカヤック
2010年8月29日(日) 今日は、三原市本郷で行われる『瀬戸内巡回展_宮本常一がみた芸予の海とその暮らし』の一環として行われる、森本孝さんの講演会『宮本常一と瀬戸内沿岸の写真』の聴講の日。

少し早めに会場に到着したので、少し離れた昔のメインストリートをしばし散策してみる。
もう9月になろうと言うのに、今日も朝から”もわっ”とした蒸し暑い空気が体にまとわりつき、少し歩くだけで汗が噴き出してきた。
 
興味を引かれたのは、『恵美須神社』 なんだかとても良い雰囲気である。
 
鳥居には、これまで見た事のない『向かい合わせになった二匹の鯛』が彫られている。 また狛犬は、左右それぞれが子供の狛犬とセットになっており、これまた珍しい。

うん、これはなかなか良い一日のスタートじゃないか!
***

10時前に写真展示を見て回り、今日の講演会場へ。 すると、森本さんが準備をされていた。
『こんにちは。 ご無沙汰してます。 今日は聴きに伺いました』 再会の挨拶をさせていただき、『旅する櫂伝馬』が無事に航海できた事を報告する。
時折私のブログも見ていただいているとの事。 うれしいなあ。

***

10時。 講演が始まった。 最初は、森本さんが観文研にかかわる事になったいきさつから。

立命館大学で探検部だった森本さんが、ある方の紹介で宮本常一と観文研を知り、東京に出た時に秋葉原から電話をすると、近いから寄りなさいと言われ、行ってみると所長の宮本常一が居り、そのニコニコと笑う笑顔がとても印象的だったそうだ。

当時、山が好きで山小屋の管理人にでもなろうと思っていたという森本さん。 宮本常一から『アルバイト代くらいなら出せるから』と言われて、観文研に関わることになったのだとか。

***

その後出て来た名前に驚いた。 それは、『高野悦子』
大学生の時に読んだ覚えがある『二十歳の原点』 その本を当時住んでいた寮で読み終わった日が、偶然にも彼女が自殺した日と一致していたため、とても印象深く覚えている。 まさか、宮本常一の講演会で、高野悦子の名前が出るとは。。。

森本さんによると、立命館大学に入り、探検部の部室を訪ねて来た高野悦子さんを見たのだとか。 結局、探検部には入らず、ワンダーフォーゲル部に入ったそうだが、実は彼女が立命館に入る切っ掛けをつくったのが『宮本常一』

通っていた高校で、創立91周年の記念講演があり、そこに宮本常一がやってきた。 その中で宮本常一は、『古いものが新しい』と話し、それが彼女の心に残って歴史の道を選んだのだ。 そして歴史を勉強するなら、長い歴史のある京都でということで、立命館を選んだとのこと。

森本さんが本の一部を引用されたが、『二十歳の原点ノート』に、宮本常一の講演を聞いた事が記されていた。

高野悦子の進路を後押しした宮本常一。 そして森本さんが観文研に入り、フィールドワークの道に進む事を後押ししたのも宮本常一。 そして、森本さんと高野悦子さんとの偶然の出会い。
森本さんは、『人の縁とは不思議なものである』と語られたが、まさに、こんな不思議な縁を誰が知っていたであろうか?

そしてかく言う私も、シーカヤック仲間から教えられた宮本常一が縁で、『あるくみるきく_旅するシーカヤック』がライフワークとなり、とあるブログが切っ掛けで森本さんとの縁ができ、そしてこの会場に座っているのである。

***

その後も、民俗学者として一括りにできない宮本常一という人について、そして観文研についてのお話が続く。

あるとき、東北地方を巡る長い旅から帰ってきたら、宮本常一が ”最近はどうかね?” と聞いて来たそうだ。 森本さんは、『ええ、貧乏で困ってます』
すると宮本は、『ビンボーはええじゃろ。 ビンボーじゃないと、貧乏人の気持ちは分からんからなあ』と笑っていたそうだ。 これには森本さんも笑って返すしかなかったそうである。

でも今日は、『たまには金持ちの気持ちも分かってみたい』と会場の笑いを誘っていた。 いやあ、ほんと、その通りだ。 たまには金持ちの気持ちも知りたいな!

***



『人も地方も自信を持つ事が大事。 名もなき庶民の素晴らしさを見つけ出し、光をあてる』

『宮本の写真は、庶民の生活の絵巻物』

『誤解している人もいるが、宮本は弟子を持たなかった。 彼が持っていたのは仲間である』

『観文研は、同じ志を持った人が集まる場であり、同じ志を持った人たちがつながった場である』

『宮本常一は、観文研の研究員に対して、毎月一回講義を行っていた。 これを通じて、モノを見る力と視点を教えられ、研究員の育成にもなっていた。 この講義が、宮本常一が仲間を育成していくやりかたである。 そしてこの講義を受けてモノの見方を学んだ事が、観文研出身の研究者と、大学だけで学んだ研究者との最大の違い』

森本さんは、宮本常一が観文研で実際に行った『三味線』に関する講義の録音テープを持参しておられ、会場で10分程度流された。
貴重な宮本の肉声講義。 しばし、しんと静まった会場で聞き入る。

***

『宮本常一は、古い文化を復興させ、それを地域の将来につなげていくことを考えていた』 うん、これぞまさに、私が瀬戸内カヤック横断隊から学んだ、『瀬戸内海洋文化の復興、創造そして継承』そのものじゃないか!

講演後、偶然にも大崎上島出身で『旅する櫂伝馬』も応援して下さっていた方から声を掛けていただくなど、ここでも『人の縁の不思議』を実感。
最後に、森本さんに挨拶をして会場を後にした。

興味深く、かつ貴重なお話をいろいろと聞くことができ、とても有意義な講演会だったなあ。 そして特に私は、森本さんが言っておられた、『ぜひ皆さんも、瀬戸内の島々や農村へ出掛け、写真を撮り、人々の話を聞き、記録に残していきましょう』、の言葉に元気をいただいた。

この週末は、夏のシーカヤック教室&森本孝さん講演会。 8月最後も、またまた良い週末であった!

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瀬戸内シーカヤック日記: 今年最後のシーカヤック教室&おでんの『あわもり』で静かに打ち上げ

2010年08月28日 | 旅するシーカヤック
2010年8月28日(土) 8月最後の週末となるこの土曜日は、今年3年目となる地元の島でのシーカヤック教室の、本年度の最終回である。
 
今年は天候に恵まれ、4回とも絶好のシーカヤック日和。 さあて、今日も安全第一で楽しもう!
***
お昼ご飯を一緒に食べさせていただいた後、しばし休憩してシーカヤック教室の準備に取りかかる。
『すみません。 今日は他のクラブ活動とも重なってて、参加する子供は3人なんです』 先生は申し訳なさそうに言われるが、私はまったく構わない。 人数や経験、天候に応じて、その場でどんなプランにするかを考えるのも楽しみの一つである。
***
みんなで手分けしてカヤックと道具を運び、準備運動をしてシーカヤック教室のスタートだ!
今日は小学生のみ、男の子1人と女の子2人。 そして先生が2人である。 先生一人には陸上からのサポートをお願いし、みんなでカヤックに乗り込んだ。

ようし。 じゃあ、今日も漕いでみようか』 何度か漕いだ経験者ばかりなので、もうみんな手慣れたもの。 漕ぎ方をチェックして、時々アドバイスをしながら、港の中をいろいろと漕いでみる。
『そうそう、もうすこし広く、肩幅くらいで持った方がいいよ』 『その場で回る練習をしてみよう。 右は前から後ろ、左は後ろから前。 いやあ、上手いじゃない』 『うん、漕ぐ時はあまり後ろにもたれないで、体を起こして。 そう、そしてしっかり前から後ろまでパドルを入れて』
***
『ちょっと集まろうか。 このロープを見て。 これは、なにかあった時に他のカヌーを引っ張るロープ』 『例えばだれかが疲れて漕げなくなったり、怪我したりした時には、このロープで引っ張るんだよ』

せっかくなので、先生にトーイングを経験してもらうことにした。 『ようし、じゃあ先生に引っ張ってもらおうか!』

最初はシングル艇を、そして次にはタンデム艇のトーイングを体感していただいた。

その後、水が入った状態のカヌーの不安定さや、ビルジポンプを使った排水の大変さも体験していただいた。 『これは大変ですね』 『そうでしょう! だから、装備や経験が大事なんですよ』 参加者が少ない時は、先生方に様々な経験をしていただく良いチャンス。

今年最終回のシーカヤック教室で、先生に様々な体験をしていただくことができて良かった。
***
30分位漕いでは休憩し、水分を補給する。 2度目の休憩の後、一人の小さな女の子が、『一人乗りのカヌーに乗ってみたい』
タンデム艇の前を漕いでいたその子は、ちゃんとパドルも扱え、しっかりと漕げていたので、『ようし、じゃあせっかくだから乗ってみようか』

漕ぎ出してみると、全然問題なく漕いでいる。 曲がりそうになると反対側にブレーキを入れるし、手漕ぎではなくしっかり押し手も効いている。 『うーん、上手い上手い。 すごいねえ』

『そこを曲がって、あの奥まで行ってみようか』 みんなで漕ぎ進み、私は最後尾でその女の子を見守る。

『どう、楽しい?』 するとニコニコと最高の笑顔で、『うん、たのしい』と返ってくる。 『ほんと、上手いよ。 でも疲れたらいいんさいよ』 『うん』
港の奥まで漕ぎ進み、Uターン。
『すごいね。 一人で漕いでこれたじゃん。 夏休みの冒険だねえ』 すると、またニコニコとうれしい笑顔。

『みんな、漕ぐのをやめて、空を見てごらん。 青い空に、いろんな雲がきれいだね。 あっちには飛行機雲もあるよ。 気持ちいいねえ』 するとみんな、漕ぐ手を止めて空を見上げている。 こんな時間も、海を漕ぐ事の楽しみの一つなんだよ。 みんなに知っておいて欲しいんだ。

***
そこからは、少し向い風もあり、重いパドルで疲れた様子。 『疲れた? じゃあ、あそこまで引っ張ってあげるから心配ないよ。 さっきやってみたよね』と笑いながら言うと、安心したように『うん』

カラビナをセットし、ほんの少しの距離だがトーイング。 防波堤を回ると風もないので、そこから再び一人漕ぎ。 『さあ、もうあそこまでだよ。 よく頑張ったねえ。 えらいなあ!!!』

ほんと、体で覚えていく子供達はあっと言う間に上達してしまう。 そして、積極的に次のステップにチャレンジしていく子供達をみていると、たのもしい限り。
シーカヤック教室をやっていて、こんなに嬉しいことはない。
***
『さあ、そろそろ上がろうか。 みんなで手分けして道具とカヤックを運ぼうや』
カヤックを運び、潮抜きして、シャワーを浴びると今年最後のシーカヤック教室はお開き。 お茶をいただきながら、先生方と来年のシーカヤック教室の構想について意見を交わす。 『また来年、もしよかったら声を掛けて下さい』

今年3年目となった、地元の島でのシーカヤック教室。 できることなら、子供達や先生方にも喜んでいただけるような形で継続し、10年は続けたいものである。

それにしても、今年も子供達の笑顔にはたくさんの元気をもらったなあ。 みんな、参加してくれて、ほんとうにありがとう!
***
家に帰り、荷物を降ろすと、バスに乗って広へ。 今年最後のシーカヤック教室が無事に終わったので、『おでんの”あわもり”』で一人打ち上げである。

引き戸をガラリと開け、のれんを潜ると『あー、いらっしゃい』と、いつものおばちゃんの声。 カウンターには、常連さんの顔も。

『こんにちは。 ビール、キリンの大瓶で。 あと、カワください』
 
『あら、また焼けたんじゃない』 『ええ、今日は昼から子供達のシーカヤック教室をやっとったんです。 今回がこの夏最終回じゃったから、今日は一人で打ち上げです』
***
マイ箸を取り出し、ゆるく溶かれたカラシを皿に取り、醤油をタラリ、七味をパラリ。
まずは瓶ビールをコップに『トク、トク、トクトクトク』 『いただきます』 『ゴク、ゴク、ゴクリ』 『プハーッ。 美味い』

次は、プニュプニュとした独特の食感のカワを『パクリ』 そしてビールを『グビリ』 いやあ、生きてて良かった!
 
『タマネギ、お願いします』 『たまご、もらえますか』 『泡盛。 氷水と一緒に下さい』
いつものように常連さん達とバカ話を交わしながら、ビールを飲み、おでんを食べ、泡盛を飲む。 最高の打ち上げだ。

事故もなく無事に終わった2010年夏のシーカヤック教室。 これにてお開き!
さあて、来年も頑張るぞ!!!

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瀬戸内シーカヤック日記: 夏のシーカヤック教室(3)

2010年08月22日 | 旅するシーカヤック
2010年8月22日(日) 今週は、盆連休の影響で日曜日だけが休日の週末。 仕事が忙しく、昨日までは早朝から夜遅くまで仕事だったので、実はヘトヘトである。
だが今日は、楽しみにしている子供達とのシーカヤック教室の日。 ようし、今日も楽しもう!!!
***
今年は午後からシーカヤック教室を行っていたのだが、前回は干潮と重なり、シーカヤックへの乗り降りも大変な状況だったので、今回は潮を確認し、午前中に変更してもらったのだ。

朝9時前、シーカヤック教室を開始。 今回も、6人の子供達と4人の先生方が参加していただけた。 うれしいな。
みんなで手分けしてカヤックと道具を運び、準備運動をして教室をスタート。

今回初めての女の子も居るが、まずは、前に漕いだ事のある女の子とペアでタンデム艇なので安心だ。

いつものようにPFDのサイズと着用状況を確認し、先生方は二人ずつ交代で海上班と陸上班で役割分担していただいた。

まずは先生の乗ったカヤックを沖に出し、子供達が順次漕ぎ出していくカヤックの安全確認をお願いする。
その後は、カヤックを順次海に浮かべ、子供達を乗り込ませて順番に沖へと送り出す。
***
『あー、なんだかフラフラする。 大丈夫かなあ?』 『大丈夫、大丈夫。 このカヤックは安定してるからね』

『うーん、ちょっとそのカヤックは君には大きいかな。 次の休憩で別のカヤックと交代しようか』 『先生、せっかくだから、あの先まで行ってみましょうか! みんな、先生に着いていって』
 
今年で3年目、そして今年3回目となるシーカヤック教室。 今年は毎回参加してくれる子供達もいて、どんどん漕ぐのが上手くなる。
『うん、上手いじゃん! そうそう、それでいいよ』 『そう、漕ぐ時はもう少し広く、肩幅くらいで持った方が漕ぎやすいよ』 『そうそう、曲がりはじめたら反対側にブレーキを入れて』
***
『先生! そっちに曲がったら、反対側にブレーキですよ』と言っても、今回初めて漕ぐ研修生の先生は、なかなか上手く進めない。 『先生、右は前から後ろ。 左は後ろから前。 そう漕ぐと、その場で回れるから』
だが先生は、頭の中がパニクっている状態。 『えー、あれー、えー』

でもそれはそれで分かるなあ。 カヤックの漕ぎ方って、頭ではなく、体で覚えるもの。

それでも次の防波堤に向かっていった先生をからかって、『先生、右は箸を持つ方の手ですよ。 その右は後ろから前。 左は前から後ろ!!!』 『えー、ひえー』 『そうそう、これは体で覚えるんだからねえ』
 
30分漕いでは休憩し、水分を補給してカヤックを乗り換えて再び漕ぐ。 これを何度か繰り返し、昼前に今日のシーカヤック教室は事故も無く無事終了。
***
毎回、子供達が漕ぐのが上手くなり、参加してくれる子供達が楽しそうに参加してくれるのが、なによりの喜び。 秋には、先生方とのちょっとだけ島渡りも企画し、先生方も楽しみにしていただいている。 いろいろと夢は広がるなあ!

『さあ、今年のシーカヤック教室もあと一回だ。 頑張るぞ!』

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瀬戸内シーカヤック日記: 島根半島&しまなみ海道_3泊4日、日本海&瀬戸内海はしご旅(2)

2010年08月13日 | 旅するシーカヤック
2010年8月10日(火) 朝のお散歩ツーリングを楽しみ、浜に上がると、ポツリポツリと雨粒が落ちはじめた。 シーカヤックを水洗いし、道具を片付け、シャワーを浴びて着替えると、準備完了。 さあ、今日はどこ行こう?
***
天気予報を確認すると、瀬戸内側では明日も場所によっては天気の崩れは小さく、風も弱い様子。 台風の進路も日本海側だし、南下して瀬戸内側に行く事にしようか。

iphone_3GSを取り出し、高速道路の無料化社会実験区間を確認。 ようし、このまま米子まで高速道路を走り、中国山地までは一般道、そこから先は、再び無料化社会実験の区間を通る事にするか。
***
日本海に沿って東進し、米子からは一般道を南下する山道をひた走る。 快適なドライブコース。
途中で、生名のキャンプ場に電話。 管理人さんは不在であったが、『すみません。 キャンプ場の、明日の予約状況を確認したいんですが。 もし誰もいないようだったら予約したいんです』と訪ねてみた。 すると、『確認して折り返し電話します』との事。

しばらく待っていると、管理人さんから電話が。 『明後日からは予約が入ってますが、明日はちょうど誰もいませんよ。 来て下さい』との事。
『じゃあ、よろしくお願いします。 いつものように、午前中には入ります』

これで、明日の予定は決まった。 明日、しまなみ海道に行くとすると、この時期、3日連続のキャンプはキツい。 今日は福山か岡山あたりの宿で一泊するかな。
再びiphone_3GSを取り出し、ネットで安い宿を検索する。 すると岡山に、朝食&駐車場混みで一泊5000円のビジネスホテルを発見。 『おー、これは安いじゃん。 ここにしよう』 さっそく予約をして、これで今日明日の予定が確定。

そう、旅は風の吹くまま気の向くまま。 フラリと出掛け、フワリと風に流され、気分次第で西へ東へ南へ北へ、というのが私の好み。
***
中国山地の山の中を走っていると、『真賀温泉』というのを発見。 近くの湯原温泉には何度も行ったことがあるが、ここは初めて。
直感だが、なんだか良さげな匂いがする。 昨日も今朝もシャワーだけなので、汗を流すにもちょうど良い。 せっかくだから入ってみようか。

駐車場にクルマを停め、狭い階段を上がっていくと、そこが公衆浴場。
入口に券売機があるのだが、普通のお風呂と、幕湯というのがある。 普通のお風呂は150円と激安。 幕湯も250円なので高くはないが、この100円の差は何なのだろうか?
『すみません、幕湯ってなんですか?』と受付のおじさんに聞いてみると、『幕湯は源泉よ』との事。 ここは、せっかくなので幕湯にしよう。

中は、4-5人でいっぱいになるくらいの狭いお風呂。 深さはたっぷりで、立って入ると胸くらいまである。 体を流してさっそくお湯に浸かると、その当たりの柔らかさがすぐに分かった。 『ああ、これは良い湯だなあ』

先客は、岡山の方と神戸の方。 お二人とも気さくな方で、すぐに打ち解け温泉談義。 神戸の方は、知り合いの観光バスの運転手さんから、ここの温泉を奨められて初めて来てみたとの事。 また岡山の方は、家の近くにも温泉はあるが、ここの湯が好いので、こちらに通っておられるそうだ。

うーん、やっぱりこの温泉に入って正解だった。

15分ほど浸かり、しばらく休憩してから再び10分浸かる。 『じゃあ、お先に失礼します』と脱衣所へ。 服を着ようとするが、なかなか汗が止まらない。
お湯の温度は決して高いわけではないのだが、体が芯から温まり、次から次へと汗が噴き出してくる。 いやあ、やっぱり良いお湯だ。

***

2010年8月11日(水) ビジネスホテルでグッスリと眠り、心地良い目覚め。 シャワーを浴び、朝7時からの朝食をいただく。 食後は無料サービスのコーヒーを飲んで、脳も目覚めた。

チェックアウトするとき、フロントのおばちゃんが、『今日も海ですか?』 そう、昨日到着したとき、クルマを停めるのに誘導していただき、シーカヤックがカートップされているのを見ておられたのだ。 『ええ、今日はしまなみ海道の方に行きます。 海を漕いでキャンプ場へ』 『台風が日本海の方に来ているようなので、気をつけて下さいね』 『はい、ありがとうございます』

***

途中、因島のスーパーで買い出しを済ませ、10時半過ぎにキャンプ場に到着。

受付を済ませ、『じゃあ、ちょっとだけ漕いできます。 今回はのんびりしたいんで、少し漕いだらあとはゆっくりの予定です。 いつものように因島に買い出しにも行きませんし、キャンプ場から出ないつもりです』

空は曇りだが、お散歩ツーリングには暑すぎずちょうど良い。 安全装備とお茶、シュノーケルセットだけ積み込んで出発した。
 
目の前の島に渡り、裏側の浜にシーカヤックを揚げる。 水中眼鏡とフィンを着け、海へ。
誰もいない静かな湾で、しばしのシュノーケリング。 やっぱり水中の景色は、日本海とはぜんぜん違うなあ。

再びカヤックに乗り込み、造船所の向こうにある小さな島へ。 この島をグルリと回って帰路へ。 今日も1時間ほどのお散歩ツーリング。
 
***
キャンプ場に戻り、シーカヤックを水洗いし、道具の潮抜きをしてロープに干す。 シャワーを浴びて着替えると、少し遅めのお昼ご飯。

さあて、なに食べよう? と考えていると、差し入れのお好み焼きが届いた。 『ありがとうございます。 今からちょうどお昼ご飯だったんですよ。 じゃあ、遠慮なくいただきます』

お話を伺ってちょっと面白かったのは、お好み焼きの注文の仕方。 広島市内や呉では『お好み焼き。 肉玉そばで』って注文するのだが、こちらではお好み焼きというと、肉と玉子は基本的にセットになっているとの事。 だからお好み焼きを注文すると、『うどん、それともそば』って聞かれるらしい。
ちょっとした食文化の違いではあるのだが、わたしにはとても興味深いお話であった。

良く冷やしたビールをグビリと飲り、温かいお好み焼きをパクリ。 うーん、美味い! これぞ夏の正しいキャンプって感じ。

『ごちそうさまでした。 おいしかったです。 今日はのんびりなんで、これから昼寝します』 日陰に転がり、iPodで音楽を聴いていると、いつの間にやら寝入っていた。 久し振りのお昼寝タイムは、至福の一時。
 
昼寝から起きるとシャワーを浴び、体を目覚めさせる。 夕食までの時間は、本を読んだり、落語を聞いたり、まさにのんびりまったり、のんべんだらりと過ごす。
これぞ夏休み。

夜は、台風の影響で少し雨が降ったが、涼しい風もあり、誰もいないキャンプ場で快適に過ごすことができた。 翌朝、『お世話になりました。 ほんと、今回は何もせず、ビールを飲んで昼寝して、本を読んで音楽を聴いて、のんびり過ごす事ができました』

今年、33~35漕目となった今回の日本海&瀬戸内海はしごツーリング。 それにしても早く秋が来ないかな。 快適なキャンプツーリングの季節が、そして人の居ない静かな浜が待ち遠しい。

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瀬戸内シーカヤック日記: 島根半島&しまなみ海道_3泊4日、日本海&瀬戸内海はしご旅(1)

2010年08月12日 | 旅するシーカヤック
2010年8月9日(月) 連休3日目となる月曜日の朝。 ニヤックを積んだアテンザワゴンは北へ向かう。 今朝の天気予報によると、島根では今日明日とも、沖縄や九州辺りに居る台風の影響はほとんどなく、波も0.5mと良さそうな感じ。

『じゃあ、行ってくる。 今日は猪目にキャンプじゃけど、いつものように明日以降の予定は未定。 11日に帰るかもしれんし、12日か13日になるかもしれん』 『了解。 気をつけていってらっしゃい』

今回は、ここ数年、毎年夏休み恒例となった、島根半島_猪目海岸キャンプツーリングである。
***
ここ数年で何度も通った猪目海岸。 まだ早いので、海水浴客は誰もいない。
まずテントを張り、寝床を確保すると、シーカヤックを浜に下ろす。 その頃には、最初の一組がやって来て、浜にタープを張りはじめた。
今朝は少し東寄りの風はあるが、漕ぎ出すのに問題はなさそうだ。
 
小さな湾を出ると、右手には多くの風力発電施設が並ぶウインドファームが見えてくる。 プロペラを見るとしっかり回っており、東寄りの風がそこそこ吹いている事がよくわかる。
 
海は、日本海らしい透明で深い青。 まずは右手の岸沿いを漕ぎ進み、途中でUターンして、猪目の隣にある漁港へも、少しだけ足を延ばしてみる。
***
今日の目的はシュノーケリング。
 
良い感じの浜にシーカヤックを引き揚げると、水中眼鏡とシュノーケルを着け、PFDを着用して、プカリプカリと海中散歩。 フグ、ギザミ、そして体長10cm位の小さなイカの子供。

透明な海の上を漂っていると、聞こえてくるのは自分の吐く息と波の音だけ。 華やかな熱帯魚や大きな魚はいないけれど、楽園気分をたっぷりと堪能する事ができる。 まるで夏を独り占めした様な贅沢なひととき。 ああ、これぞ夏休み!
***
海から上がり、再びシーカヤックを漕いで海水浴場へと戻る。

荷物を運んでいると、地図を持ったカップルが近寄ってきて、男性の方が私に、 『あのう、地元の方ですか?』 私は苦笑いしながら、『いいえ、違うんです』

去年の夏もこの浜でキャンプしているとき、巡回に来た警察官に 『地元の監視員の方ですか?』 と聞かれたことがある。 しかも二人続けてである。
真っ黒に日焼けした坊主頭に漁師顔。 どうやら自然に、地元の空気に溶け込んでいるようだ。 なんだかうれしいな。
***
さて、そろそろお昼ご飯にするか。 いつものように、地元のバスで出雲大社の近くまで買い出しに行くつもり。
バス停まで行き、時刻を確かめて一旦浜に戻ろうとすると、家の日陰に座っていたおばあちゃんが、『バスに乗るん?』
『ええ、出雲まで買い出しに行こうと思うて』 『じゃあ、12時8分のバスがあるよ』 『そうみたいですね。 それに乗ろうと思うてます』
『どこからきたん』 『広島の呉です。 今日は浜でキャンプなんです』

車から、キャンプツーリングの時の買い出しの必需品であるソフトクーラーバッグを取り出し、再びバス停へ。
バス停の所に立っていると、反対側に居たさっきとは別のおばあちゃんが、『バスに乗るん?』 『ええ、12時8分の出雲行きへ』 『じゃあ、こっちの日陰で待っときんさい。 バスはあっちから来てこっちに行くんじゃから、乗るのはこっち側』 『はい。 ありがとうございます』

『それにしても暑いですね』 『ほんまよ。 お盆頃にはたいがい涼しゅうなるんじゃけど、今年はほんまに暑いねえ。 私しゃあ、もう80近いけど、こんなに暑いのは珍しいよ』
『どうですか? この辺りは昔と変わりました?』 『いやあ、なにも変わらんよ。 ただ人が減っていくだけ。 そしてバスの便も減りよる』

『最近、鹿はどうですか? 前はよう出てきて、お盆の時期にはお墓に供えた菊の花を食べるいうて聞きましたが』 『いやあ、花だけじゃない。 野菜もなんもかんも食べてしまう。 でも今はねえ、山に柵を拵えたから、ほとんど出てこんようになったよ。 でも山から大きな石が落ちて柵が壊れたらまたすぐに出てくるんじゃないかねえ』

↑ 鹿の角と顎の骨。

 
そうこうしているうちにバスが到着。 狭い山道を登り、峠を越えると更に狭いクネクネ道を下って行く。 車中では、地元のおばちゃんどうしが会話をしているのだが、独特のイントネーションがある出雲弁で、私にはほとんど聞き取れない。 まるで外国語を聞いているようだ。 こんな雰囲気を楽しめるのも、地元のバスならでは。

出雲大社近くのターミナルに到着。 片道400円である。 帰りのバスは、1時間後。 買い出しの時間は充分ある。
***
お昼ご飯に出雲蕎麦を食べようと思っていたのだが、いつも行くお店の前には行列が。 食べ物屋さんの行列がきらいな俺は、すぐに諦め、いつものスーパーへと向かう。

お昼ご飯用の『割り子そば』と夕食の食材、そして必需品のビール/発泡酒を購入。 特にビールは、持参したソフトクーラーに氷と共に入れて特別待遇!
 
昨年もこの『割り子そば』を食べたのだが、さすが出雲蕎麦の地元だけあって、スーパーで売っている蕎麦もレベルが高い。 B級グルメで大満足の私には、充分おいしく感じられる。

ターミナルに戻ると、猪目から一緒に乗ってきたおばあちゃんが居られた。 『え、ずっとここに居られたんですか?』
聞いてみると、出雲市内に用事があるので、このターミナルで出雲市行きのバスに乗り換えるというのだが、まだそのバスが来ていないとの事。 しばらくするとバスがやって来て、そのおばあちゃんは乗って行かれたが、バスの便数が少ないので、猪目に戻るのは夕方5時を過ぎるのだとか。

ということは、このおばあちゃんは、出雲市内に用事がある時は、昼から家を出て戻ってくるまで半日仕事。 しかもそのほとんどがバスに乗っているか待ち時間。
なんという状況であろうか。 週に何度出雲市まで出掛けるのか知らないが、俺なら耐えられないな。 高齢化が進む過疎地域における、自家用車が利用できない高齢者の移動に係る問題/課題をリアルに垣間見たような気がした。
***
クーラーの効いたバスの待合室に入り、クーラーバッグから『端麗_グリーンラベル』を取り出す。 もう1時半過ぎ。 腹減ったあ!
お昼ご飯は浜に戻ってからだが、暑い中買い出しに歩いた体が、そして喉が、冷えたビールを求めている。

誰もいない待合室。 『プシュッ』 『いただきまーす』 『ゴクッ、ゴクッ、ゴクーリ』 『グビリ、グビグビ』
氷水でキンキンに冷えたビールは最高だ! まさに真夏の楽園、至福の一時。 拝みたくなるくらい美味いビールであった。
***
バスに乗り、猪目海岸へと戻る。 バスから降りると、最初に声を掛けられたおばあちゃんがまだ日陰に座っていた。

『戻りました。 買い出しに行ってきたんですよ』 『そうね。 ここには店もないからねえ』
『おばあちゃん、ここでなにされよるんですか?』 『ここはねえ、日陰じゃろう。 それに海からの風が吹いてきて扇風機もいらん。 そしてこっち側は山と空の眺めがええ。 通る車のナンバーを見て、ああ、福岡から来とる、広島からじゃ、いうて思いよりゃあ飽きることもない。 じゃけえ、ここで一日涼みよるんよ』

『なるほど。 そりゃあええですね。 確かにこっちは眺めがええ』 『そうじゃろう。 それにあのV字の所の下がちょうど出雲大社になるんよ。 昔、出雲大社で火事があった時には、ちょうどあそこのV字の所から火と煙が上がりよった。 それから、ああ、あの下に出雲大社があるんじゃね、いうて分かったんよ』
***
浜に戻り、コットに腰掛け、ビールを飲みながら割り子そばのお昼ご飯。
  
食事を終えると、海で体を冷やしたり、散歩をしたり、コットに寝転んで音楽を聴いたり、のんびりまったりのサマーバケーション。
***
2010年8月10日(月) 朝、テントの中で目が覚める。 さすがに朝晩は多少涼しく、メッシュテントだと寝苦しくはなかった。
iPod-nanoで落語や音楽を聴きながら、日の出を待つ。
 
5時を過ぎ、最新の天気予報を確認すると、台風の影響で今日の夜から波が高くなり、所によっては雨や雷の予報。 うん、猪目でのキャンプはこの一泊だけにしよう。 朝のうちに、ちょっぴりお散歩ツーリングを楽しみ、それから別の場所に移動する事にしようか。

夜明けとともにテントから這い出し、荷物を片付け、コットを畳み、テントをしまう。 準備完了。
シーカヤックを浜に下ろし、曇りがちの中、朝の海に独り漕ぎ出した。
 
今日は、湾を出て左手の海岸線に沿って進む。 いくつもの海蝕洞をウオッチしながら、朝ののんびりお散歩ツーリング。 1時間ほど漕いで浜に戻り、シーカヤックを水洗いしてカートップした。 シャワーを浴び、着替えて準備完了。

さて、今日はどこ行こう?

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瀬戸内シーカヤック日記: 夏のシーカヤック教室、2010-(2)

2010年08月08日 | 旅するシーカヤック
2010年8月8日(日) 今日は、今年2回目となる、地元の島の子供達とのシーカヤック教室。

最高の晴天に恵まれ、少し風もあって涼しく、絶好のコンディション。
***
みんなと一緒にお昼ご飯を頂いた後、道具を準備してシーカヤック教室の始まりだ。
今日も希望者が多く、シーカヤックの数が足りないので、交代で乗ってもらう事になる。 俺が教えるシーカヤック教室に、こんなに参加してくれるなんて、本当に嬉しいことだ!

いつものようにライフジャケットのサイズを確認し、しっかりとフィッティングされている事を確認。
年齢や経験を考慮して船割りを決め、漕ぎ出した。

『そうそう、曲がりはじめたら反対側にブレーキを入れて』 『パドルはもうすこし広めに。 そう、肩幅くらいで持った方がいいよ』
『漕ぐ時は、引くだけじゃなくて反対の手で押すように。 うん、そうそう!』 『前の人と、後ろの人がリズムを合わせて』
 
『ようし、じゃああそこまで行ってUターンして戻ろう。 そして交代だ』 『大丈夫? 休んでしっかり水分を採ろうか』
***
小学校中学年以上のメンバーで、みんな楽しそうに漕いでいる。
初めてだと言っていた女の子3人組も、『海の上は気持ち良いねえ』 『楽しいねえ』って言いながらスイスイと漕いでいる。
先週、また漕ぎたいと言ってくれていた小学生の女の子も、ニコニコと最高の笑顔で、そして今日は慣れた手つきでしっかりと漕いでいる。 『スゴいスゴい。 上手くなったねえ』 すると、嬉しそうにまた笑顔が返ってくる。

この笑顔があるから、俺はこのシーカヤック教室が楽しみなんだ! ああ、今日も来て良かった。
***
『ようし、せっかくだから、港の出口まで行ってみようか。 しっかりと周囲を見て、先生に先に行ってもらうから、しっかり付いて行って』

まわりをワッチしながら港の出口へ。 そこからは、瀬戸内の開けた景色が一望できる。 うん、良い眺めだ!

『先生、あの島まで行きたーい』 『うん、今日はだめだけど、いつか行こうな』

今日はどんどん潮が引いていき、休憩の時にシーカヤックから降りて浜まで行くのも、泥に足が取られて歩くのが難しくなってきた。
安全確保が難しいと判断し、『先生。 今日は残念ですが、ここまでにしましょう。 ここを歩くのは大変だ』 『そうですね。 今日はこれで終りにしましょう』

すると子供達からは、『えー、まだ漕ぎたいよお』 『もう終りなの? 今日は短いねえ』との声も上がったが、安全第一。 仕方がない。

***
子供達は泥を落とすために先に風呂に入らせ、先生達と何艇ものシーカヤックを運んで往復。 『あー、この運搬が一番疲れた! でも先生、本当にお疲れさまでした!』

シーカヤックと道具を水洗いして片付け、シャワーを浴びさせていただいて、スッキリサッパリ。
その後は会議室で、シーカヤック教室担当の先生達としばし会話。

4年目となる来年は、こんな風にしたいですねえとか、こんなカリキュラムができるといいねえとか、このシーカヤック教室をよりよくするための意見やアイデアを交換し合う。 志を同じくするメンバーで夢を語り合う楽しい一時。

『ええ、来年もこの教室ができるように、子供達が希望してくれるとうれしいんですけどね』 『大丈夫だと思いますよ。 男の子も女の子も、みんな楽しんでくれてますし』
まだまだ夏は真っ盛り。 次回も安全第一で、そして来年にもつながるもっと楽しい教室になるよう、どんどん工夫してみよう! いやあ、楽しみだ!!!

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瀬戸内シーカヤック日記: あるくみるきく_地元の銭湯にて、『オコゼとワラビ』&『イカとツゲ』

2010年08月08日 | 旅するシーカヤック
2010年8月7日(土) 一日掛かった調べものと頭の整理を終え、家族で晩ご飯を食べると、無性に銭湯に行きたくなってきた。
この銭湯は、息子達が小学生と幼稚園だった15年以上前から時々通っており、昔は酒造りにも使われていたという井戸水の水風呂が人気のお風呂屋さん。 当時は週末になると、俺と長男が幼稚園児だった次男の左右の手をつなぎ、真ん中の次男が楽しそうにぶら下がりながら、三人で銭湯に通ったものである。

そんな彼らも20歳と18歳。 平日は仕事で、休日は友人達と過ごす時間で忙しくなった長男とは、最近、一緒に行動する事はほとんどなくなった。
駄目もとで銭湯に誘ってみると、珍しく『行ってもいいよ』との事。 今日も暑かったから、大きな風呂でゆったりと汗を流して、サッパリしたいらしい。
***
彼に回数券を一枚渡し、『じゃあ行こうか』

銭湯への道すがら、隣を歩く彼を見上げながら、時折交わす会話。 『仕事はどうなんや?』 『うん、いろいろ面倒なこともあるけど、なんとかやっとるよ。 連休明けに出図があるし、担当部品があるから忙しくなりそう』
『この前の出張はどうやった』 『あれは無事終わって、報告書も書いた』

昔は小さかったのにこんなに大きくなって、しかも今では働いて給料をもらっているなんて、未だになんだか不思議な感じである。 俺も歳をとるはずや!
***
銭湯に着くと、それぞれお気に入りの風呂へ。 俺の今日の目的は、ミストサウナで汗を出し、水風呂で体を冷やす事。 この銭湯のサウナと水風呂は人気があり、井戸水で当たりが柔らかい事もあって、それ目当てで来る常連さんも少なくない。

まずは普通のお風呂に入って体を温める。 うん、そろそろいいかな。
サウナのドアを開け、中に入ると、顔見知りの常連さん二人が居られた。 『こんにちは』と挨拶し、空いている一番奥へ。
ミストサウナだから50℃程度の温度だが、時間が経つと全身から徐々に汗が噴き出してくる。 汗とともに一日の疲れが出て行くようで、なんとも気持ちが良い。
10分程度汗を出すと、サウナから出て汗を流し、水風呂へザブリ。 『あー、気持ちええ』 井戸水だから、ぬるくもなく冷たすぎることもない、なんとも言えない快適な水温なのである。

サウナに入り、水風呂に浸かる。 これを何度も繰り返すと、次第に脳と体がシャキッとしてくる。
***
一人でサウナに入っていると、別の常連さんが入って来られた。 『あ、こんにちは。 ご無沙汰してます』 『お、来とったんか。 この時間に来るんは珍しいじゃないか』 『ええ、今日は晩ご飯を食べてから来たもんで』

『それにしても、よう焼けとるのお。 あんたあ、外の仕事じゃろう。 何しよるんな?』 苦笑いしながら、『いやあ、それが事務所の中での仕事なんですよ。 パソコンでいろんな資料を作りよります』

するとおじさんも笑いながら、『ほうか。 わしゃあ、外での仕事とばっかり思うとった』 『こがあに焼けとるんは、休みの日に海で遊びよるけえです。 海でカヌー、シーカヤックいうのを漕いで遊びよるんですよ』

『よう、自衛隊や漁師に間違われるんです』 『ほうじゃろう。 わしもあんたを最初に見た時は、漁師か思いよったわ。 人は見かけじゃ分からんのう』 この銭湯の近くには漁師町もあり、常連さんには本物の漁師さんも居られるのだ。 漁師と思われていたとはうれしい限り!

サウナの中で、しばし、その方が昔やっておられた造船所や製鉄所などでの設備関係の仕事のお話を伺う。

*** 『オコゼとワラビ』 ***

サウナから出て水風呂で体を冷やし、再びサウナへ。
先に入っておられた、良く日に焼けた常連のおじさんと話していると、気になる一言が。

『この前、祭りが四日間あったんよ。 でもわしは昼間に酒を飲むのは好きじゃない。 みんな昼間から飲みよったが、わしは夜だけみんなと一緒に酒を飲んだ』
もしかして。。。 『その祭りって、なんですか?』 『管絃祭よ』 やっぱり! うん、やはりこの方こそ、本物の漁師さんだったんだ!
そしてあの漕船にも関わっておられるという! なんとも嬉しい偶然。

『じゃあ、延崎の方ですか?』 『ほうよ。 わしゃあもう55で歳じゃけえ行きとうないいうんじゃが、櫓を押すのを若いやつに教えてくれいうて、連れて行かれるんよ』

『ほんま、わしも漕船と櫓を見せてもらいましたが、確かにあの櫓は大きいですもんねえ』 『前の方の人間は、技術も何ものうても、力で押しゃあええ。 でも、後ろの櫓は舵取りの役目もあるし、鳥居の奥の狭い所でしっかり回らんといけんから、経験があるもんが居らにゃあいけん』

『今の若い奴らは、あーじゃこーじゃ理屈ばっかりいうて、何十年かしたら櫓じゃのうてエンジンで漕船を走らすようになるかもしれんのう』と笑う。 『まあ、儂らの目の黒いうちはそがあなこたあさしゃあへんが』 『ほらあほうですよ。 長い伝統があるんじゃけえ、手漕ぎでなかったらいかんです』
***
そうこうしていると、別の常連さんが入って来られ、別の話題に。 これがまた興味深い話なので、私も混ぜていただく。

『そうよ。 オコゼに刺されたいうたら、おばちゃんが、【仕方ないねえ、あれ持ってきんさい】いうてワラビの干したのを持ってきて、鍋でグラグラ煮立てて、【さされた指をこの湯に浸けときんさい】いうて言われよった』

『今はええ注射があるが、昔はそがあなもなあ無いけん、ワラビを使いよった。 漁師の船には、ワラビの干したんを必ず持っとったもんよ』 『早いもんなら1時間、普通で2時間くらい浸けとったら痛みがとれる。 その間は動かれんが、【ズーッと痛いのと、これに2時間浸けとくんとどっちがええんね】いうておばちゃんに怒られるけえ、じっとしとったもんよ』

『それにしても、ワラビが効くいうて、どうやって見つけたんかのう。 昔の人は偉いわい』

*** 『イカ籠とツゲの木』 ***

『コウイカを獲る籠がある。 あの中にはツゲの木を入れるんよ。 そしたらイカがようけ獲れる』
『おそらく、昔の人はいろんな木を入れて試したんじゃろう思う。 竹を入れたり、他の木を入れたり。 でも結局、ツゲの木が一番ええ。 よう見つけたもんよ』 『すごいですね。 まあ、昔の人は時間はたっぷりあったんでしょうから、いろいろ試したんですね』 『ほうじゃろうのう』

『実際、海の中でツゲの木を見たら、その葉がイカの卵に見える。 じゃけえ、イカが入ってくるんじゃろう』 『イカが入ると、蟹やエビも入る。 そしたら蟹を狙って鯛も入ってくる。 鯛なんか、籠の入口より大きいのが入るんよ。 じゃけえ、入ったら出られんようになる』

『昔はイカを近所に持って行ったら、そのお返しにいうてビールやタバコをくれよった。 今じゃあ、イカ持ってってもビールもタバコもくれんよ。 物価は上がっても魚の値段は昔と変わらん』
『何十年も前。 当時のサラリーマンの月給が5万くらいのころ、わしらは漁で月に30万くらい儲けよった。 仲間と飲みに行って、キャバレーをハシゴしても、2万ありゃあベロベロになるまで飲めよったもんよ』 『今でも、イカが獲れる漁はそんなに減っちゃおらんけど、値段が変わらんけえ、そがあに儲かりゃせん』

私が、『前に情島の人から、サワラ漁の事を聞きました。 昔はえかったらしいですねえ』と言うと、『そうそう。 昔はサワラ漁がえかったよ。 あの情島の沖がええ漁場で』 『近い所で漁ができるけえ、油もちょっとしか要らんかった。 今じゃあ遠くまで、ドラム缶くらい油を使うて獲りに行くけえ、油代ばっかり掛かる』

『それにしても、あと何十年かしたら大変な時代になるんじゃないかのう。 電気も油も使えんようになって、昔みたいな生活に戻る。 今の若い奴らは、そがあな暮らしはできゃあせん。 ほんま、大変な時代が来る。 わしゃあ、そがあな気がするわい』

***

常連さんから思わぬ興味深いお話を聞くことができ、とても楽しい一時を過ごした。 お風呂で体をあたため、ミストサウナで汗を流し、井戸水の水風呂で体を冷やして体のコンディションもばっちりだ。

『さあて、もう少ししたら帰るで』 長男に声を掛け、仕上げの水風呂に入った。

地元の銭湯でのはだかの付き合い。 体と心がくつろぐ、最高の社交場である。 これも、いつまでも残っていて欲しいものの一つだ。

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瀬戸内シーカヤック日記: 3年目となる夏のシーカヤック教室

2010年08月01日 | 旅するシーカヤック
2010年8月1日(日) 今日は、私にとって真夏の恒例となった、地元の島の子供達を対象とするシーカヤック教室の日。
よく会社では、『夏が来たねえ。 ようやくあんたのシーズンじゃないの!』って言われるのだが、その時にはこう答えている。 『いやあ、それが逆なんです。 真夏は暑くて漕ぐ気がしないし、海水浴が始まるのでシーカヤックを出せる浜も限られる。 だから、8月は基本的にシーズンオフなんですよ』。 するとほとんどの人は、『え、そうなんだ』と驚かれるのだ。

でも逆に、俺に言わせると、夏がキャンプシーズンなんていう事が信じられない。

一年中漕いでいる人なら分かると思うが、この暑い夏に長距離ツーリングなんてできる訳がない。 なんといっても暑すぎて暑すぎて。 海に出ても、漕ぐ時間より海に浸かっている時間の方が長いんじゃないだろうか? そしてテントの中で寝ようにも、汗だくだくで寝苦しい。 陸には蚊やアブは居るし、海にはクラゲ。
そんなこんなで、海水浴シーズンが始まると、キャンプツーリングを基本とする私のシーカヤックシーズンは、もちろん例外はあるが特に瀬戸内では『旅するシーカヤック』は基本的にOFF。
そんな時期にキャンプツーリングに行くとなると、その目的は、シュノーケリング&BEER堪能_なんちゃってテント泊ツーリングなのだ。

***
そんな夏のシーズンオフ。 様々な偶然の出会いをきっかけに、地元にある島の子供達を対象にした、シーカヤック教室をボランティアで始めたのが3年前。 せっかく瀬戸内海のすぐ傍に住んでいるのだから、シーカヤックというものを知ってもらい、少しでも海の楽しさと厳しさを知って欲しいと思っている。
幸運な事に、今年もシーカヤック教室のお手伝いをさせていただけるようだ。 うれしいな。

家にあるPFDとパドル、安全装備を掻き集め、車に積み込んで島へと向かう。

お昼ご飯を一緒に食べさせていただいたあと、今年初めての教室を前に、カヤックと装備を点検する。PFDのジッパーやバックルを確認し、カヤックの船底の状態をチェック。 3年前に寄付した、アクアテラのスペクトラムとkiwi2も、まだまだ使えそうである。 うん、これなら大丈夫!
***
午後1時。 2010年のシーカヤック教室の始まりである。
みんなで手分けをしてシーカヤックと道具を運ぶ。 挨拶をして、カヤックの構造や道具を説明。 特にPFDについては、いざと言う時の重要性と、しっかりとバックルを締めていないと、着用している意味がない事をお話し、着けたPFDを点検して回る。

準備体操を終えると順番にカヤックに乗り込み、シーカヤック教室の開始である。
***
お昼ご飯の前に先生とお話しした時は、4人の子供達が参加を希望しているとの事だったのだが、最終的には先生二人を合わせて、10人を超える参加者となった。 うれしいことだ。
カヤックを漕ぐのが初めての子供がほとんどなのだが、今回は、中学生と高校生がメインなので、しっかり漕げそうだ。

人数が多くなったため、交代で乗ってもらいながら、漕ぎかたを簡単にレクチャー。 私にとっては、漕ぎ方などのテクニックよりは、子供達の安全確保が第一の任務なので、先生と協力しながらしっかり全体をワッチ。
***
男子も女子も、楽しそうに漕いでいるが、その中の一人が、『先生、漕ぐのはここだけ?』と聞いてきた。 彼女は今回が初めてのパドリングだと聞いていたので、『どう、慣れてきた?』と聞いてみると、『うん、大丈夫。 もっとあっちまで行ってみたい』との事。

『OK! じゃあ、皆がそろったらもう少し奥まで行ってみようか』 『先生。 せっかくだから、もう少し奥まで漕いでみましょう。 そして陸上班の先生は、浮きを持ってサポートをお願いします』
 
***
防波堤を回り、風の変化に気を配りながら少し奥まで漕いでみる。 子供達は楽しそうだ。 『どう? こっちまで来ると気持ちええやろ』 『うん、気持ち良いねえ!』

先生がスターン側を漕いでいるタンデムカヤックに乗っている小学生の女の子は、後ろの先生に『ねえ、明日もカヤック教室あるの?』と聞いている。 すると先生は、『明日はないよ。 来週』 『えー』
その女の子に、『漕ぐの上手くなったね。 楽しい?』と聞いてみると、『うん、楽しい』 『来週も一緒に漕ごうか?』 すると満面の笑顔で、『うん、漕ぐー』との返事。

うれしいなあ! こんな子供達の笑顔で、毎年どれだけ俺が元気をもらっている事か。
***
午後3時。 無事に今年最初のシーカヤック教室が無事に終了した。 安全確保の役目を無事に終え、ホッとする一時。

純粋に、実践版シーカヤックアカデミーとして開催された、想い出深い <第1次瀬戸内カヤック横断隊> に参加させていただき、そこから学び、そして深く心に刻まれた『瀬戸内海洋文化の復興、創造そして継承』

一介のサラリーマンカヤッカーであり、大それた事はできないが、自分ができる範囲で地道に実践して行きたいと思っている。 その3本柱が、『あるくみるきく_旅するシーカヤック』の実践と記録、熱い大崎衆との『旅する櫂伝馬』、そして『地元の島の子供達とのシーカヤック教室』。
いずれのテーマも、偶然を装った必然の出会いに恵まれ、志ある人達の支えで始まったもの。 その全てが、今となってはまさにライフワークだと感じている。

『無い物ねだり』をするのではなく、『在るもの探し』をして、自分なりの志を持ってそれを実践し、継続していく事。 そんな小さな積み重ねが大事なのではないかと、40代半ばを過ぎてようやく分かるようになってきた気がする。

2010年のシーカヤック教室が始まった。 今年はどれだけの笑顔に合えるだろうか。 楽しみだ!

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